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立春2 農耕、爆誕



 やけに低い位置でたなびき霧散しそうな綿雲のどこかから雲雀(ひばり)の歌が響き、リコピン村のほうぼうからも雲雀が合唱する。早春の風物詩である。


 雲雀A「ピピューイチュルルル(森から岩三つのライン、蜘蛛発見)」

 雲雀B「プュルルチューイ(オネー様んちの裏、蛾の幼虫発見)」

 雲雀C「ピーピーチュチュ(隠しボスんちの庭にミミズ多数、アレ食えたっけ?)」

 ???「ぷるるぴーよん(ククク、いつまで捕食する側のつもりだ?)」

 雲雀A「ピ」

 雲雀B「ピピ(ま、まさか……)」

 雲雀C「ピューーイ(セミだっ、なんてこったもう夏だったのか)」


 混乱して飛び立つ鳥たちを眺めてセナは庭の世話に戻った。友達をからかう愉悦を覚えて邪悪な笑みを浮かべる幼子、末恐ろしい。

 セナには鳥の言葉など分からないが、噛み合わないなりになんとなく通じている気はする。精霊と出会ってからより感覚が鋭くなった気もする。

 昨日の一件を両親に話したが理解してもらえなかった。「ワンワンとねーちゃが生えた」で理解されたら伝言ゲーム無双レベルのミラクルではある。そしてセナも過去や細かいことは気にしない。大事なのは現在(いま)。そう、友達無限増殖の裏技に再現性があるかどうかが重要なのだっ。


 結局昨日は精霊は天に昇って消え、植物狼も悲しげにうなだれて地に吸い込まれて消え、セナが種を埋めた場所には小さな芽だけが残った。

 セナはしゃがんで芽を見守り、三分ほどで疲れて座り、十分ほどで飽きて、地中に魔力を通してほぐしてみた。刺激を与えたらワンワンが出るかも、と期待して。


 「あらあらまあまあ、芽が出てるっ。えっ、二日続けてウチのコ天才やん? 才能がとどまるところを知らないとかナニコレどうしましょう」


 背後から称賛の声が。セナが振り返ると母のテンションが壊れてアワアワしている。嬉しすぎてまともなリアクションが分からなくなって、ダッシュでその場を去った。とりあえず目についた人に自慢したいらしい。


 マイペースなセナは庭の世話に戻った。友達爆誕は全セナが待ち望んでいることではあるが、そもそも庭は森まで行かなくてもオヤツ食べ放題(バイキング)という夢のシステムを構築するために作ったわけで。芽が出た以上は成果アリ、次のタスクに進んでもいいでしょう。脳内で上司のGOサインを受けたセナはフンスと鼻息荒く気合いを入れた。


 「ばななはオヤツにはいりますか? いいえばななはゴハンです。リコピンばな奈はオヤツですか? いいえドリームです。ばな奈なーばな奈なー、ば(しち)(はち)(きゅ)ーん」


 トランス状態でテキトーな歌を口ずさみながら石を拾い集めて、ここボクの農場です土足も裸足も厳禁エリアを設置した。三メートル四方になるよう石を並べて囲っただけだが幼子には重労働だ。

 木綿の上衣の胸元を緩めて火照った身体を冷まし、一息ついたら農場にしゃがんで両手を土に当てて集中。縦横三メートルかける深さ二十センチメートル、これくらいの体積が今のセナにいじれる精一杯。いや別に一度にまとめなくていいけど、それはそれ、生産性とか三歳は考えないから。


 地中に魔力を染み渡らせてシェイク。細かな隙間だらけにして魔力の糸を通り道に風を誘導すると、上から空気がシュコーっと流入。庭には森で見つけて誘拐(スカウト)したミミズたちがいるから地中はコレでよし。


 昨日仕留めたご褒美にたくさん食べた猪の、捨てるだけの骨を貰って集めておいた。ちなみに解体された猪は総勢約五十人の村人に行き渡り、内臓のほとんども食べられる。内臓でもそのへんの草でも食べられる物は食べる。飽食の環境以外は当たり前のことではある。


 一抱えもある大腿骨に魔力を浸透させて水気を抜いて乾燥させてから粉末状に破砕。小山の粉を両手ですくって土にまいて準備完了。骨の何がいいのかは分からない。ただ、動物が生まれて死ぬ森を思えばきっと無駄じゃない、そうセナなりに考えているのだ。あとやっぱり精霊が関係しているのか、土の声?が聞こえる気がする。


