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春分1 先取りが過ぎたるは及パねぇ



 山に半分隠れる小さな月は赤く、天頂を戴く大きな月は青く、どちらも淡い(かすみ)越しに地上を照らす朧月夜。

 不吉な予感の漂う妖しい夜景だが、リコピン村の面々は気にしない。


 エンジョイ&エキサイティング


 ワンマンアーミー、黒犬騎士団と呼ばれた初代村長の信条は今も村に息づく。

 村中央の広場にキャンプファイヤーを灯し、みんなで囲んで酒を飲み交わしていた。

 酒造りの名人であるリコピン村のスイッチヒッター、リキュウルの元に村人が採取した果物が集まり、完成したのならそりゃ飲ミニケーション。


 「無事に冬を越せたねぇ。目出度いことじゃて」

 「ですねぇ」


 村長と長老格のミハイルは椅子代わりの丸太に並んで腰掛け、炎のそばで暖を取りながら、滅多に味わえない酒に歓声を上げる村人たちを眺めてしみじみと呟いた。

 ツワモノだらけのリコピン村でも毎年冬は命懸けだ。自然は誰にも等しく厳しい。

 

 身体強化がデフォだから凍死はあまりないが、ゼロではない。寒さや病気の耐性が低めの乳幼児と老人から犠牲になっていく。


 なにより食料事情に誰もが心身を蝕まれる。冬前にせっせと備蓄するからそうそうカツカツにはならないが、例えば食料の残りが三十日分あり、例年通りならばあと十日ほどで春の先触れを感じるはずだとして、周りは雪がしんしんと降り積もる夜に楽観的でいられるだろうか? ちなみにリコピン村を含めたこの地域にまだ暦はなく、季節の変化を感じながらノリで一年を設定している。


 「今後はずっと楽になるかもですね。この春は何度驚いたのやら」

 「フォッフォッ、面白い子が現れたねぇ」


 農耕の成果次第で今後は劇的に変わる。そしてまだ収穫などは先なのに誰も成果を疑っていない。一足早く開花したのは椿。今は花を絞って油を作ったり、湯通ししておひたしなどの活用にとどまるが、村人が最も大量に植えてというか埋めているのはご存知スーパーシゲルだ。


 「食料に余裕が出来ると人を増やせる」


 村長が万感の思いを込めて呟き、ミハイルもソっと頷く。

 狩猟採取の弱点。計画的な食料確保に難があるから、安易に子沢山なんて出来ない。

 リコピン村は人口約五十人。これ以上増えないのではなく増やさなかった。周辺のどの村も同じ。周辺の村と婚姻の行き来することによって、血が偏らないよう、人口の増減が偏らないよう調整している。

 そのバランスが変わりそうな予感の先を村長は予言する。張れる伏線は張っとけ、と。


 「人が増えると……、この辺りの村はひとつにまとまるか」

 「それはまた……、壮観ですな」


 一箇所から採れる食料には限りがあるから小さなグループになって散るわけで、農耕が安定すればより安全を求めて群れるのは生物の(さが)。クラスが学年に、学年が学校に、規模が膨らむのは道理。


 火を挟んで向こう側でどよめきが上がり、二人は気持ち首を伸ばして見やって微笑んだ。輪の中心に合法ショタがいて、誰かに肩車されてキレている。


 「サンドもまたどエラい物を作りましたなぁ」

 「アレもセナが発端らしいぞ」 

 「なんと」


 サンドの愛刀は全村人の度肝を抜いた。あれっ、もう宇宙行っちゃう? てくらいSFってる。いつスター選手?だらけのウォーズが始まってもおかしくない程攻撃力がバグったカタナは、特に若い男衆の心を鷲掴みした。コーホー言い出す暗黒卿が現れるのも秒読みと言っても過言ではない。


 カタナの完成から十日あまり。サンドはさらに数振りのカタナ、槍、棍棒を作って若い衆に配っていた。込める魔力の質によって変化は人それぞれらしく、カタナの切れ味が鋭くならなくて肩を落とす人もいる。あと以前から石製は出回っていて分かっていることではあるが改めて、女性に棍棒は異常に怖い。魔力を込めたフルスイングでボッて重い音を出すな。身長十メートルのサイクロプスが抜いた木を振り回すより怖い。女性に鈍器はサスペンスの香りが強すぎる。


