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冬至2 フルアタック



 ドンッ


 いつ凍ってもおかしくない大地に踏み出す足音がいくつも重なり、スターターピストルと呼ぶには重い爆発音のように響いた。

 装甲に覆われた馬らしき動物にまたがる巨人に対し、先陣を切るのは村一番の脳筋、サホーリー。他は巨人の周りに展開する移動で一拍遅れる。

 意外とサホーリーは乗り気ではない。生き物と命を懸けた戦い、ではないと燃えないらしい。それでも油断していい相手ではないので必要な役割はこなす。


 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、を比喩ではなく実行。サホーリーは突進しながら棍棒を振りかぶり、体重を乗せて馬の前足めがけてフルスイングした。寸前で防ぐは巨人の握る氷のランス。手のひらを起点に回転させて、正確無比に操ってみせる。

 そこへ全方位から緩急様々、しかし同時に仕掛けるタイミングで巨人に迫る村人たち。得物と意識を下に向けて上半身がお留守だぜ、と行動で語る。

 突撃組の中にはリコピン村の見切りビビらー、ガシュウの勇姿も。臆病なくせにやるときゃやるし美味しいところも持っていきたがる。


 生物だったらひとたまりもない連携だが相手は精霊。慣性というか物理法則の怪しい挙動で超反応を見せる。鋼鉄さえ砕きそうなムキムキサホーリーの一撃をデコピン程度の軽さで受け止め、氷ではなくゴムで出来ているかのように反発力で彼女を吹き飛ばすと、勢いはそのまま何周もランスを振り回した。

 一振りではさばけない位置とタイミングの同時攻撃なのに、初見で対応されてしまい、ガシュウは押し殺した悲鳴をあげ、同じく弾かれたチュンリやサンドは苦笑いしつつ宙を舞った。


 離れる人たちと入れ違いで巨人に迫るのは幾本もの矢。ポアロは風を操り空中に足場を作って高速三次元機動する。魔力アップによる新技、茶金の長髪をなびかせクールに弓弦を鳴らしているけど、内心は人前で披露したくてたまらない。

 斜め上から連射される矢も、やはり巨人には通じない。風車のように旋回するランスが全て弾いた。しかし目的は足止めだからこれでいい。


 「クリエイトアース」

 「じじいは下がってろ怪我して孫たち泣いたらどうすんだ。かけまくもかしこき高御産巣日神(たかみむすび)天地(あめつち)造成の御業の一端、大前を拝み奉りて、かしこみかしこみ、まバキューんくらふと」


 リコピン村の干し肉ガーディアン、親方ことムグナン率いる後方組が魔力を重ねて大規模造成魔法を発動。巨人の周囲に高さ十メートル弱、人ひとりが乗れるくらいの土の柱が無数に乱立し、吹き飛ばされ中のサンドはその光景を見ながら猫のように身をよじって詠唱を始めると、一本の柱に垂直に着地して、そのままの態勢で他の村人たちが地中に流した魔力を利用して柱を硬質化した。器用な技術だが、土木工事で使った恒久的な変化ではなく、セナの遊びと同じく魔力が抜ければ土に還る一時的な変化だからサンドにとっては他愛もない。


 巨人が馬を駆って縦横無尽に動くのは危険すぎるから、まずは障害物だらけにして機動力を封じる。これが基本戦術。

 ただ、巨人に動揺はない。小憎らしくて何人かはその泰然自若な佇まいに舌打ちした。

 本当に初見か疑問を持ちたくなるけど、既知だったら初撃のカウンターで何人か殺られている。基本は毎年同じだから。


 基本が奥義


 リコピン村で口酸っぱく、あるいはドヤって使われる名言。

 なんにでも通じるとされるが、では戦闘における魔法の基本とはなにか?


