冬至3 第二形態はお約束
リコピン村のやんちゃコロボックル、サンドは愛刀サブ・フィナーレを片手で鞘から抜きながら馬の足を斬りつけようとしたが、巨人のランスに阻まれた。直刀だから鞘走りはしないものの、激闘の中で抜刀術らしきものが生まれつつある。あと幼児体型だから直視は不安を与える。
「武器がフルモデルチェンジしても手応えが変わらないのムカつくな。伸びしろだらけってか。ケッ、燃えるじゃねぇか」
斬っても切れないし、硬質な音もたたない。見た目も感触も木の枝で布団を叩くかのよう。蹄は甲高い音とか、真面目に考えると不条理にハゲそう。
「防御、防寒、魔力上昇もあって戦いやすさは過去イチだけどね」
唐突に巨人の背後、馬上に現れたのはリコピン村のシノビマスター、チュンリ。瞬間移動ではなく気配を消す隠密の基本にして奥義に周囲の村人からどよめきが起こる。
そのまま骨製の短刀をうなじに突き立てたが、やはり手応えなし。
巨人の背中から無数の鋭い氷柱が一瞬で生えてチュンリを襲うけど、毎年戦って予測済みの彼女はすでにバックステップで回避していた。
「精霊は五感を使って世界を認識していない。己の魔力から個性を消してみるといいわ」
「言われて出来てたまるか。自分がデキる側って自覚しやがれこの才女」
「嘘やん当たった」
「出来るんかいっ。お前個性の塊じゃねーかこれ以上強くなるなよ頼もしすぎんだろ」
「ウチは風の精霊、て思い込んだらイケた」
チュンリのアドバイスにサンドが悪態をつくも、風を纏って宙を飛び回るアンミナが巨人に踵落としをキメて周囲に歓声が湧く。
観客の視線を浴びた美魔女は勢いを落とさず踵を起点に回転しながら空中に離脱、ランスに空を切らせると近くの柱の上に着地して、斜め四十五度を意識しながら右手は腰に、左手は垂らし、右足は左足の踵につけて、胸を反らして瞳はクールにさんはいパリコレー。
革のロングコートにスリムなホットパンツ、ヒールらしきものが発明済みのロングブーツ。袖や裾はゴテゴテに縫い固めてバッドボーイズ感。防寒よりおしゃれを優先して首元はザックリ開けて抜け感を演出。ウエストを革紐で縛ってシルエットはエックスライン。その革紐を引っ掛けるボタンは貝殻を魔力加工して玉虫色に輝き、染色はまだ未熟でムラだらけだけど、ワイバーン革の赤銅色をベースにダークグレーがまだらに入り、邪教感漂う迷彩柄の進化ツリーをよじ登っている。
皮革製品の高い難易度もあって純粋な裁縫は全然だが、魔力アップによって容易になった魔力加工というトンデモ技術のおかげで裁縫はデザインの問題という、被服業界の未来は行方不明の様相を呈してきた。
それでも……、一年も経たずここまで進化した。
見た目どころか機能性すら皆無の服装。冬は寒くて当たり前、そう自分に言い聞かせて比較的暖かい木綿を用意しつつも薄布とマントのような革を被り、機動性を落とすと命に関わるから足は藁を巻いて革のサンダル。あかぎれの手で石と木を加工した武器を振るう。身体強化の恩恵によって見た目ほど悲惨ではなかったが、それでもポーズをキメたアンミナを仰ぎ見る村人たちは文明に進んだ今思い返して鳥肌が立った。良く生き残れたな、と。
キラリ。村人たちの目尻から零れて頬を伝う涙は凍……、らない。
去年までは冬将軍が場を支配して、バトルフィールドは氷点下だったが、今年は違う。
最後方、柱を盾に隙間から戦況を眺めているのはギリ戦える老g……、天界組。身体を動かす気は微塵もないけど、豊富な魔力と年季の入った魔力操作技術で支援している。
戦場を肌寒い程度で抑えているのは氷雪のアハ体験ミハイル。空間の熱のコントロールはおてのもの。高温は苦手だし冬将軍を圧倒するには至らないけど、村人たちと協力して拮抗するくらいは可能。ちなみに「去年と違って今年は冷気がひどくないっ、ミハイル老すげー」と途中で気付いて脳汁溢れる村人が数人いるけどこれはセルフアハ体験。ミハイルは間違い探しを仕掛けたつもりはない。
「本当に、今年は随分楽になりましたね」
「油断はするな。精霊様は格下ではない」
「もちろんです」
ミハイルの側で村長が注意した。骨製の杖で体重を支えてフラグ建設に余念がない。そして即座に回収。
「ヴォルケーノっ」
巨人はジダンの槍をランスで弾き、切り返す一撃でモアイの剣を宙に飛ばしたが、モアイは剣をあっさり手放し地面にうずくまり、発動待ちにしていた魔法を放った。さらにさっきの二の舞いを演じないよう、弾かれたジダンの槍が弧を描いてモアイを後方に飛ばした。
地面から噴き上がる熱波を浴びて仰け反る巨人。遠ざかる光景をまぶたに焼き付けて、モアイは叫んだ。
「嘘だろっ。初めて効いたのか。俺の攻撃がっ」
「待て。なんか変だぞ」
