第十一話
放課後。
ほとんどの生徒が帰宅してしまい、教室には俺と花野井さんの二人しかいない。
そんな状況の中、大きなため息が一つ。俺の口から発されたものだ。
俺は返却されたテストの解答用紙を改めて眺める。
点数は___0点。
寝てなかったんだとか、今回は範囲が広すぎるだとか、そんな言い訳を口にする気力もない。
それをしたところで点数が上がるわけもないし、何より補講がなくなるわけでもない。
「けっこう勉強したんだけどな……」と俺はガックリと肩を落とす。
無駄になってしまったチケットを手の中でグシャリ、と握りつぶした。
せっかくのデートするチャンスをこんなふうに棒に振るなんて……俺はなんて馬鹿な奴なんだ。
テスト用紙を眺めては落ち込んで、眺めては落ち込んでを繰り返している俺に、隣に座る花野井さんは何でもないことのように声をかけた。
「それで、映画はいつ行くのかしら? 今週の土日だったら空いているけれど」
「……は、え?」
予想外の言葉に、思わず聞き返してしまう。
「どうかしたの?」
訝しげに俺を見つめる花野井さん。
「いやだって、俺、赤点回避できなかったし……。チケットも無駄に……」
「別にその日じゃなきゃいけない理由なんてないでしょう。別日に見ればいいじゃない」
「なんでそこまで……」
「頑張っていたのは知ってるから。これで何の見返りもないなんて、私もそこまでの鬼ではないわよ」
帰り支度が終わったのか、花野井さんはカバンを手に取り立ち上がる。
「それとも、もしかしてもう行く気がなくなったのかしら?」
「いや、それはない」
断じてない。それだけは絶対に。
「それじゃあ、日程は決めておきなさい。また明日ね」
「……お、おう」
そう言って先を歩いていく花野井さんの背中を見て。
「かっけえ」
素直にそう思ってしまった。
また一段と、惚れ込んでしまったのかもしれない。