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立冬1 万能言語が生まれるには早すぎた



 寒風を利用して乾燥させるため、根菜や果物がどこの家の軒先にも連なるリコピン村。冬の訪れを告げる風物詩である。美味しいものを作る、というよりも保存食作りは人類史そのものといえる。食料をどれだけ多く、長く蓄えるかが生死をわかつから。


 魔力を使って水分を抜いて乾燥させてもいるがそれはそれ。美味しさに違いがでるなら手間暇かける価値あり。ただしまだ試行錯誤も混じっているから失敗作も多い。


 リコピン村の干し肉ガーディアン、ムグナンも研究に余念がない。もともと干し肉を作らせたら右に出る者はいない加工食マイスター。

 スパイスの配合に凝っていて、最近はそこに乾燥野菜も加わって充実しているらしい。


 今日は子供組はムグナン宅にお邪魔して、研究の様子を見学している。といっても手探りに少量の料理をしては味見の繰り返しだから、子供から見るとままごとっぽい。


 「パサパサやさいはぜんぶ不味ぃ。パサパサくだものは美味しーのにへんなの」


 味見係のライが一口食べて赤髪をフシャーと逆立てて顔をしかめてから愚痴った。セナは手を出さない。テカりがないものには厳しい。


 「なにかスゴいものが生まれそうな気配はないよね」

 「ククク、まぁな。でも新しいなにかを求めるのは楽しいぞ。先祖から受け継いだ伝統は大切だが、挑戦しなくなった職人なんぞ死んだも同然だ」


 ヒメが辛辣な意見を言えば、ムグナンは怒ることもなくずんぐりむっくりの肩を揺らせて姿勢を語る。同じ職人気質のコンは少し響いたらしく、こういうやりとりがあるから多くの大人との触れ合いが重要視される。あとハペコも同じことを言ったはずだが誰にも響かない。


 「そもそも美味しい野菜がないから、作物の世話の仕方から研究したほうがいいんじゃ?」


 ヒメの辛口コメントが止まらない。実際野菜といっても現段階では品種改良も何もない、そのへんに生えている比較的食べられる植物、という括りだからエグみが強くてまったく美味しくはない。


 「だな。そのあたりも近いうちに始まるかも」

 「大人がはなしあってるヤツ? ほんとにみんなくっつくの?」

 「それを話し合ってんだろ」


 現在結構な数の大人が別の村に出かけていて、リコピン村は閑散としている。ライが興奮気味に尋ねたように今村人最大の関心事は合併の噂だ。特に文化的な壁があるわけでもなし、農耕によって食料確保に不安がなくなって集まって暮らせるならそのほうか便利に決まっている。

 ただ、それが良いか悪いかは関係なく変化を嫌う人は一定数いるから話し合いの結果待ち、という状況だ。


 「あたらしいことをきらうってわかんね。ろうがいっていうの?」

 「こらライ、どこで覚えたのよ。セナちゃんが汚い言葉をつかったらどうするの。それにムグナンさんが今言ってじっせんしてるじゃない。新しいこと。歳は関係ないのよ」

 「あっ、モアイにーちゃんがあたらしい、おもしろそうなこといってた。もじつくろーぜ、て」


 姉弟の会話にセナが参入すると、モアイの名を聞いてコンとヒメは少しニヤけた。ヨセターゲッテに告って上手くいって本人は浮かれすぎていて、周りもイジっている。彼女の故国の文化を聞いて良いものは取り入れよう、といったところか。彼女が村に貢献する印象をつけて早く馴染める橋渡しをしているようでいじましい。


 「文字か。以前から伝え聞いたことはあったがすごく便利そうだな」

 「知ってたんならなんでさっさとつくらねーの?」

 「そりゃ難しいからだろ。他はまぁ、さっきから言ってる変化に抵抗あり、ってとこか」

 「うわー、それこそわかんね。だれにとってもいいことじゃねぇの?」


 ムグナンは寡黙なほうだが、思うままに口にするライを相手に珍しく喋り続けて少し疲れた顔をした。孫に振り回される祖父みたいな図。

 ヒメは聞くとはなしに聞きながらもとっくに飽きてセナを後ろからハグしていて、セナもいつものことだからおとなしくテディベアってる。ヒメにとっては森林浴、フィトンチッド的な何か?


 「文字は間違いなく便利だ。例えば今やってるような研究も記録を残すことでとてつもない恩恵があるって分かりきってる。でもな、何事も表裏一体。メリットがあればデメリットも必ずある。とてつもなく便利なものは、とてつもない危険とセットだ。変化を怖れる人はデメリットが見えるか感じてるってことだと思う」


 あるいは偏見による思い込みか。いかにもありそうとムグナンは苦笑したが口にはださなかった。


 「ムズいよー」

 「例えば魔法の使い方を口で説明出来るか?」

 「それはできないってみんな言うじゃん」

 「そう、出来ない。でもな、文字を当たり前に受け入れる人は説明出来ると思い込んでしまう。結果、百年二百年、もっと時間がかかるかもしらんが、そのうち魔法は誰も使えなくなる。魔法だけではない。文字によって、言葉では説明出来ない全てのことは言葉で説明しようとする過程で歪んで違うナニカにすり替わる。それが今は見えない巨大なデメリットなのさ」


 そしてデメリットに気付いた時には全て失われている。後世の人が口にする『神秘』は妄想フィクションであって、俺たちが感じる神秘とは別物なんだろうさ。言葉という便利な道具を使っていたら、言葉が同じでも中身が変わるとは皮肉なもんだ。ムグナンは苦笑を深めた。

 

 セナがふいに何かを閃いて、家の外に出て地面にしゃがんだ。それを横目に見ながらライはウガーと頭を掻きむしった。難しい話は無理。


 「けっきょく、文字をつくるってダメってこと?」

 「ククク、うんにゃ。早いか遅いかの違いだけで、便利なものは普及する。否定したってどうにもならんさ」

 「できた」


 外からセナのドヤ声と覗いていたヒメの嬌声。ムグナンたちがつられて見に行くと地面にお絵描きされていた。


 (´Д`) (鳥っぽい絵) ( ゜д゜) (歯ブラシっぽい絵)

 ( ゜∀゜)彡 (なにかのカタマリ) (゜д゜)


 「えーと、セナ?」


 カワイイ。カワイイけど意味不明。代表してコンが尋ねると、セナは胸を張って答えた。


 「おなかすいたなぁ、とりにくあった。そうだタレをぬって、テリヤキチキンうまー」

 「へ、へえ。使いこなすの難しそうだね」


 ちゃんと煮詰めたら理屈も国境も時代すら超えて全人類に伝わるトンデモ言語が生まれる可能性が|д゜)チラ見えしたけど、残念ながら誰にも理解されなかった(´・ω・`)

 



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