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大暑4-1 幹にセミの抜け殻



 セミの大合唱を浴び、毎日がフィールドアスレチックなせいですっかり小麦色に日焼けした子供たち。セナ、ハク、トロ。三人を呼び集め、何故か一人だけ病的に青白いクウがおもむろに切り出した。


 「オレたちに足りないもの。ひらめき、だとおもわないか?」


 足りている。むしろそろそろ勘弁して下さいと泣く住民も現れそうなくらい閃きが止まらないのが昨今のリコピンシティだが、クウはまだ足りないらしい。

 セナとトロ、おっとり組はクウのいつもの言い回しと受け取って脳内翻訳にフリーズして、なんとなく通じたハクが応えた。


 「そ、そうかっ、木からリンゴが落ちたんじゃない。リンゴいがいのイソウがズレたんだっ。ばんぶつも、オレも、かならず落ちるときめつけるなよ。ビッグクランチアターック。……、みたいなアツいてんかい?」

 「そうそう、そういうの」

 「おぉー、それはアツい」


 おっとり組も理解して盛り上がる。


 「じょうしきをうたがえ、ってはっそうのテンカンがひつようなんだ。……オレ、まほうのつかいかたがまちがってる気がしてさ。ずっとなんかシックリこない」


 クウはその他大勢の人と同じ、身体強化だけ使えるタイプと思われている。比較的風の扱いが上手で、土や水も少しは操れるけど、遊び以外に使い道はないから使わなくなる。ほとんどの人はそういう型に収まる。


 「ここでとまるのか? ってへいこうせかいのオレがあおってくるんだ。おまえたちは小麦色に日焼けして(よるのアバターをすて)ひとかわむけようとしてるのに、オレ……、太陽(みらい)にすらそっぽをむかれちまった」


 クウはコレジャナイ感を説明しようと拙い語彙を独特の言い回しで補おうとするけど、余計難解になっている。


 「じょうしき……、ひとかわむける……」


 セナはクウのセリフを反芻(はんすう)して、ハッと閃いた顔をした。


 「ぼく、ものごころついたときから気になってることがある」


 ものごころがついてまだ数年のセナが今度はおもむろに語りだして、少し離れた一本の木を指差した。が、ちょっと遠くて見えにくいからみんなでトコトコ近寄った。


 「これ、なんに見える?」

 「セミだな」

 「ぬけがらだね」

 「セミですらひとかわむけるのにって言いたいのかぁー」


 悲劇の主人公感に浸るクウはスルーして、セナはシリアスに問う。


 「ちゃんと見て。これ、おかしくない?」


 全員ジーッと抜け殻を注視する。幹に止まったままくっついた、どこにでもいる琥珀色の芸術。察しの良いハクが答えに気付いた。


 「あっ、コイツどうやって外にでたんだ?」

 「そう。きれいすぎるよね」


 背中に切れ込みはあるけどそれだけ。言われてみれば、と子供たちは生唾を飲み込んだ。いつの間にかセミの鳴き声が止んでいる。

 クウだけは首を傾げた。


 「へん、かぁ? ぬぐときはかわがやわらかかった、てだけじゃね?」

 「じゃあおまえはきれめいっぽんしばりでかんぜんだっぴできるのかよ」

 「まずだっぴができねぇ」


 ハクがカッコつけて論破風に指摘するけど底に穴が空いていた。誰もがボケるから最近はクウが仕方なくツッコミをすることが増えた。


 「さらに……」


 そう言ってセナは抜け殻を指で押した。当然殻は脆く崩れた。


 「こんなによわいかわをぬぐりゆうはなに?」


 子供たちは気付きを得てハッとした。人は日焼けした皮を剥かなくても問題ない。どうしてセミは剥くのか。脱皮とはそういうもの、なんて大人(モブ)の答えは子供は受け付けない。


