白露2-1 オータムコレクション
天高くペガサスファンタジー。夏が過ぎ去り涼しい風が吹いてきた。相対的であってまだ暑くはあるけど、気分は秋支度に向かう。
街中の植生もフィーバータイムが終わって落ち着いてきた。一年草が多年草状態はなくなってきた。花や実が成る時期とか収穫期とか水を上げたほうが良い時間悪い時間などなど、まず普通の育て方が分からず手探りなのに、農業バフは正直ありがた迷惑ではあった。
早く育つと土も早く痩せる問題も困っていて、肥料の開発でしのいでいたけどジリ貧だった。そのあたりの不満が各人から噴出していて、まるで誰かが聞いているかのように改善された。そしてリコピン住民たちは流石精霊様、サスセイ、サッセー、サッセーンシタァと崇め奉った。壁に耳あり障子に目あり、私精霊今あなたの後ろにいるの、的な恐怖に襲われて。
まだ一番命に関わる冬を控えているから気が早いが今年を振り返ると、春のゴブゴブパニックはなかった。ヨセターゲッテから聞いた話からゴブリンの集団が壊滅したことは察していたからこれは想定内。もとより各人が持ち回りで担当していた西側の監視任務は警戒レベルを下げていた。流石に無警戒に変えるほど平和ボケはしないが。
秋のワイバーン祭りも去年の一回で打ち切り。これはしょうがない。全滅におかわりはない。
ため池の拡張だの新居作りだの、土木工事は盛んに行っているけど、ひとつひとつは得意な人が慣れてきてちゃちゃっと終わる。
要するに今年は集団行動が少ない。同じ釜の飯を食う仲とでも言うか、合併して膨らんだ住民の団結力を固めるイベントが欲しい、と村長、いや、カシラは悩み、彩り豊かになった民の暮らしを観察して閃いた。ファッションショー、良くね?
あとはリコピンシティのご意見番四天王、アンミナに丸投げ。話を持ちかけられた本人も乗り気で十日も経たず開催された。
五百人は収容できそうなコロッセウム風の劇場が街の中央に佇んでいる。周囲は森畑家森家森くらいのマイクラ感だから新設のくせにすでに古代遺跡に見える。
こんなこともあろうかと、と言いたいがために作って数ヶ月は放置された劇場。音楽関係のつもりで設計したからショーパフォーマンスにも適している。結果オーライ。
その劇場にほぼ全ての住人、約三百人が集まり、中央のステージをすり鉢状に囲む観覧席に収まった。
「涼風が心地良い夕暮れ時、みなさんいかがお過ごしでしょうか。ついに第一回リコピエンヌ決定戦の開催となります。司会は私、リコピンシティの必勝ウグイス嬢の異名を持つスキマ、解説は風塵のランウェイことファッション業界を牽引してきたアンミナさんでお送りします。アンミナさん、よろしくお願いします」
「よろしゅうね。誰が牽引されたか知らんけど」
「さて、今からステージに我こそは次代のファッションリーダーと己を頼むツワモノが登場します。評価はシンプルに、会場のみなさんの反応で決めます。優勝者には『リコピンシティのおしゃれ番長』の肩書きをプレゼント。説明不要ではありますが、みなさん成人以降はなんらかの異名を持ち、不本意な呼び名をつけられる人も少なくないでしょう。そんなあなたに異名確変のビッグチャンス。さぁ、栄光の称号をゲットするのは誰だぁーっ」
おぉぉ、とどよめきが起きた。特にありがたい賞品ではないけど、スキマの煽りに群衆は乗せられやすい。
「先陣を切るのはリコピンシティの見切りビビらーガシュウ、おしゃれ番長欲しさにエントリーしたけど行動が見切り発車で返上できるのかぁ」
すり鉢の底、三十人がハトのポーズとかヨガのできる、もしくはテニスコート一面分のステージにガシュウ青年がぎこちなくウォーキンしてきた。右手と右足が同時に前にってベタな緊張表現で客席はドッとウケる。みんな早めの婚活によって恥はかき慣れているから、ガシュウも顔を赤くしながらポーズをキメては変えていく。前例もなにもないから武術の構えのようなズレたポーズが多いのはしょうがない。格好はもっとズレているが、そこはスキマのマイクパフォーマンスが活きる独壇場。
「テーマは『冒険、行っちゃいなよ』 カーキの上下にこれは染めたのか? 茶色いしみがポツポツと、これはー、迷彩? そう、迷彩と言ってもいいような。地獄のジャングルにようこそ、茂みに溶け込んで獲物を待ち伏せだぁ」
「せやね。初めてハイハイした赤ちゃん並みに甘やかすと、二千年後のアーミールックを先取りした天才と褒めてええんちゃう?」
「そして特筆すべきはポケットの数。ポーション、解毒剤、腹下し用の薬草、火打ち石、携帯食、果物、乾燥バナナ、塩、ポケットの数が生存率を高めるぅ」
「めっちゃ被っとるやん」
