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啓蟄1 劇場版ジャンケン



 爽やかな草原を渡ってきたかのように、暖かい風に乗ってリコピン村のどこでも椿の香りが吹き通る。これといって特徴はないし、もとより一本二本から香るほどのキツさを持つ樹木ではない。なのに香る、それだけ多くの椿が育っている。育ってしまった。まだ第一次農業ブームの発生から三十日も経っていないのに。

 

 バナナが常識ごと一皮剥けたスーパーシゲルを皮切りに、魔力の込め方次第で変化する品種の発見報告が相次ぎ、さらに盛り上がる村人半数、軽くヒいてしまった村人半数に別れた。いくらなんでも農業チョロすぎね? 今まで見過ごしてた人類心配だよもういっそ誰かに洗脳されてた説とかワンチャンありえるて、と陰謀論好きがいれば騒ぎそうなくらいには不審がる村人が一定数いた。幸いリコピン村に陰謀論好きはいなかったけど。


 実は原因は単純明快。セナに植物の大精霊ドライアドの加護がついたことによって、リコピン村限定で農業バフがエグいだけのこと。

 ただ、誰も、セナ本人も気付かない。 


 ちなみに椿の果実は冬に熟して落ちる。その種を村人たちは森に原生する樹の周囲から回収して、魔力を込めてみた。

 結果、種は赤と白のマーブルオーラを漂わせ、畝に並べて埋めると次々に芽を出して、村人数人が愛想笑いで近付かないくらいにスクスク育ちまくっている。


 現在村ではシゲルに(なら)って椿も呼称をどう変えるかが話題にのぼる。年末に輝く大御所感をフィーチャーし、サブフィナーレ、サチコオオトリ、どちらがしっくりくるか紅白名付け合戦がトレンド急上昇ワードだ。内心どちらでもいいと多数が思っていることは言わぬが花。


 目を転じて、村の片隅に藁葺きの家が一軒。その軒先というか隣の地面に骨の小山がうずたかく積もっている。

 この家の住人はリコピン村のやんちゃコロボックル、サンド。妻との間に子供三人、一番上は去年結婚して他村に引っ越した、と初対面の人に言っても信じてもらえなさそうな合法ショタ。


 サンドは今、土間に胡座(あぐら)をかいて、ちんまりした背を丸めて、もちもちしてそうな頬を赤く染めて、骨の加工に夢中になっていた。

 彼は村一番の手先の器用さを誇る。少し前までは各自がある程度作って持ち込んだ農具の仕上げを引き受けていた。農業と同じく農具もまた完成形に至ってないから試行錯誤が続いている。


 槍で耕そうと考える猛者がいて、サンドは流石にそれはねーよとたしなめつつも、方向性は悪くないかもと考えて、ひとつ発明してみた。

 (すき)、フォーク状の槍の枝分かれする辺りに、(あぶみ)のような固定具をくっつけた。横から見たシルエットは『ト』。

 真下に鋤を突き刺し、鐙を踏んで()を下に押すと梃子の力で楽に土おこしが出来る。すでに土の柔らかい農地を耕すのは(くわ)が最適ぽいが、そうなる前の段階、ただの硬い地面を開墾するのはコッチのほうが便利そう、とスマッシュヒットした。


 小さな村の需要なんて程度が知れるが、十本も作ると飽きる。サンドは職人系より発明家系だった。

 そこへポアロから舞い込んだ特ダネ。


 「サンドさん、セナが、あなたよりちんまくて可愛いウチの天使が世界を変えてしまいましたよ。コレ、どうぞ」

 「余計なこと言ってんじゃねーぞコラ無口なお前でもガキのハナシはするのな安心したぜ。で、コレなんだ? え……、おいおいおいマジかよお前のガキの発見か天使じゃねーよ大天使だろーが訂正しろやそういうトコだぞ残念エルフがよぉ」


 サンドはチンピラ口調だが内容は優しめ。そして渡された矢の材質と意味を見抜いてたまげたのが十日ほど前。

 比較的手に入りやすい半魔の鹿を狩って骨の刃物を何振りか作り、日々更新する最高傑作にもう我慢出来なくて深い山奥まで遠出して魔物のオーガとタイマンして昨日帰宅。これくらいは日常だから基本、リコピン村と周辺の集落は戦闘部族と広域的には認知されている。


 流石に三日不眠のガチソロサバイバルは負担が大きくて、帰るなり熟睡した。折角オーガの骨をゲットしたのだし内心すぐ武器を作りたいくらいに興奮していたけど、ナチュラルハイがキまりすぎていたから自制した。勢いに任せて妄想で止めていたドラゴン殺しなどのネタ武器作りそう。その剣は剣と呼ぶにはあまりにも大きく、分厚すぎた、それはまさに骨だった。骨なんかーい、て。


