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清明1 なんかRTA(リアルタイムアタック)



 花曇りのリコピン村。

 万物は流転し、大地から生まれしモノは大地に還るが理。限界突破を果たしてスーパーの名を戴くシゲルも例外ではなく、要するにバナナ豊作です。実り早っ。


 ただしいくら精霊の加護だの魔力のなんやかんやがあるとしても、美味しい作物実りまくり、なんて都合の良いハナシはなく、生育に合わせて土地が急速に痩せていく現象が確認されており、とりあえず村の衆は森の土を運んで対処している。健康的な土作りが喫緊の課題となりそう。


 それでも成果は成果。今は村中お祭りムードに沸いていて、セナも庭に生えた二メートルの桃の木を見上げてムフンと鼻息を荒げた。あと何故かスーパーシゲルの眠る墓地からは芽が出たあと、バナナではなく知らない木に変わり、何の果実も成らなくてセナをガッカリさせた。


 まぁ実験に失敗はつきもの。試行錯誤の日々は続くよどこまでも。甘えてきたから撫でたらしつこいと噛みつく猫よりセナの切り替えは早い。シャー。


 最近セナが興味を持っているのは木工。いつの間にか実のスーパーシゲルや花や種のサチコオオトリすら超えて、木に魔力を通して強化出来るようになっていた。精霊のおかげだが相変わらず誰も知らない。


 ノコギリ? 斧? 三歳は刃物を持ちません。かといって枝や丸太の形を変えるほどのチカラはセナにはない。骨は鏃に出来て枝は加工出来ない、その違いは謎。頑張ればイケるかもしれない。もっと大きくなればきっとイケる。だからナニ? 全力で魔力を消費して木の形を変えるって、泣きぼくろが気に入らないから整形手術くらい感性ズレてね? ファンデで隠せよ、なんならセクシーな長所だよウラヤマー、てブーイングを浴びるといい。


 セナには考える頭があるエッヘン。

 土は固めると好きな形に変えられる。素焼きの壺など変えられた形をさらに変えるのは難しい。枝や丸太はココ。じゃあ……、固める前の土と同じにすれば?


 今日も母に手を引かれてマイナスイオンの精霊でもいそうな森をお散歩。

 食べられる野草を教わり、触っちゃダメな毒草を教わり、特にキノコは念入りに教わり、しばらく復習を兼ねたクイズで遊んだあと、母が採取に集中してセナが手持ち無沙汰になる今がチャンス。


 「遠くに行っちゃダメよ」

 「あいっ」


 セナはトテトテ歩いて倒木に近付いた。倒木周りの茂みには蛇が隠れていることもあって危険ではあるが、その程度で臆するほどリコピン村の住人はヌルくない。むしろ浅い場所で遭遇する軽い危険は早めに経験しまくっとけ、がこの地域の教育方針といってもいい。


 もちろんセナも平気。数メートルの範囲を把握するなど造作もない。毒蛇なんかに遅れは取らない。

 さて、倒木に掌をつけて魔力波を発射。反響から大きな幼虫などは中にいないことを確認。セナは誰に教わらなくてもなんちゃってソナー探知を編み出していた。というか村でも一部の人しか使えない技術だったりするが、やはり誰も気付いてない。


 「カブトムシのあかちゃーん、おきてますかー。カブトのうえはー……、ぐそく、グソク、ダイオウグソクムシさまのおなーりー、ははぁー」


 大きな虫さんに迷惑をかけないことを確認したら、魔力の糸を透明に変えて木に侵入させる。透明とは実際の色ではなく、セナなりの細くするイメージだ。


 魔力の糸は魔力的な干渉をするのは当たり前として、物理的にも干渉している。土や骨の内部に通す糸は極めて細くしているから可能となる。しかし、動物や植物など生きているモノの内部には干渉出来ない。先程の話と同じく頑張ればイケるとしても消耗が激しすぎる。対象の魔力に弾かれるらしい。もっとも、中に無抵抗に干渉出来たらドラゴンでも瞬殺出来る反則技になるが。


