表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/51

霜降2-1 その世界の常識



 スケルトン、兜を被っただけの人骨が繰り出す槍の刺突を、女騎士のエステリアは長剣で弾いた。隙間だらけの骨のくせに何故か人体と同じ動きができるし、おそらく一兵士だった生前より素早く力強い。


 理不尽だ。


 エステリアは奥歯を噛み締め、死者を冒涜するが如きアンデッドへの嫌悪感をむき出しにしながら、手首を捻って絡めた穂先を地面に押し付けた。

 ほんの数秒にも満たない隙だが十分だ。すぐ隣りで背の低いスケルトン、ゴブリンのアンデッドを盾で殴り飛ばした青年、隊長のサデントスが反動を利用するかのような勢いで接近し、槍使いのスケルトンを獲物のハンマーでバラバラに飛ばした。


 だから理不尽だっつーの。なんで殺し合っていた人間とゴブリンがパーティ組んでるのよ。


 エステリアは押し付けた負荷が消えるとバックステップで距離をとって視野を広げた。計六体、素早い連携で始末して周囲からの増援なし。

 それでも戦闘は終わらない。なんせアンデッド、ただの攻撃で死ぬことはない。牽制遊撃担当のエステリアがエリアコントロールして一度に相手する数を調整し、物理防御と攻撃担当のサデントスが各個撃破していくが、はたから見るときりがない。スケルトンは倒されても磁力を持っているかのように骨は集まり人の形に戻ろうとする。

 ただし元通りになるまでは時間がかかり、つけいる隙となる。


 『書神ペンギューヌの叡智を。火は導き、火はなだめ、火は払う。罪深き無知蒙昧の輩、業火にまかれて罪科を贖え。エクスプロージョン』


 フードを目深に被った線の細い青年、フーチガースが後方から詠唱すると、前に突き出した掌に空気が集まり圧縮されていき、急速に赤く発熱した塊が弾丸のように発射されて、戦場二メートルほど上空で爆発、集まろうとしていた骨を再び吹き飛ばした。爆発といっても殺傷力はなさそう。威力の絵面は縮尺さえ無視すれば幼子が蹴飛ばした砂山くらい。

 ただ、これもまた時間稼ぎだから問題ない。


 『主神マナティアの祝福を。この地を穢す瘴気に我ら屈することなし。邪を打ち払う光満ち満ちて、永久(とこしえ)に御身の栄光を讃えん。サンクチュアリ』


 喫緊の危機はなくなった戦場の中央に少女、シスピナが進んで詠唱開始。天に掲げた両手から柔らかい光が広がって、骨は動かなくなった。そして瘴気と呼ばれる、暗闇にナニかが潜んでいるような気味悪い空気感も消えて、四人で構成されたパーティは構えを解いた。連携の手順は何度も繰り返しているから作業と化している。



 草原にポツンと一本所在なさげにカツラの木が佇む。枯蔦の絡まる幹に寄りかかり、エステリアは長く息を吐き出した。見上げると高い青空。葉はほとんど落ちて視界は広い。


 「お疲れ。冬までにこの辺りは一段落ついたな」

 「一年かけてたったこれだけ、て気もしますがね」


 四人か五人を一パーティとして五パーティ、目印にした木に四方から他の部隊の仲間が集まり、デトモンド連合国所属ホーリーナイトの面々は顔をほころばせた。とりあえず今年の任務は終了。本国に帰還して春までは訓練だの新人教育だの、比較的のんびり過ごせるから自然、口調も砕ける。


 「先のことは考えすぎるな。実戦経験を積んでみんな相当強くなった。これだけでも大きな収穫さ」

 「数ヶ月前まではともかく、最近は実感がまったくないですけどね」


 隊長のサデントスが前向きな言い方をするとフーチガースが後ろ向きに返す。慣れないうちはフーチガースの言動は苛つく人も多いけど、反発とかではないただの性格と知っている仲間たちは気にしない。


 「そりゃ作業でレベルアップはしないさ。強くなるには代償が必要。当たり前だろ」

 「その当たり前がボクには胡散臭く感じるんですよね。魔法はレベルアップした気にならないから特に」

 「魔法は神の恩恵であって努力は関係ないとか? 知らんが」

 「実際シスピナとか真面目そうな僧侶を見てると信仰心に比例している気はしますね」


 じゃあロクに神を信じていない自分の魔法は見込みなしなのか? フーチガースは自嘲を飲み込み表情もフードに隠した。だから神がどうとか嫌いだ。考えれば考えるほど気が滅入る。