 「リキュウルもサンドも、モノ作りに専念してもらいましょうか? いや、自然に誰もが分業、という考えに変わるのかな。人が増えると」

 「じゃな。大半の人は生活の基本となる食料生産の農家。農具や武器や酒を作る人がちらほら、という形になりそうじゃな。その辺りの人材の配置、采配がこれからの群れのリーダーに必要になるか。儂はそろそろお役御免として、お前達の代は大変じゃろうなぁ」

 

 いやどう見てもオネー様はまだ現役ですよ。という言葉をミハイルは飲み込んだ。女性に対して年齢に言及しそうな話題は避ける。男が長生きするコツはコレだと彼は信じている。


 一方キャンプファイヤーのそばの一角では女子会が。あくまで女子だ、口に気をつけたまえ。


 「アガサ、旦那は?」

 「酒癖悪いから禁酒令。子供の世話に回したわよ」


 リコピン村の元服、成人ラインは十四、五歳。身体強化を使いこなし、ひとりで狩りを成功して獲物を持ち帰ることが通過儀礼(イニシエーション)とされる。無理に半魔や魔物を倒さなくてもいいが、普通の動物を持ち帰ると異名をつけられる際にネタにされがち。リコピンあるある。

 ちなみに最近イジられたのはモアイとジダンだ。


 村に四人いる未成年は飲酒禁止。今は一軒の家に集めてポアロが責任者役を勤めているはずだけど、多分落ち込みすぎて使い物にならない。


 「ま、こうやって釘を差しときゃ大丈夫でしょ。交代してやりますか」


 ひとしきり子育て論と夫の愚痴に花を咲かせ、井戸端サミット1stシーズンが終わるとアガサは颯爽と立ち去った。アメとムチの使い分けがエグいて。


 すぽぽぽぽん


 ファイヤーの明かりに揺らめく広場に軽快な音が響いた。穴の空いた木の箱。お手軽楽器のカホンよりさらに原始的だが、使えるだけでも先進的。


 すぽぽすぽーんゴスぺぺぺぱーん


 カホンもどきを股に挟んで得意気に演奏しているのはリコピン村の情緒ギャンブラー、モアイ。

 彼は先日ラグナロクにおいて、麒麟をブッパしたら玄武カウンターという屈辱的な敗北を喫したのは記憶に新しいが、忘れてはいけない、この負け方は罰ゲームだと。

 勝者のジダンより下されたお題は、「次の宴会時に宴会芸を披露しろや、全力でなっ」


 高らかに笑いながらチョー上から目線で指図しやがったジダン。どーせ俺が裸踊りとかソレ系の恥ずかしいことしか出来ないと決めつけてるんだろ。


 モアイはジダンのねじまがった性格に悪態をつきながらも内心ほくそ笑んだ。なお、ジダンもモアイの性格はねじまがってると思っている。


 モアイには誰にも見せたことがないポエマーな側面があった。森の奥で動物を遠ざけ魔物をおびき寄せる演奏技術も鍛えていた。今こそお披露目してジダンとの間に決定的な差をつける時。罰ゲーム? テメェがなっ。デキる漢の格、目と耳に刻みやがれ。



       〜春ジオンさんお届け物でぇす〜


           作詞・作曲 モアイ


   春眠暁をおぼえてないから二段ジャンプ

   家から飛び出し着地に合わせてフラッシュモブ

   誰がモブじゃい言葉に気をつけろやオイラは敏感

   オサカナの匂いにつられてレッツ森 何故森?

   ストップ衝動 よく見ろ集中 トリップ胞子かアッブネー

   キノコの魔物だカーネルさんだーチキンじゃねーわニゲロー

   春 リコピン HAL リコピン モード学校



 罰ゲーム完了(コンプリート)。スーパーシゲルの皮の大精霊が生まれてもおかしくないくらいにスベりました。ボカロ風コンテンポラリー架空校歌は先進の斜め上を逝ってしまった。


 流石情緒ギャンブラー。危ない橋しか渡らねぇ。




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