練習生
アイドルを目指している16歳の少年リアンは、大手ホットプレイン商会のコンサートに来ていた。
リアンは商会に所属してないが、知人の紹介でバックダンサーとして参加予定である。
ところが、会場に着いたがコンサートホールが広く迷ってしまった。
控え室を探して階段を上がっていたところ、言い争う声がして顔を上げた。
すると、突然目の前に女性が降ってきたのだから驚きだ。
リアンは迷わず一歩を踏み出して両腕を広げた。
女性の体がぶつかる直前、しっかりと受け止めて膝を軽く曲げ、衝撃を和らげた。
しかし成長途中の体では堪えきれずに、ドサッと尻餅を付いてしまった。
「ハッ、ハッ、ハッーー」
互いの息が混ざり合う。
リアンは緊張した声で、「大丈夫か?」と囁いた。
見たところ怪我は無さそうだ。
ところが、安心したのも束の間、女性は突如頭を抑えて苦痛の悲鳴を上げた。
体から力が抜けて、そのまま意識を失ってしまう。
三階から言い争っていた男が慌てて駆け降り、リアンの腕から女性を奪って抱き上げた。
よく見れば、倒れた女性は偶然にもリアンが練習生時代に一度会ったことのある人だった。
それもあってリアンは、救護室に運ばれる女性が心配で付いていくことにした。
「エスタ! エスタ! おい医者はまだか!」
意識のないエスタに取り乱して声をかける男は、ベラバイのエース的存在であるロズリー。
その背後には部下を心配するマネジメント部門の室長がいた。
「ロズリーもうすぐ出番だ。ここはわたしに任せて戻るんだ」
「っ無理だ。こんなエスタを置いて舞台に上がれるわけない……!」
無事を祈るようにエスタの手を握り、額を寄せるロズリー。
室長に促されても頑なにベッドのそばから離れないロズリーに、リアンは苛立ってボソリと呟いた。
「アイドルなら舞台に穴空けるなよ」
「……あ?」
ロズリーは立ち上がり、リアンの目の前まで来ると眉間にシワを寄せて見下ろした。
「練習生か? なめた口聞きやがって」
「そっちこそ。アイドルのくせにプロ意識が低いんだな」
「なんだとーー」
「……ん」
「!」
ベッドで寝ていたエスタが意識を取り戻した。
「エスタ! 俺が見えるか!? 怪我はないか!?」
リアンも遠慮がちに顔を出す。
「エスタ!」
「……ふ、ふ」
「『ふ』?」
「ふざけるなぁぁぁー!!」
勢いよく起き上がったエスタ。その勢いのまま、ロズリーの顔を拳でおもいっきりぶん殴った。
リアンの横を、ロズリーが華麗にふっ飛んでいった。