 「身体強化しか使えない俺が思うに……、魔法を使えるヤツって天才だろ? 天から才を授かった」


 サデントス隊長が言葉を選んでいるのは見え見えで、フーチガースは無理にでも気分を浮上させた。一般的に魔法使いはエリート扱いされて、自分の社会的立場も高めらしいが、自分の魔法はほとんど役に立っていなくてパーティのお荷物、そう自分で分かっているから暗鬱な気分に苛まれるけど、同情はもっと惨めだ。


 「天才だから無理しない。無理しないから大きな成長はしない、てことじゃないかな。逆にいうと、神話クラスの剣聖とか賢者の類は無理した天才だろ? 十回に九回は殺されるような戦いに勝つ、て経験を何度も繰り返した狂人があーなる。結果生き残って化け物扱いされるほどレベルアップするけど、あくまで結果であって狙ってできる生き方じゃないし、そもそも神話であって実話かどうかは怪しいとはいえ、そういう化け物だって結局どこかで早死にするオチだらけだし。だからまぁ、お前ら天才はギャンブルしなくていいのさ」

 「……、レベルアップするなら命をかける価値ありますよ」


 強くなるルートなんて半信半疑だから本当に無謀な真似をする気はないが。レベルアップという言い方もわりと冗談混じりだし。世界のなにもかもに無知すぎて、フーチガースはやり場のない怒りを常に抱えている。

 例えば詠唱文だったり、魔法を属性でカテゴライズしたり、なにより大元は神がどうこうってトンデモ理論だったり。フーチガースはこのテの風潮に不審感しか持てない。

 根拠、ゼロじゃん? つきつめると全部その一言で片がつくから。

 特に宗教絡みは気持ち悪くて仕方がない。一から十まで自分の願望押し付けておきながら全責任はどこにいるかも分からない神になすりつけてそれを恥ずかしい態度と思いもしない。


 自分は魔法を使えるというだけで自慢する気もない。仲間と毎日戦いに赴き、自分のチカラがたいしたことがないことは骨身に染みているから。でも、そうは思わない、魔法が使えるというだけで自分は神に選ばれた人種と思い込んでいる輩がいかに多いか。フーチガースはこういう連中を心底見下している。

 流石に声を大にして主張すれば異端判定からの処刑、は言い過ぎだとしても社会的に終わるのは確実だから黙りはするけど。


 いちいち不信心だとか不謹慎だとか不敬だとか危険思想だとかって反応で思考の通行止めをする狂信者のいない、もっと世界の謎と真摯に向き合える環境が欲しい。

 詠唱ってなに? 

 魔法ってなに?

 レベルアップってギャンブルなのか?

 自分の魔法は成長しないのか?

 そして最近一番期になるのは━━。


 「アンデッドってなんでしょう? あいつら、生前より()()()()()()してますよね。それって生きてる、てことになりませんか?」


 もしも、自分がアンデッドになれたら強く……?


 「待て。その考えはヤバいだろ。お前、病んでるな? アンデッドに関わりすぎて生死の概念が揺らぐとか、そんな感じか」


 フーチガースは衝動的に馬鹿笑いしそうになった。狂人扱いされるから全力で抑えたが。

 これだよ。理解できない存在を頭から否定してそこで終わり。この人たちに何を語っても無駄、むしろ有害。せいぜいコチラこそ無害な学徒のように装わなければ。

 

 「ハハハ、そうかも。骨が動く不条理と付き合うのはストレスっぽい?」

 「分かる。それ私もずっと思ってた。骨だけであんなに動けるなら筋肉の意味なによ? てなるよね」

 「改めてみんなお疲れ様。春までゆっくり休もう」


 フーチガースが周りが安心しそうな方便を使うとエステリアが乗ってきて、サデントスも苦笑しながら締めた。そうして予定調和の大団円、帰国の支度を始めるのだろう。

 とりあえず拠点に帰る面々に混じり、フーチガースはいつもと同じく俯いて、全ての感情をフードに隠した。


 アンデッドが何も考えていないかどうか、どうして分かる?

 もしも、あくまでもしもの話だけど、すべての生き物がアンデッドになったら、実はハッピーエンドなんじゃない?


 この考えが危険すぎる自覚はあるから口にはしない。

 でも、一度湧いたアイデアは燻り続ける。


 魔法という不条理なチカラに憧れながらも振り回される怒りが燃えている限り。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