初参加の二人以上に他の村人たちは戸惑った。今までに見たことのない巨人の反応。
巨人は身体中から蒸気のような煙を噴き出して、しばらく何も見えなくなった。そして煙が晴れると━━。
「な……、んだと」
言葉を発したのはひとりだったとしても、思いは全員同じだった。
白銀に輝く氷の鎧に全身を包まれているのは変わらないけど、身長は百六十センチメートルくらい。スリムになって、馬も消えた。なにより、顔の上半分はマスクで隠しているが、胸甲の膨らみや腰のくびれを見るまでもなく女性型に変わっていた。
さらに存在力とでも言おうか。雰囲気が強者すぎてヤバい。そう全員が肌で感じて冷や汗を流した。
女騎士は体型に合わせてスリムになったランスを構えて腰を落とした。来る、前に動いたのはサホーリー。
「そんれ、知んねぇがおもしぇんだば」
なるほど、作業感が嫌いだったのね。と村人たちが納得する余裕はない。革の袖なし武道着がはち切れそうなほど、みるみるパンプアップしながら暴風の如く棍棒を乱打するサホーリーに一切の隙を見せない騎士。明らかに機動力を発揮させると危険だから撃ち合いを仕掛けて足止めしたサホーリーは神判断だが、残像出まくる近接の猛攻を間合いの遠いランスでさばくとか、技術が高すぎて周囲は思考が追いつかない。
サホーリーのほうも実は時間稼ぎに徹してテクニカルな真似をしている。開戦の一撃のように、普通の攻撃は理不尽なパワーでふっ飛ばされるパターンが混じるから、武器が衝突する瞬間、チカラが逃げるように角度を調整していた。
ほんの数秒とはいえ撃ち合う二人以外は空白になった意識を村長が一喝する。
「じきに夜明けじゃ、皆のもの、振り絞れっ」
「「「……、おぉうっ!」」」
例年、冬将軍は日の出とともに姿を消す。ここが正念場と全員烈帛の気合いを入れた。
サホーリーが再び吹き飛ばされるも、そのタイミングに合わせてチュンリとアンミナが騎士の足元に出現。左右同時に足払いのしゃがみ回し蹴りを繰り出し、軽く宙を跳んでかわす騎士の正面にポアロが躍り出て、至近距離から魔力マシマシ二本撃ちで牽制。何かがSR級キノコのエキスを口に入れてキマったハペコが突撃する前に誰かに突き飛ばされて騎士の横を通り過ぎ、頭上からサンドが愛刀を振り下ろすが、騎士は矢を弾いて旋回する勢いのまま柄を頭上に持ち上げガード。その空いた胴体へ、スカイラブハリケーンで弾丸と化したムグナンが盾ごと衝突。見た目に反して騎士の体重が数トンあるかのように物理的な衝撃を感じさせない結果だが、それでも斜め上空三メートル近くは騎士の身体が吹き飛んだ。その騎士、宙で一度身体を丸めると、四肢を伸ばして全身の前面から地上に向けて氷柱を生やした。一瞬で現れた巨大な氷のウニの半分。自爆にも見えるデタラメな範囲攻撃に近接メンバーが巻き込まれて串刺しになった。と思いきや全員氷像に変わって砕け散った。
「「「キター」」」
精霊相手にすらここ一番で意表をつくイリュージョンを仕込む男。死人が出るなんて最悪は防いでみせる最後の砦、氷雪のアハ体験ミハイルは脳汁歓声を受けてしてやったりと微笑み言った。
「トリはお任せしますよ」
騎士の遥か上空から降ってくるのは永遠のオネー様。事前にスカイラブハリケーンで打ち上げられて機会を伺っていた。アングル的にひとあし先に地平線の払暁を一望してから魔力、全・開。
精霊に特別扱いされるセナのような得体の知れない例を除き、おそらくはこれが個人に到達しうる魔法の極致。
「そも、お山に鉄あり。墓所、転じて蛇となす。
王理、春来ぬ。天之叢雲。
泡沫を写す。草薙剣。
十六ビートで刻む八小節。
空即是色のリズム花鳥風月。那由多凩降りろ八岐之大蛇」
上空に超巨大モンスター出現。蛇と言いつつどう見てもドラゴンの首が八つ、村長の背後から生えて花のように円に並び、全員退避済みの、騎士しかいない地上へドラゴンブレスをブッパした。
やりすぎ。土埃で何も見えない戦場のそこかしこから非難の声が上がり、村長自身も軽くひいた。クレーター出来てますやん。
視界が効かなくても魔力感知は基本だから全員騎士がどこにいるかは分かっていて、用心しながら煙を晴らすと、騎士は中空に留まりじっとしていた。
すぐに払暁。陽の光が差し込み騎士を包むと、騎士の装甲がダイヤモンドダストのように弾け跳んで消えて、ドライアイスで作ったかのような輪郭の曖昧なドレスをまとった、感情のない人形のような美女が現れた。
そしてそれも一瞬のこと。美女、いや、女王も淡雪のように陽光に溶けた。
セナが夜空に見惚れたように、冬は、自然は、ただ厳しいだけではない。
冬の精霊は年の瀬に、言葉にならない『当たり前』を教えに来るのかも知れない。
村長は皆より早く感傷から覚めて声をかけた。
「おつかれさま。帰るぞ」




