別れ
リンダル王国の首都にあるコンサートホールは、演奏会やオペラなどに使われるが、最近では大衆人気にあやかり、アイドルグループの催し物に使われることもあった。
マッドからチケットを譲られたエスタは、しばらく悩んだ末にカフェを出てコンサートホールへ向かった。
マッドの言うとおり、ロズリーの怪我はずっと心に引っ掛かっていた。
意を決して会場に入ると、見知った受付やスタッフから驚いた顔を向けられたが、入場を止められることはなかった。
客席は満席で、舞台上ではアイドルが開会の挨拶に盛り上がっていた。
すでに開演していたので、邪魔にならないよう2階席後方の通路で立ち見をする。
ファンが歓声をあげてアイドル達に酔いしれる中、エスタだけは静かに舞台を見つめていた。
ベラバイは参加グループの一番手で登場した。
無意識に体が舞台に傾ぐ。
以前、ロズリーが観客の顔は意外と見えるのだと話していたことがあった。
会いたくないと言った彼の、邪魔にならないよう慌てて仰け反る。
自信に満ち溢れた、色気のあるロズリーのパフォーマンス。
その姿に胸が締め付けられた。
エスタが抜けたからといって、メンバーは憔悴して立ち止まっているわけではない。
いつも通りの笑顔に安心した反面、どうしても寂しさが込み上げて胸が傷んだ。
涙が一粒こぼれ落ちる。
「よかった……」
そう思うのもまた、本心だった。