「さらに冒険は森だけに非ず、川に海、そう、釣り人の価値はポケットの数で決まると思えっ」
「暴論だけどなんか納得しそー」
客席からも納得の歓声、特にチビッコのウケが良い。ポケットたくさん、なんかカッコイイ。
「エントリーナンバーツー、ルテイン村出身、リコピンシティの整頓ナイトメア、サタワ。使ったら片付ける。言うこと聞かないコは……、夢で逢いましょう」
「整理整頓、大事やね」
「彼女のテーマは『男装の麗人』 つーか女ってマ? つか系とのことです」
「まだ女装も発展途上なのに、みんな先取り勝負してる?」
「脱色に成功した白の上下、特にジャケットが見事。頭頂部ペッタンなハットがモダン。ポーズをキメる動きに合わせてチラ見するゴツいベルトがセクシィー。そして口にくわえた一輪のバラを客に向けてトス。こ、これは、一大ジャンルになりそうな予感。ベルトとバラのコンビネーション、ベルバラと呼びたいっ」
「名作感エグ」
ほう、と女性客からため息が。新しい扉のほうから開きっぱでやってきた。
「エントリーナンバースリー、セサミン村出身、リコピンシティの着火職人、ヘラーノ。彼女に燃やせないものなし。近寄ると火傷するわよ」
「みんなも一回見せてもらい。彼女の火打ち石さばきは鳥肌もんやでぇ」
「テーマは特になしということですが、私がつけるとしたら『火喰鳥』ですかね。赤を基調に色とりどりの羽根をびっしり貼り付けたカーニバルック」
「逆になんでテーマなしなんコレ普段着の地域があったら眼ぇ疲れるわ」
別に露出はないけど羽根の隙間から見えそうな気がする色気があるせいか、客席のおやじ層から指笛が吹き鳴らされた。
「エントリーナンバーフォー、リコピンシティの情緒ギャンブラー、モアイ。婚約して少しは落ち着いたからやんちゃな異名を返上したいって野心が見え見えだぁ」
「一か八かの勝負をすぐしたがるからまだ変わらへんやろ。こうやってイベントに参加してくれるのは助かるけどね。にしてもそれファッションか?」
「テーマは『もののけプリンス』 全身革鎧ぽい装甲に溶接したおびただしい数の鹿の角っ。ぶっちゃけキモい。鳥肌がぁ」
「とりあえずおしゃれと仮装の違いから学ぼうか」
子供たちには大ウケ。ヒーローショー的なロマンが漂う。怪人寄りだが。
「エントリーナン……」
スキマの実況をぼんやり聞きながら、アンミナは苦笑した。
みんな、良く言えば時代を追い越しすぎ。悪く言う……、必要はないか。
そう、なにも悪くない。チャレンジなんてしたいだけすればいい。積み重ねた基本がなく、なにもかもが手探りなのだから今は新しいモノを歓迎しよう。
この悔しさをどう消化すればいいのか、アンミナは頻繁に身悶えしたくなる。
何故、今まで自分から新しいモノを生もうとしなかったのだろう?
しょうがないと言える理由なんてどこにもない。セナをきっかけに新しいモノが次々生まれて、セナが際立った個性を持っているのは誰もが認めるけれど、セナである必然性なんてない。
自分はおしゃれが好きだ。小綺麗にして、服は丁寧に作るし手入れもこまめにした。外見を若々しく保つために身体強化を常時かけていて変人扱いもされる。身体強化は基本だし狩りも日常だから他の住民も普通に若々しいけど、自分は度を超えて気を遣ってきた。
だからこそ、セナが初めて作った拙いマタニティドレスに頭をぶん殴られるような衝撃を覚えた。何故、こんな簡単なことを自分は始められなかったのだろう?
以前は魔力が乏しくてモノ作りが大変だった? 言い訳にもならない。昔の自分には不可能だったのかと自問すれば分かりきっている。ほんの一瞬でもアイデアが湧いて、作ろうと思えば作れたはず。そして斬新な服や小物作りに夢中になる若き日の自分が目に浮かぶ。何故、そうならなかった?
おそらく、『変化』という現象は曲者だ。良し悪しは関係なく、変化に怯える無意識が本能のどこかに存在する。そして歳を取るごとに強まり、これが露骨に現れると保守的になったり、最近の若者は、なんて常套句を言ってしまうのだろう。
自覚して自戒して反省終わり。別に手遅れではない。今からモノ作りの青春を取り戻せばいい。
「もう我慢できへん。飛び入り参加するでぇ」
「おぉーっと、風塵のランウェイに火がついたぁ。ゴブリン逃げてぇ」
半透明な優しめの竜巻で演出しつつ、アンミナは客席からステージ中央へウォーキン。
幻聴のハウスミュージックにノッて右手は腰に、左手は垂らし、上半身を軽く捻ってスパーンと竜巻を霧散させてサンハイ。
「「「「パリコレー」」」」
やはりというか出来レースというか初代おしゃれ番長はこの人に決定。




