大雪1 関係ありそうな絵面のくせに
藁葺きの弱点、隙間風が辛い季節。地下を堅牢な石造りにして、さらに火鉢を愛用するから冬の間中寒さに震えるということはないけど、地上部分は簡単に建て直す前提で雑に作る風習は変わろうとしていた。
そう、ついに周辺の村々がひとつにまとまる話が具体性を帯びてきた。なんだかんだ、ワイバーン肉のお裾分け案件が周辺の村々にとって大きな意味があったらしい。もっと広範囲の地域から見るとリコピン村とその周辺が戦闘民族扱いされてはいるが、周辺自身から見るとやはりリコピン村が頭ひとつ抜きん出ている。
結局のところ人々にとって身の安全こそが重要なわけで、ワイバーンの群れによだれを垂らす防衛力は頼もしい。
そうなると次の議題は、どこを拠点にするか?
これは今のリコピン村を拡大することですんなり決まった。
人が増えても当面有用なため池を造ったばかりだし、精霊による農業バフは理解されていないけど、明らかにリコピン村の農作物の成果は異常だし、なによりセナの存在が大きい。
以前より村長が根回し的に話を広めてはいたけど、精霊の愛し子たるセナが村に良い影響を与えていると伝わっていた。知らないのは本人を含めた子供組くらいであって、実はセナはちょっとした有名人になっていた。変に騒いで精霊の不興を買うのは絶対NGな。という暗黙の了解で誰もがそっとしているだけ。
そのセナを擁する子供組は、今日は建築ごっこに勤しんでいた。新たな村、いや都市設計をどうするか、大人たちの盛り上がりに影響されている。
「ホネつかおーぜ。そとにトゲトゲつけてさ、サイキョーのいえっ」
「アハハ、おもしろいけど材料が足りないし、なんかちょっと祟られて怖い夢見そう」
「やっぱなし」
魔力に余裕があって造形が得意なコンが土を操りミニチュアハウスを作り、ライ、ヒメ、セナが周りでアイデアをだすというか囃し立てている。まずは模型で考察って地味に建築学が二千年先を行っているけど本人たちは気付かない。
「あれっ、骨を加工する、ねぇ」
「なしだってば」
「あぁ素材じゃなく、木でも石でも加工してから家を作るって賢いような?」
「今までとなんかちがうの?」
「建てる場所に材料を集める、建てながら加工する。という手順が今までだね。サクッと作れる藁葺きだからそれで問題ないけど、これからは地上も頑丈に作ろう、となると柱だけでなく壁とか屋根とか加工するパーツがたくさん必要になるわけで、あらかじめパーツを作っておけば早く完成するでしょ」
すなわちプレハブ工法。またまたはるか先の技術を編み出したが、魔力の使い方を考えると必然ではある。
「セナ、どうかした?」
ヒメに問われてセナは神速で顔を向けた。ずっとニマニマしてどうかした待ちだったから。
今日の保護者役の家と自宅が近所ということもあり、セナはみんなを自宅に手招きする。正確には庭の木へ。
春先に埋められたバナナもといスーパーシゲルは何故かバナナにならず、イチイっぽい大木に絶賛成長中である。
気持ち、錯覚かもしれないが気持ち、隣りの自宅が傾いているように見えるくらい、すくすく育っている。
直径は根本付近で二メートル近く。一年も経たずにコレは異常だ。
セナは早くから危惧していた。家がドスコイされるのも時間の問題だ、と。ではどうすればいい? 決まっている。木に責任をとらせればいい。
生きた木をいじるには途方もない魔力が必要であり、普通は誰にもできないし、やろうと思わない。当然未熟なセナにもできない。
しかし、盆栽のように成長の方向を誘導することはできる。
セナは毎日木の周囲に水をまき、雑草を抜いては地中に埋め、幹に魔力を与えながら祈り続けた。世話してるんだから部屋になれ。結果。
「うろ? うわっ、すご」
ライはぽっかり開いたウロに頭をつっこみ叫んだ。そのままするりと身体を入れる。半畳くらいの広がりがあって、部屋というか秘密基地感に溢れている。
セナはドヤの向こう側に行ったしライも大喜びではあるが、ヒメはチラ見で受け流し、コンは苦笑して言葉を選んだ。
「もっと木が大きくなったら家になりそうだね」
つまり現時点ではちょっと。あと口には出さないが、都市の規模の家をどうするかって話なのにみんなでウロの中に住めと? 幼子に難しいことを要求してはいけない。コンはわきまえて無難に褒めちぎった。
秘密基地に映える椅子やテーブルといった家具のデザインで盛り上がる話に半分参加しつつ、コンは模型を睨みながら家の構造に悩んだ。
橋なんかもそうだが、支える建築物に不正解はあっても正解はない。
特に柱と梁はどんな組み方が最適か。柱の太さは。間隔は。例えば直立一本と斜め二本の三角ではどちらが頑丈だろう。アーチ、なんて芸術点高そうだが実用性はどうか。二階建て、やがて高層建築に至る仕組みについて、思いつきそうで何も浮かばずコンは頭をかきむしった。
そんなコンを見てセナがピコンと閃く。アイデアは任せなさい、と鼻息荒く。今日のセナ、サイキョーの家を披露してテンションアゲアゲ。
「コンにーちゃん、ここ」
「えっと……、え?」
まずライが『きをつけ』の姿勢から膝を折って後ろに倒れる。もちろん安全に配慮してゆっくりと。ライの後頭部はヒメに膝枕。ヒメの態勢はライとは直角に。そしてライと同じく後ろに倒れ、後頭部はセナに膝枕。セナに促されて、コンはセナに膝枕しながらライの膝に頭を乗せた。
身長差のせいで歪んではいるが、上から見ると四角形完成。
「エウ、エウレー、エウレーカァ、え?」
誰もが誰かを支えて誰かに支えられる。なんだこれは? 人はひとりじゃ生きていけないとか哲学的なアレか? コンは膝を立てて倒れたまま軽くトリップした。なにかしら、そう、なにかしら建築の真理を味わっている気もする。冷静に見ると柱が梁を支えるだけの、極めて普通の構造だけど、身体で実践するとなにか凄いことをしている気分になる。
「おぉ、なんか、おぉー」
「宇宙と交信とかそういうの?」
「いやこれはゲイジュチュと言っていいのでは」
「あー分かるぅ。なんかグッとくる」
基本暇を持て余している村人たちも目ざとく発見しては集まり、人の輪が拡大していく。
結果、中腰の人の両膝にもうひとりが立って傾くとか、組体操が生まれてプチブームになりました。寒い季節に暖まるぅ。
建築? さぁ。




