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秋分1 ひっくり返せ



 朝晩は涼しく、木々の緑に黄味がかってきたリコピン村に元気な掛け声が通る。

 コン、ライ、ヒメ、セナの子供組が木刀を振り上げ振り下ろす。

 セナは遊びにしか見えないが、他の子は真剣に訓練している。いつかは役に立つかも、ではなく必ず命懸けで戦う日はくるから手は抜かない。


 振り上げ振り下ろす、そんな単調な動作の繰り返しは特に子供は飽きそうだけど、三人とも一振りごとに剣筋を通す意識が伺える。

 子供たちに不満はないし、リコピン村では応用というものを教えない。例えば小手からの踏み込みだとか、フェイントだとか、斬り返しだとか、他人の技を見て学ぶことはあっても誰かに教わることはない。派生技は自分で作れ、となる。


 この立派だけど胡散臭い、サムライオタクの外国人が日本の道場に来たような態度の原因は、伝説の初代村長が残した名言にある。変わったことは大体コイツのせい。


 『武に限らずありとあらゆる技術に通じる真理、基本が奥義だ』


 意味が分からなくても口に出して言いたいカッコイイ言葉。実際大人のなかには振り上げ振り下ろす動作に死を感じさせる達人級もいて、子供たちもそれを見て基本の大切さを知る。

 それぞれ体格に合わせた木刀を振って汗を流すが、剣の訓練はあくまで基本。自主性を重んじて、格闘や弓や槍など好みの訓練も思い思いに始める。


 今日の保護者役、サホーリーが一礼しては(こぶし)を繰り出し空を切り裂き、対面に並ぶ三人も基本動作を繰り返す。ジャブを制す者がボクシングを制し、リバウンドを制す者がバスケを制し、感謝の正拳突きの果てに人外になるのだろう。コンだけは離れて弓をひいて的を狙う。ギリ常識人枠の少年にはついていけなくて。


 訓練は一時間程度で終了。集中力はたいして続かないし、長く頑張れば良いってものでもない。石器というか骨器時代のくせに精神論は鼻で笑いがち。まぁ時代は関係なく精神論と実力本位は水と油だから当然ではあるが。


 ひとり鍛錬を続ける、片手指一本倒立するサホーリーをよそに、子供たちは新しい遊びの開発会議を始めた。

 ちなみに地球の囲碁将棋やバックギャモンやボードゲームは紀元前発祥。日本も飛鳥時代に庶民がスゴロク風の遊びをしていた記録があるし上流階級は蹴鞠した。戦争と食料難のない、余裕のある環境は娯楽があって当たり前。

 だからリコピン村にも遊びはあるし、暇さえあれば次々開発する。ほとんどはヒットせず消えるけど。


 「五目並べ飽きた」

 「まぁワンパターン多いよな」


 ヒメの辛辣な意見に苦笑しながら肯定するコン。ここでいう五目並べとは、地面に線を引くマルバツゲームの延長のようなもの。流石に囲碁はない。


 「さらにボクのターン!」

 「な、なにぃー、てソレいいなセナっ。オモロそー」


 セナがルールを無視して連続攻撃。地面に丸い木片を並べて勝つとライもノリ良く応じる。面白そうならどうゲームに反映させるか、四人はゴニョゴニョ話してブラッシュアップしていった。


 形になってきたところでふいに広場から波紋のように広がる魔力波。魔法や身体強化を使わなくても、感情が(たかぶ)った時に魔力が吹き出すのはあるある。サホーリーの庭で遊ぶ子供たちも近所だから察知して、野次馬根性剥き出しに足を運んだ。


 「食後のデザート枠だ。食後。お前には難しい言葉か」

 「ハッ、出来たて熱々を出されて食後? ミハイル爺ちゃんに頼んでカキ氷作ってもらおうか。お前だけ食後までとっておいて溶けた水飲んでろプププ」

 「熱々だから、時間を置くと程よく冷めて美味しいんだろうが。いるいるぅー、熱いものは熱いうちに食べろとか主張する熱々信者。猫舌相手にマウントとってるつもりかよ強がって火傷を繰り返した挙げ句繊細な味覚を捨てたバカ舌がよぉ」

 「「あぁん!?」」


 広場ではいつもの光景。モアイとジダンが一触即発の口論をしていた。茶碗蒸し系の料理を先に食べるか後に食べるか、およそこれ以上下がないほど下らない争い。どちらの台詞がどちらの言い分とか心底どうでもいい。