 『骨を砕いてよぉ、白くてサラサラな粉にすんダロ? ソイツをよぉ、吸わせてくれよグヘヘ。トリップだよトリップ。ア? あーイライラする何で分かんねぇんだよカルシウムが足りねぇんだよ早くそのブツ寄こSeee』


 セナには何を言っているのか分からないことだらけだが、あげすぎるとダメなことは分かった。


 土作りが終わったら種まき。いや、播種か株分けか、これは何といえばいいのやら。

 一度家に入って持ち出したるは完熟バナナのもうちょい先。皮の全てが黒を超えて漆黒に艶光り、バナナの限界に達した。セナは感動と敬意を込めてシゲルと呼ぶ。なんとなく。

 シゲルにはもう先がない。明日にも腐って溶け崩れそうな儚さを押し隠し、全力で愛を熱唱しながら散ろうとするかのようにソウルフルにマツザキってる。


 本当にそうか?


 先日疑問を持ったセナが悪魔の実験を行い、幸か不幸か成功してしまった。

 シゲルを包むように両手で持って、ゆっくり、けれど途切れることなく魔力を注入。

 これ以上は爆発しそう。そんな目に見えない張力が空間を圧迫しても魔力を注いでいくと、シゲルは突然変異、いや、豹変した。親友を爆破されてキレ散らかして覚醒した武闘家の如く、漆黒の限界すら超えて黄金に光り輝いた。


 セナはスーパーシゲルをソっと土に埋めて黙祷を捧げた。自然のバナナはこうやって魔力を浴びて育つはず。きっとそう。


 背後から盛大に拍手されて振り返ると、母を含めて十人くらいの村人がスタンディングオベーション。いや最初からスタンディングだけど。感極まって涙を流す者もいる。涙腺スイッチは人それぞれ、セナはまたひとつ学んだ。

 村長、オネー様がスーパーシゲルとは別の、芽が出たほうを間近に覗き込んで言った。


 「ほんに成功しとる。親バカではなく神童じゃったか。セナや、土は魔力を通して柔らかくするのかい?」

 「あいっ」

 「骨を粉にしてまくといいのかい?」

 「たぶん? かいもよさそう」

 「ほう、貝ねぇ。森も海も生まれて還る循環は同じ、と。言われてみれば道理じゃな。ほんに賢い。セナや、村に広めていいかい?」


 名声だの承認欲求だのとは無縁のセナには聞かれた意味が分からない。いいに決まっている。だから元気良く返事すると、ひとりの村人がおずおずとオネー様に意見した。リコピン村の見切りビビラー、ガシュウだ。


 「あのー、セナちゃん魔力の使い方がぶっ飛んでて真似出来る人少ないんじゃ? 俺も基本の身体強化しか出来ないし」


 ほとんどの人は体内に魔力を巡らせる身体強化までしか出来ない。出来るだけでスゴい? 動物が変異した半魔や世代を重ねて原型も消えた魔物が普通にいる世界で、出来なければ淘汰される。

 ただ、魔力の扱いなんて理屈も何もなく、誰にも説明不可のフシギパワーだから、才能(センス)に依存する。セナがよく使う魔力の糸も、自分の身体の外に見えない手を伸ばして自由に動かしているわけで、大抵の人に出来るわけがない。自分には見えなくても翼があって空を飛べる、そう信じきって躊躇なく高所から飛び降りることの出来るある意味アタマおかしいタイプがチカラに目覚めやすい。


 「なにもセナとまったく同じ過程をなぞる必要はない。芽が出る条件を同じに出来ればいい。骨や貝を砕くのは人力でも良かろう? 地面を柔らかくする、耕すと言えばいいのか、それも人力で出来ることだな」


 ガシュウの疑問に対し、リコピン村のご意見番四天王、氷雪のアハ体験ミハイル爺が応え、周囲は納得してどよめいた。

 

 こうしてリコピン村で農耕が始まり、やがて周囲の村落にも伝播し、少しずつ、けれど確実にライフスタイルが、思想が変わっていくのであった。

 時代(かぜ)が動き始めた。サスオネ。



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