 夜明け前に目覚めると、妻子を起こさないようコソコソしながら制作開始。

 魔力を通して成形していくから、手順は簡単で早い。焦らず均等に圧をかけて骨密度を上げるイメージとか熟練者なりのコツはあるが。

 そして家人が森に出かけたことも、ついでに朝飯抜きの団欒(だんらん)ハブられたことも気付かず作業に没頭してお昼前、ついに一振りのカタナが完成した。


 片刃の直刀、切先は鋭角に。素材は骨でも硬質に硬質を重ねて研磨したようにおうとつなしだからメタリックシルバーに輝いている。

 腹筋はあるのに何故かくびれのないイカ腹幼児体型のサンドに合わせたカタナだから、分類すると脇差しだし細部はなにもかも違うが、それはこの世界初のカタナだった。


 (つか)から刀身まで一体化していて、魔力を流すと刃先の空間が血を欲してボボボと震えるというか高周波ブレード(S F)でした。

 サンドは丹念に隅々まで眺めて頷き、今までしたことのない命名を考えてみた。


 「銘は……、降りてこねぇ」


 残念ながらサンドにはネーミングセンスがなかった。ふと彼は思い至った。そういえば最近何かの樹をどっちの名で呼ぶか有象無象が揉めてたな。ケッ、暇人どもが穏やかに長生きしやがれ。どっちの名もいい感じに聞こえたし、採用されなかった方を俺の相棒につけてやろう。


 サンドがカタナをしまい、あくびを噛み殺しながら村中央の、一応憩いの広場的な更地へ足を運ぶと、どちらの名が相応しいか、五人の観客に野次られながら二人の言い争いがヒートアップしていた。タイムリー。


 「サブフィナーレを超えるものなんてこの世にねぇよ。サブちゃんが、ファミリーのボスが、フィナーレだぞ? これだけで全米泣くだろーがっ!」

 「一から十を超えて百まで意味不明だよっ! サブちゃん誰よ? 全米誰よ? お前どこの思念波受信してんだよ事象の彼方(シュヴァルツシルト)に知り合いでもいんのかよ。その無駄に豊かな想像力をコッチに回してみろ。サチコオオトリ、これ以上ド派手な情景が似合う言葉があると思ってんのか?」


 リコピン村の情緒ギャンブラー、モアイが噛みつき、リコピン村の沸点ルーレット、ジダンが応酬する。ともに十五歳、幼馴染のこの二人は犬猿の仲だった。

 そして平行線の果てに、この二人の何度目になるのかも数え切れない死闘が始まる。


 「「デュエルだっ」」


 

 〜デュエル〜 特殊形容動詞、D行下二段トリプルアクセル活用

 デュエルとは、その場のノリで生まれたり消えることに定評のあるリコピン村の掟のひとつ。そもそもこの文化圏には貨幣経済が存在しないので金銭トラブル、すなわち大半の犯罪が発生しないのは本文(※第三章P218参照)の通りだが、さらにリコピン村は原始的共産制だから身分差による権力闘争すらなく、危険な暴力はせいぜい痴情のもつれくらいだったと推測される。それでも口喧嘩はあったらしく、エスカレートしないための知恵、それがデュエルと呼ぶ決闘方式であり━━。

        (超古代文明聖闘士(セイント)☆マト共和国の神秘大全、入門編

           『リコピン村の謎』基礎資料より抜粋)



 「「ラグナロクっ」」



 〜ラグナロク〜 変則ジョジョ詞、心眼活用(※眼帯必須)

 ラグナロクとは、法則不明に定評のあるリコピン村で白黒つける伝統文化と推測される。青龍は朱雀に勝ち、朱雀は白虎に勝ち、白虎は青龍に勝つ。玄武は絶対防御、ただし使用回数三回。麒麟は回避不可、ただし玄武で防御されたら罰ゲーム。

        (超古代文明以下同)



 「先に言っておく。俺は青龍を出す」

 「フンっ、しょーもねぇ、お前が俺に駆け引きなんて十年早ぇ」

 「「ラグナロク、セッツ」」


 モアイが不敵に笑うと……、もうどっちがどっちでもいいか。

 両者からオーラ、魔力の波動が溢れ出た。身体強化を必要以上に高めると発生する、戦闘技術としてはエネルギーの無駄遣いでダメダメだが、イキりたい年頃は誰もが憧れる。走り屋のドリフトと同じ。


 「おらぁっ、青龍と見せかけ……、なっ?!」

 「かかったなヴワぁーカ」


 オーラがとぐろを巻いて龍になる、かと思いきや直前に麒麟に変化。開幕ブッパのロマン砲を繰り出したが、読まれていた。両者の間にうずくまるオーラが徐々に形をとると、それは玄武。

 麒麟は玄武に衝突すると爆散し、モアイも錐揉み状に吹っ飛び大地に叩きつけられた、なんとなく。


 「ククク、学ばねぇなぁモアイさんよぉ。だからお前は……、ん?」


 決めポーズで決め台詞を吐こうとしたジダンは何かに気付き、つられてサンドを含むいつの間にか増殖した観客も、放心したモアイも寝たまま顔を向けた。

 ドライアイスの如く立ち込める土煙を透かし、母とおててを繋いでセナがトテトテお散歩している。

 何故か身体中に椿の花がくっついて、レインボーに点滅していた。


 種でも花でも椿が魔力を浴びて変化するとサチコオオトリ。満場一致で決定。

 サンドの愛刀は、サブ(S)フィナーレ(F)



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