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秋分3-1 改めてラブソング



 紅葉が始まり秋を告げること見りゃ分かんだろと訴える拒否柴の如し。リコピンシティの人々は食料の備蓄に勤しんでいた。冬を大禍なく過ごすために必須の作業ではあるが、命が懸かる重い雰囲気はない。

 農業が安定して、適切なバランスはまだ手探りだからむしろ収穫が多くて余裕がありまくる。

 必要な量はクリアしているから、人々は自分好みの食材を求めて山へ森へ、狩りや採集を楽しんでいる。


 ゴボウや自然薯は今が旬。布教成功ってツラした後方腕組みハペコにモヤモヤしながらキノコ狩りする人々。ハペコが啓蒙したのはキノコの危険性であって、断じて魅力ではない。

 そして干し肉やドライフルーツなどの保存食作りも一段落したら、余った食料を惜しみなく放出してお祭り騒ぎの企画が立ち上がった。


 リコピンシティに祭りらしい祭りはなかった。せいぜい婚活が盛り上がったくらいか。一応日々の糧を数多の精霊に感謝、といった趣旨の儀式めいたものはあるけど、祭りと呼べる華やかさはない。森の入口だの湖のほとりだのにお供え物、といった程度である。

 農耕文明が収穫期に騒ぐのは必然らしく、リコピンシティも同じルートに突入した、かも。


 そして騒ぐなら、ついでに他のおめでたいことも一緒に祝おう、となった。結婚妊娠出産、七五三的な子供の成長や長寿、果ては五目並べディフェンディングチャンピオンなどなど。特に区別はつけない。めでたけりゃ何でも良くね、の精神である。


 住民たちがそういう流れを作り、若者に見えない圧をかける。そろそろ結婚せんかい、と。

 食糧に余裕ができて、かつてのように人数調整を考えなくてよくなったから、結婚を強要する空気は消えた。が、慣習を完全に捨てるには時間がかかる。

 圧がなければ結婚を急ぎたくないのは当然だから、若者は新しい恋愛スタイルを模索していたわけだが、二年も三年も先延ばしにしていたら年配者は収まりの悪さに耐えられなくなったらしい。


 石造りの建物が目立つようになってきた新しい街並みにも必要だろうと設けられたいこいの広場。直径三十メートルの土俵みたいな、噴水などのオブジェのひとつもない味気ない空間だけど、賑やかなほうが好きな人はとりあえず集まるスポットになる。なお、地面は子供が壁を生やしてサッカーもどきとか好き放題に暴れるからボコボコ。大人は土俵に沿って置かれた丸太や石のベンチに座って談笑する。


 そんな広場の一角、まばらに木が生えたあたりにヨセターゲッテは来た。

 木に寄りかかって先に待っていたのはモアイ。大事な話がしたいと待ち合わせを指定された。他人に聞かれうるこんな所で大事な話て、と彼女は思いはするが、じゃあ適切な場所はどこかと考えてもどこもない。外? 目と鼻の先の森に少数ながら半魔がいますが?

 十中八九結婚についてだろう。彼女はあたりをつける。そして当たりだった。


 「なんかゴメン。こういうの、もっとゆっくりでいいと思うんだけど」

 「今までも成人してから二、三年は婚活? とかいうじゃなかったっけ」

 「うん、猶予はあったんだけど、今までと違って合併後はせっつかなかったらいつまでも進まない雰囲気に不安になった、みたいな流れらしい。年寄……、ゴホン。ベテランってなんでも決めつけるから。迷惑な話だよ」

 「まぁ合併した途端、誰もくっつかなかったら不安になるか」

 「若者(こっち)だってなにもかも大きく変わって不安だっつーの。他所から来た君なんて特に。なぁ?」


 数年かけた甲斐はあった。モアイはヨセターゲッテを相手にどもることはなくなった。結婚を前提に付き合ってまだどもってたら問題だが。

 ただ、ヨセターゲッテからすると相変わらず彼は、そしてここの人たちは不思議に感じる。いやらしい話、肉欲と表現するような感情が見当たらない。十代ですらなく九歳かっ、とツッコミたくなる程ウブな心の声で溢れている。故国の醜さを聴き続けた彼女にはくすぐったい。だから━━。


 「その……、急かすようで悪いけど、改めて……、スゥー、お、俺とっ、夫婦になって下さいっ」

 「その前に、聞いて欲しいことがあるの」

 「お、おう」


 ドスベリした顔のモアイに構わず、ヨセターゲッテは勇気を振り絞り、腹を割って話すと決めた。自分だけが心の声を聴くのは卑怯だ。多少取り繕ってしまうとしても、自分の本音も伝えなければこの先も負い目を感じる。