 答えは身体強化である。


 成人するころには普通誰もが使えるとされる最低限の魔法。普通すぎて魔法と認識されていない地域もある。固有魔法を使えない大多数はいわゆるカースト底辺、あるいは使える人は選民、みたいな差別を生む地域もある。どこにでもよくある話。


 リコピン村ではどうか。

 きっと村人は他所の話を鼻で笑う。

 もとより差別とは偏見に基づく言動のこと。バカバカしい。

 半魔や魔物を相手に本気で戦っていれば、そんな偏見は生まれようがない。


 何故か。研鑽を積んだ達人や天才などを除いて、固有魔法は……、他者の協力がなければ格下専門の使えないお遊びだからだ。

 強敵との戦いを想像すれば分かること。詠唱にせよ動作にせよ、隙だらけも甚だしい。呪文をただ口にすれば良いというものではない。動作が正しければ上の空でも発動するわけではない。自分の決めたルーティンに従いながら集中力を高めて体内の魔力を練って変化させて放つ、なんて隙を見逃す強敵はいない。


 つまりそれなりに戦いを経験した者は、身体強化の練度が重要と心得ている。バカにするほうがどうかしている。

 だから冬将軍の前に立つ最前線は、そういう強者でかため、固有魔法を使う時は比較的安全な後衛にまわる。それが毎年の激戦を経て確立した基本戦術となる。


 ヨセターゲッテは村の一員としてこの戦いに参加した。もう客人ではないし、彼女自身も早くとけこむ姿勢は見せたい。

 とはいえ無謀な真似はしない。彼女は故郷では一人で狩りをするハンターとして実力は高いほうだった……、はずだけどそんな自信はとっくに壊れた。

 身体強化は近接回避の手段にして、安全な遠距離から仕留める弓使い。それが彼女の戦闘スタイルであり、骨の鏃に魔力を通して威力を爆盛りする技術は練習中。つまり戦力外。参加は仲間意識を育むためのものであって、他の村人も温かく見守っている。


 そんな彼女は最初からブルっていた。キョドってもいた。ワイバーン戦で気付いていたけど、やはりコイツら頭おかしい。精霊を見たのも初めて。虹の精霊? 他所では見ねーよ聞いたこともないわよこの土地この人たちが何か変なのよっ。

 精霊は存在感がもうヤバい。ひとりで対峙すれば死神に等しい。何故戦うって発想が出てくるのか意味が分からない。精霊イコール自然そのもの、つまり、「地震がくるぞっ、みんなで地面を押さえろ」くらいおかしな言動なのに自覚がないらしい。


 そしてなにがイヤって、そこそこ戦えてやがる。後方柱の上、見晴らしの良い場所から戦況を見守り、ヨセターゲッテは呆れてため息をついた。


 「長丁場だ。前線はこまめな交代に気を遣え」


 ムグナンは骨製の盾を乱暴に跳ね上げランスの軌道をそらし、周りに叫んだ。魔力アップの一件から皆が強気というか好戦的になってしまっているから見ていて危なっかしい、と彼のような慎重なベテラン組は危惧している。

 精霊を倒すことなどできない。攻撃が有効かどうかすら怪しい。魔力ありきの攻撃によって、精霊の体力を削ることに意味がある、と村では考えられている。

 だから無理な攻撃よりも巨人の猛攻をしのぐ立ち回りが好ましいのだが。ムグナンはため息を堪えて飛び出した。どんな理由であれ味方の士気を下げるような発言はしない。流石ベテラン。


 「モアイっ、彼女に見られているからって張り切りすぎだ。連携を意識しろ」


 ジダンは後方で魔法発動のルーティンを済ませてから巨人の間合いに入り、槍で牽制しながら当てる隙を狙っていたが、視界に写るモアイがウザい。なんかいちいちキメポーズが混じっている。


 「はっ、お前が合わせろや。秘剣・オルタナ━━」

 「ゼロ・スナイプ」


 モアイが特に魔法でも奥義でもない大振りの切り払いを避けられ隙を見せて、巨人が避けながらランスを引いて構えた瞬間、ジダンの槍の穂先から一条の光が発射。意識の外からであれば回避不可の光速の一撃が装甲のない喉元に刺さり、二人はニヤリとドヤった。息ピッタリだが、二人とも精霊戦は初めてだからこれが悪手と分かっていなかった。いや、先輩たちから聞いて分かったつもりでナメていた。巨人は何事もなくランスの刺突モーションに移り、青ざめたモアイの喉元に迫る穂先をムグナンの盾がガード。ついでに勢い余ってずんぐりむっくりな肉体でモアイをふっ飛ばした。


 「真剣にやれバカモンっ!」

 「「スンマセン」」


 士気が下がると分かっていてもムグナンは怒鳴った。命のほうが大事。流石ベテラン。


 


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