 「さらに……」


 まだあるのか。そろそろ子供たちのキャパがオーバー気味。


 「ぼくたちのてがとどくばしょでだっぴ、おかしくない?」


 確かに。隠れることが生存戦略の昆虫が、まるで煽っている……? 子供たちは世界の真実に辿り着きそうな予感に武者震いした。


 「このなぞのこたえはひとつ。セミはマホーをつかっているっ!」

 「「「な、なんだってー」」」


 殻に魔力は感じないから違うけど大丈夫、ここには子供しかいない。そしてセナはトンデモ推理を展開していくが着地点は本人も知らない。


 「ぼくがおもうに、シノビのごくいはふたつ」


 セナはちっこい親指を横に立てた。くせが凄い。


 「ひとつはチュンリねーちゃんのとくいな、けはいをけしてだれにも見られないこと」


 もうひとつは、そうセナは言いながら小指を横に立てた。野球の謎のサインぽい。


 「見えているのにだれにも見られていないこと。この、ぬけがらのようにっ!」

 「あぁ、まさか……」

 「そう、セミはマホーとはにていてちがう、ニンポーつかい」

 「ウツセミのじゅつ」


 子供たちはセミの大合唱に包まれた。まさに正解のファンファーレ。


 「セミはひやけすると、ぼくたちが寝ているすきにわざとキケンなガケっぷちといえるばしょに立って、かわをハブラシのようなじょうぶでブニブニしたそざいにかえて、キレイにぬいだあと、かたちがのこるていどにかためておくんだよ。ぼくたちが見えても見てないって、ひっかかるのをわらうために」

 「チッ、いままですっかりだまされちまったな」


 何の罠か誰も気にしない。ノリが全て、リコピンソウル。


 「ところで……、クウちゃん?」


 セナは興が乗って探偵オーラを出し始めた。クウに対して半身でうつむき流し目に陰影をつける。


 「クウちゃんは、どうしてひやけしないんだろう?」


 あれ、今俺犯人ポジ? クウはちょっと焦った。


 「気にしてないとでもおもった? 見えているのに見られていない。おやおや? なにかににてるねぇ。……もうバレているんだよ、ニンポーつかいさん」

 「へぇ、ポヤポヤしたボーヤとばかりおもっていたら、えんぎだったのか。やるじゃないか。はつげんをてっかいしよう。しょくんには足りていたようだ、ひらめきがな」

 「あとは……、ほんたいがどこにいるのか、かくれんぼは、やれやれ、くせんしそうだなぁ」


 あれ、今俺抜け殻のテイ? クウはちょっと困った。そしてロールプレイを中断してしまった。悔しいけど。すっごく悔しいけど。


 「えっと、セナ? さすがにウツセミのじゅつはつかえねーよ」

 「え、できるよ?」

 「なんで?」


 セナ、時々こういうトコある。当たり前の顔して誰も知らない新情報ぶっこんでくる。


 「クウちゃん、ひやけしないようにマホーつかってるでしょ。太陽(みらい)にきらわれてるんじゃない。みらいをしはいしてるんだよ」

 「え……、ウソ」

 「ホント。ほかにもクウちゃんのマホー、かぜをだすといりょくがおおきそうに見える。見えるものを変えちゃうマホーだね」


 光魔法。波長を操る魔法になるが、原理が難しすぎて使いこなすことはまず不可能。セナも例えばクウは日焼けしているのにしてないように隠している、といった勘違いをしている。実際は無意識に暑さを嫌って赤外線ごと紫外線もカットしているわけだが、そんなことは誰にも理解できない。

 ついでに相性が良いらしい質量ゼロの光だけとはいえ、離れた場所に干渉できるわけで、空間魔法も併用しているのだがやっぱり誰も理解できない。でも理解する必要はないし、むしろ編み物のように考えすぎると分からなくなるのが魔法の厄介な性質ではある。あえてもう一度言おう、リコピンはノリが全て。そして魔法もノリが大事。


 目に映るものをいじる程度という認識の結果、クウの固有魔法は視覚効果(V F X)魔法に限定されそうだけど、本人は大満足だった。何故なら━━。


 「おぉー、ウツセミのじゅつ」


 セナたちの歓声を浴びてクウの虚像はともかく本体はニヤニヤを止められなかった。

 スケスケだしピンボケが著しくて偽物どころかただの風景の滲みだけど、脱皮、できちゃった。


 「まいったな、つぐつもりはなかったんだが。リコピンシティの二だいめシノビマスター」


 クウは当分調子に乗り続ける。リコピンシティのシノビマスター、チュンリを煽って返り討ちされるまで。


 『幹にセミの抜け殻』


 残念だったな、それは俺の残像だ。という意味のリコピン発祥の故事成語、になるかも知れないしならないかも知れない。


 どちらにせよ犬も歩けば棒に当たると同じく誰も使いこなせない。



 

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