 「私ね、実は、他人が思っていることが聴こえるの」

 「おぉー、すげぇ魔法持ってたのな」

 「え、それだけ?」

 「なにが?」

 「気持ち悪いとか、ないの?」

 「えっと、裸を見られて恥ずかしい、みたいな感覚になるってこと? ヨセタさんのエッチ、と言うべきかいや言わねーだろ」


 これだ。リコピンシティの変なトコ。ヨセターゲッテは改めて実感した。絶対ヤバい魔法なのに。対人関係崩壊する災いなのに。誰にも、親にも教えなかった、ずっと抱えてきた秘密なのに。

 ここの人たちは、心が健全すぎる。眩しくて、自分の汚さが浮き彫りになっていたたまれなくなる。

 モアイはちょっと自慢気に語った。


 「ウチらってさ、敵対的でなければ何でも受け入れる気がする。口が悪くて言ってることは優しい見た目はチビッコのサンドのおっさんとか、毒キノコに取り憑かれた変態とか、美魔女であることに全集中のバ……、オネーサンとか。最近は次に何をやらかすか見ててハラハラするチビッコとか。ここには変わった人がたくさんいて、みんなと違うから肩身が狭い、ということにはならないんだよ」


 この街で自分だけおかしいってアピールするのは無理じゃね? そうモアイはカラカラ笑った。ヨセターゲッテの苦悩はここでは不要だと。


 「他にも私、打算でお付き合いを受け入れました。早く居場所を作りたくて。こんな狡い女でいいんですか?」


 不幸自慢、とは少し違うけど、ムキになって否定されようとしている。分かっていてもヨセターゲッテには止められなかった。実際言葉以上に狡い。じゃあ結婚はナシにしよう、とはならないって思っているわけで、全部吐露してスッキリしたいだけの気もする。

 ただ、自分の好きなトコロを言ってみろクイズを遠回しに出題したつもりの彼女にとって、モアイの返答は予想外の角度だった。


 「打算って悪いことじゃないだろ。そもそも結婚って打算だし。人が減ると地域にとって困るから、子供欲しさに半ば強制的にお見合いさせられて、ロクに知らない異性とくっつく。それが嫌なら婚活シーズンに自分で選んで即決しろって睨まれてさ。まぁ経験を積んだマッチングが得意なオ、オネー様が仕切るから、くっつけられた夫婦でも結構上手くいくんだけど、これって誰にとっても打算だよな」


 少なくとも恋愛ってやつじゃないよな。だから俺も含めて今若い連中が軽くパニクってるんだが。そう愚痴りながらモアイは頭をガシガシかいた。

 適齢期にマッチングされる、という用意されたレールが外されて、自由に恋愛しろ、そう放り出された状態だから困惑もする。恋愛しろと言われてできることではないし。

 変化は良いことだけではない。今まで上手くいっていた仕組みが消えて困ることもある。


 「だから君が打算でも何も悪くない。終わりよければ全てよし。きっかけが何であれ、どんな後ろ暗さがあれ、今までよりこれからを気にしよーぜ。俺は、これから楽しそうって思ったから君がいい。こんな薄い理由じゃ、ダメ?」


 心の声とハモらせて、狡いったらありゃしない。

 そしてモアイはここで畳み掛ける。この地域は男からでも女からでも求婚する時は歌う。歌にはなんの法則もなく、朗読のように思いを語る人、一発ギャグと履き違えて一生後悔する程スベる人など千差万別であり、モアイも失敗した側ではあった。

 付き合えたから結果オーライだとしても、最初の告白は緊張しすぎて呂律が回らず黒歴史。内心ずっと身悶えしてきたが今日で終止符を打つっ。モアイは深呼吸してから高らかに歌った。



         〜見えない魔法〜


      作詞・作曲 モアイ

  

    空は青く 森はざわめき 川はきらめく

    赤も青も 月は語らず 雲はたゆたう

    普通に 普通に 俺にはそう見えた

    君を透かしてすべてが変わった

    景色はもう色じゃない 言葉も無言も歌い出す

    魔法使いのお嬢さん 心当たりはありますか


 

 ヨセターゲッテははにかみ(うつむ)き、モアイはドヤ顔でガッツポーズ。得意なつもりの打楽器、カホンもどきは封印して変に尖らずしっとり歌えば、大抵裏目に出る情緒ギャンブラーのくせに珍しく上出来だった。少し前から集まった聴衆からも拍手が起こる。


 数日後、集会所や広場で大勢が飲んで食べて歌って騒ぐだけだが、結婚式の原型が始まった。


 モアイとヨセターゲッテ、他にも数組の夫婦が輪の中心となって祝福された。

 なお、滑り込みセーフというかアウトというか、グリシン村改めリコピンシティの夢オチベアクロー、ウオーズとジダンも祝福された。

 まぁ異名はおどろおどろしいが本人はクセ強系ではない普通のお嬢さんだから、ジダンもまんざらではないらしい。……今のところは。なんつって。



 

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