 そして子供たちにとってはタイムリーなモニター。ライがとっとこモアイに駆け寄った。


 「兄ちゃん兄ちゃん、こんなゲームが━━、どう?」

 「へぇ、凝ってるじゃねぇの。いいぜ。ゲーム名は?」

 「え、かんがえてない」

 「ったくしょーがねぇなー。キーパーはパンチ、キッカーはキックのみ……、どんでん返し……、よし、PKリバースな。おいジダン、お前も手伝え」


 遊ぶためにライが自宅から持ってきていたボールを受け取ったモアイは不敵に微笑むと、少し離れて地面に両手をついた。ジダンも交えて何度か位置を変えて時間がかかるも、隆起した土壁完成。一枚の壁はサッカーゴール代わり。

 ちなみにボールはお馴染み歯ブラシにも使われるアツゲショウの茎を乾燥させたモノ。ゴム素材の使い途は無限。


 モアイとジダン、二人でゴニョゴニョ話し合ってルールを確認してからスタート。先攻はモアイ。壁から十メートルの位置にボールを置いて、助走の距離をとり、勢いをつけて迷いなく踏み込んでからのシュート。ジダンは一歩も動けず。


 壁に当たって跳ね返ったボールを取りに行く姿勢がなかなか間抜けだが目をつむり、次に二人は壁の隣り近く、子供組が見ている所まで行ってしゃがんだ。サホーリーの庭でコンが作った板と駒が置いてある。


 「えーと、んじゃココ」


 モアイは盤上、マス目の(すみ)に丸い木片を置いた。オセんっんっ、……リバースにおいて初見で四角が有利そうと考えるのは鋭い。

 また壁まで二人は歩き、今度はポジションが逆。ジダンは助走をつけてシュート。モアイは一歩も動けず。

 子供組の所まで戻ると、ジダンはしばらく悩んでから丸い石を角に置いた。モアイの真似をするのはしゃくだけど、角を放置するのはマズイと感じて。


 そしてモアイが再びボールをセット。ただし一回目より一メートル遠ざけて。これがこのゲームのミソ。シュートを決めれば駒を置ける。外せば敵が駒を置ける。ただしシュートを決める度に次のボール位置が一メートル離れて難しくなっていく。序盤はキッカー、終盤はキーパーのほうが駒を置く権利をとりやすい。終盤に連続攻撃が出来れば大逆転もあり得るがさてはて? という趣向になっている。


 モアイのシュートはゴール。まだ残る角に駒を置き、続くジダンも同じ。五ラリーあたりから緊迫感が漂う。

 そこそこ離れた位置からモアイの弾丸シュート。足の横ではなく甲を振り抜く初心者キック。コントロールはつま先ではないだけマシ程度。

 キーパーのジダンは読み切ってサイドステップからの腕を突き出してブロック。防ぎ方が格闘技みたい。


 舌打ちするモアイを無視してジダンは長考する。交互に駒を置く均衡が崩れた。このタイミングを計算出来れば序盤に勝確もアリでは?

 まぁジダンは切れ者ぶっているけどモアイと張り合っている時点でお察しではある。最善手が分からなくて、目先のより多く挟める位置に駒を置いた。


 二十ラリーを超えるとロングシュート。もうなんか壁の枠内に飛ばすだけで立派に見える。そして蹴っては盤上とにらめっこ、の往復が地味にしんどい。

 いよいよ終盤になり、盤上の空きは六つ。二人は肩で息をしながら構え、ひとりが雄叫びを上げながらドライブシュートを放ち、ひとりが上から弧を描くボールの軌道を読んで宙に跳び上がり、腕を交差してガード。素通りしてゴール。


 「「はぁ、はぁ、はぁ……」」


 どちらもバテてしまい、決まった喜びも決められた悔しさも顔にでない。


 「セナ、つまさきはいたくね?」

 「おやゆびのよこだよ」


 成長してトテトテ感がなくなってきたセナのシュートが決まり、キーパーのライはショックだけど強がって兄貴風を吹かせて心配してみる。


 「はい、はい、はい」

 「えぇー、角が有利じゃないのぉ?」


 コンは四角を制したのにヒメにフルボッコ。


 「「……………」」


 モアイとジダンは息切れしながら見つめ合った。


 混ぜるな危険、基本が大事。

 あと茶碗蒸しを先に食べるか後に食べるか問題は永遠に忘れられた。


 


 

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