 倒木も以前は干渉出来なかった。生きてはいなくても何かが残っているらしい。今は何故か出来る。植物と仲良くなった気がする。あのワンワンのおかげか? セナは少し正解に近付きすぐ忘れた。ちなみに同じタイミングで骨も干渉出来ないから出来るに変わったのだが、出来ないころに試したことがないからセナは気付いていない。つまり正解は植物との親和性というより、モノ作りが得意なサンド並みに魔力の質が上がった、となる。

 

 骨と同じ要領で魔力の糸を倒木に入れて、水気を抜いてからシェイク。粉々にした。

 風に吹き飛ばされないよう粉の塊を魔力で包み、土で固い三角錐を作った時のように手を使わずこねくり回して造形してみた。

 

 箱の車。高さはセナの腰辺り。ただの箱の下に円筒つけて、軸を通して車輪を二つくっつけた、厚さの薄い総木製の荷車。おもちゃのようだが、幼子が作ったのだから十分凄い。

 ただ、セナは少し不満顔。当然といえば当然なのだが、土で作った三角錐と同じく時間経過で粉々に戻る、という結果が感覚で分かったからだ。骨の鏃も粉からは作れないと最初から分かっていたはずだがソレはソレ。なんとなく木は上手くいく気がしていたから実験は失敗だった。


 「まぁっ、あらまぁ、セナちゃん何作ったの? お母さんにも見せてちょうだい」


 ハイテンションママにかまわれながら、マイペースなセナは箱に雑草をポイポイ入れていく。今日の実験はコチラが本命なのですヒヒヒ。マッドサイエンティストなセナは精一杯ワルぶっている。


 セナは魚醤が好き。海沿いの村で塩と魚醤が作られ、リコピン村を含む周辺の集落と物々交換の取り引きがあって、年に数回、照焼きチキンを食べられる日がセナ的国民の祝日といってもいい。これ以上おめでたい案件は知らない。


 そんな魚醤がどうやって作られるか、父から聞いたセナは驚いた。

 樽に小魚と塩をぶち込んで放置していれば出来るらしい。雑っ。

 そういえば酒も、樽に果実の絞り汁をぶち込んで放置していれば出来るとか。

 フムフムホホウ、てことは……、箱に草ぶち込んで放置すれば何かしら良いモノ出来ます証明終了眼鏡クイっ。

 セナは三段、否、三歳論法を閃いた。


 「「カーラースー、なぜなーくー? キーミーはー、なぜしゃべるー? オウム返しのじょーいごかーん ツバメ返しの派生技ー 秘技秘技秘技、カラス返しいっぽーん……」」


 緑溢れるアーケードをくぐり、木漏れ日に笑顔を輝かせ、母子でおてて繋いで妙に哲学的な童謡を歌いながら村へ。

 左手は母の右手、右手は魔力の紐が伸びて小さな荷車を引っ張る。

 途中、サンドが荷車をガン見しながらオーマイガーとか叫んでたのはなんなのか、セナは首を傾げたけどすぐに忘れた。


 帰宅するとうがい手洗いしてから庭へ。偉いけど手洗いの意味っ。

 セナは地面に両手をつけて魔力注入。自分が隠れられそうな穴を掘り、またぐように穴の上まで荷車を押して、薄い板を形成していた魔力を抜いた。

 またたく間に荷車はおがくずに変わり、こんもり積まれた雑草と一緒に穴へ落下。

 ついでとばかりになんとなく、土が喜ぶらしい粉状の骨も振りかけて、穴にした分周囲にどけた土を被せてフタにして完成。


 村に入ってからずっと後ろから覗いて何かに納得して頷いているシノビマスター、チュンリお姉さんに挨拶してお家へ。今日もいっぱい遊んだなぁ。まだ午前の部だけど。

 穴の中身を放置して美味しい何かが出来るとまでは思ってない。雑草主体だし。

 でもワンチャン、ドクロマークの攻撃アイテムくらいは出来そうな。マッドなサイエンティストはそれぐらい常備してないとねヒヒヒ。


 セナは夢を膨らませながらお昼寝タイムに突入した。ちなみに基本は一日二食、朝と夕です。子供はおやつあり。


 のちにチュンリ経由で上質な肥料が完成して普及。

 痩せた農地問題クリアタイム二時間三分(非公式)。 


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