第四話
指定していた時間から10分が過ぎた頃、花野井さんは校舎裏に颯爽と現れた。
彼女のその満ち溢れた自信のせいか、
「あれ…? もしかして俺が時間間違えてたのかな」
などという疑問まで浮かんでしまう。
しかし、遅刻したのは花野井さんだ。それだけは間違いない。
花野井さんは俺と目を合わせるなり。
「……委員会が長引いたのよ」
そんな言い訳を口にする。
いや、まあ良いんだけどね?
俺からしたら来てくれるだけでもありがたいし……。
「それで、話ってなにかしら? パパ活をやめるってこと以外なら聞いてあげるわ」
「まじっすか!? それじゃあ早速……」
俺は花野井さんと向かい合い、その中間地点に手を差し出す。
「……?」
怪訝な顔をしてそれを見つめる花野井さんに、俺は。
「好きです! 俺と付き合ってくらしゃい!」
噛んだ_____。
何で俺はこう、残念なんだ……肝心なところでいつも失敗する。
でも、言えた。
ようやく口にすることができたという達成感に、胸がいっぱいになる。
しかし。
「……ごめんなさい」
秒で振られてしまった……。
「な、なんで……」
「なんでって……アタナのこと好きじゃないからよ……ていうか存在も今日認識したばかりだし」
「今日まで俺のこと知らなかったのか!?」
「……そうね。それは本当にごめんなさい」
謝らないでくれ、虚しくなる。
「それに私、特定の誰かと付き合うつもりはないわ。パパ活があるし」
「パパ活をやめる、というのは……」
「嫌に決まってるでしょ。……私にはこれしかないんだから」
花野井さんは俺から顔を背けると、なにやら悲しそうな表情になる。
「花野井さん……?」
「……なんでもないわ」
上手く聞き取れなかったので聞き返したのだが、流されてしまった。
花野井さんは俺に背を向け、強制的に会話をストップさせる。
「用がそれだけなら私は帰らせてもらうわ。それじゃあ」
そのまま、校舎へと戻っていってしまう。
「……………」
この時、俺は落ち込んでいたのではない。
決意していたのだ。
今回は振られた……しかし、それで終わりというわけではない。
「彼女が俺のことを認識してくれた」
それだけでも大きな成果だ。
花野井さんのパパ活は何がなんでもやめさせる。
そしてそのために、俺のことを好きになってもらう。
誰か特定の人を好きになる___それがパパ活をやめさせる、最も手っ取り早い方法だと思うからだ。
この方法ならば、
「花野井さんにパパ活をやめさせること」
「花野井さんと付き合うこと」
二つの目的を同時に達成することができる。
「ムッフッフッフッ、ムッフッフッフッフ……」
俺の喉から気持ちの悪い笑い声が漏れ出るのとほぼ同時。
花野井さんの背筋がブルリ、と震えた。
「……さぶっ。なにかしら、何か悪寒が……。真夏のはずなのに……」
「……………」
その悪寒はきっと俺のせいではない。そう思うことにしよう。