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異国のアイドル文化?

 

 ホットプレイン商会のコンサートでは、新グループのお披露目を兼ねて、商会に所属するグループが複数参加していた。

 司会進行はホットプレイン商会のトップアイドル。前世でいうARAREみたいな存在だ。

 紹介を受けて出てきた新グループは、全員が仮面を被って顔を隠す姿に斬新なアイデアだと驚いた。まるですとぴりみたいだ。

 さらにBTMのような隣国からのアイドルもサプライズで招待しており、彼らはリンダル王国でも人気があった。


 エスタはベラバイの登場を見守った後も会場に残り、ブツブツと呟きながら職業病を発揮して分析していた。


「失礼」


 一幕が終わり、休憩が入ると数歩離れた場所で同じように立ち見をしていた男性に声をかけられた。


「先程呟いていた、あーとかびーとかすーとは何のことでしょう?」


 慌てて口を塞ぐ。無意識に声に出ていたようだ。


「すみません。うるさかったですね」

「いえ。業界にお詳しいようなので純粋に教えていただきたいなと思いまして」


 ちょうど通路を商会のスタッフが通りかかり、エスタに会釈した。


「ファンの方かと思ったら、関係者でしたか」

「マネージャーをしていました。もうやめましたが」


 どうみても訳ありのエスタに、エリオットは気にする様子もなく話を続けた。


「それで、あーとびーとすーとはなんのことでしょう」

「えーと、異国のアイドルグループのことです」


 転生者だと説明するのも面倒で誤魔化した。


「異国のアイドル文化にも詳しいとは素晴らしい! あ、私エリオットと申します。小さな商会を営んでおりまして、今度仲間と共にアイドルグループを立ち上げるのです」


 男性が珍しいと思ったら、敵情視察のようだ。


「よろしければ異国のアイドル文化のお話を聞かせてもらえませんか?」

「え」

「この国にはない、新しい視点から見た景色を参考にさせていただきたいのです」


 丁寧な話し方に油断していたが、よく見ると服装はあまり高価なものではない。修繕のあとも見られる。

 顔は整っていて、銀縁の眼鏡が理知的な印象を与える。清潔感もあり悪い人のようには見えない。


「……いいですよ」

「ありがとうございます」


 男性が近づくと、眼鏡の銀フレームが照明でキラリと光った。


「コンサートホールを満席にするとは。さすがホットプレイン商会ですね」


 明日の新聞には、リンダル王国初のコンサートホールを満員にした商会として、大々的に報じられるだろう。


「満席は今回が初です。複数グループや異国アイドルの出演で集客できたのでしょう。箱推しにとっては嬉しい催しです」

「箱推し?」

「あ。推しとは自分が特に応援したいアイドルのことで、推し活はアイドルを応援する活動のことです」

「ふむ」

「箱は同じ商会が手掛けているグループのことを言います。商会の建物を箱に模して、その中のグループ全部応援しているファンのことを箱推しといいます」

「なるほど。なんとなく理解できました。留学先はこちらよりもアイドル文化が盛んな国だったのですね」

「え、ええ。女性のアイドルグループもあり、国民のほとんどはなにかしらのオタクでした」


 ドルオタだけじゃないけど。異世界だけど。


「それは素晴らしい。我々にとっての理想郷ですね」

「理想郷、なのかな……」

「?」

「外と中から見る世界ではまるで違いました」


 ファンにはアイドルが楽しそうで輝いて見えたことだろう。

 しかしアイドルの子達にとっては楽しいだけではない。結局は人気主義で売れたもん勝ち。いくつものグループがデビューしては結果を残せず去っていく姿を、この目で何度も見てきた。

 青春をつぎ込んでも、身を捧げても、夢破れて泣き崩れる少年達。彼らにとってこれが正しい道だったのかと疑問を抱かずにはいられなかった。


「話を戻しましょうか。そのオタク人口が足りない我が国でも、一つのグループでコンサートホールを満席にすることは可能でしょうか?」


 エリオットは新たにアイドルグループを作るといった。そして商会も大きくはないと。その上での質問のようだが。


「現トップアイドルでも難しいと思います」

「それはなぜ?」

「……戦略的なことをお求めなら私は専門外です」

「あ、すみません。お詳しいのでつい」

「……」

「私の商会はまだ小さく、所属しているアイドルグループは一組だけなので、このように広い場所でコンサートを開けるかなと思いまして」

「今後グループを増やしていけば」

「増やす予定はないです」


 被せるように断言する。これまでと違い、言葉に少し刺があるように感じた。

 しかし次の瞬間には物腰柔らかな態度に戻っていた。


「聞き方を変えます。アイドル文化が盛んだった異国と比べて、この国のアイドルに足りないものはなんだと思います?」

「足りない……?」

「なんでもいいです。気付いたことならなんでも」

「そうですね……。色がないかな」

「色ですか?」

「この国のアイドルを色に例えるなら、グループ毎に全員で白、黒とかの単色なんですよ」


 今一番人気のグループは、全員が明るく爽やかなメンバー“だけ”で構成されている。ベラバイは全員が俺様系の高身長。他のグループも全員が仮面を被ったり、ダンスをメインにしたりと、グループ毎に単色なのだ。


「コンセプトは大事ですが、個々のメンバーのキャラ立ちというか、個性がないとファン層が限られてしまうんです。裾野を広くして受け入れ範囲を拡大したほうがファンは増えます。それに、メンバー各々の色味があってこそステージで一際輝くと思うんです」

「ほぉ。グループの中で色味を出せば、自ずとファンの数も多くなるわけですね」

「あとは、アイドルはファンに誠実でなければなりません」

「誠実ねぇ……」


 また、エリオットの雰囲気が変わった。

 そこで2幕開演の鐘が鳴る。


「あっという間でしたね。とても有意義な時間でした」

「こちらこそ。楽しかったです」

「この後予定はありますか? お話を聞かせていただいたお礼に食事をご馳走したいのですが」

「すみません。先約がありますので」

「そうですか。残念です」


「ではまた機会があれば」と挨拶をして、エリオットは去っていった。


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