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大暑1 宗教上の理由により妊婦は酒NG



 蝉時雨(せみしぐれ) 歌う生き様 前のめり


 『AM3時棺を蹴破り復活何年寝てた? いきなり婚活タイムリミット十日て冗談キツいぜ、よおブラザーお前も今起きたのかい、周りを見ろよ全員ヤローだとさ、全員ライバル全員蹴飛ばしやることヤッたら足腰ガクガク木につかまってられへん、背中から宙へスローモーション走馬灯短っ尺足りないじゃん無理無理無理無理メスメスメスメスせめてハーレ……』


 魂の叫び、るっさい。セナは顔をしかめた。聞こえるっていいことばかりではない。

 耳はシャットダウン。村に点在するもともと生えていた成木に群がり、オスの壮絶なセミ生を大合唱する連中から目を転じて素敵な光景を堪能しよう。

 

 月は大きな青い月と小さな赤い月があり、それぞれガニメデとイオと名付けられているけど、ほぼ使われることはない。赤い月のイオは見えない夜が多いせいで、月と言ったらもっぱら毎晩見られる青い月のガニメデを指す。


 新月から満月に、そして新月に戻る一巡りを一月と呼ぶ。

 ちなみに月だけ見てたら一年はズレる。閏年や閏月を作って調整なんて難しいことは誰も考えない。今日は何月何日という概念がないから、そろそろ新年ぽくね? あけおめー、のノリでやり過ごす。


 さて、毎月満月の日は近隣の村から物資が集まり交易を行う。主に位置関係の都合により、リコピン村の開催が多い。漁村が大漁だからソッチに集まれー、というパターンが例外になる。

 お金そのものがないから物々交換になる。お金がないと犯罪の大半は起きないのがメリットだが、気前の良さも目立つ。損得勘定の概念が薄い、とでも言おうか。


 そろそろお昼時。母と手を繋いで森から帰ってきたセナの目には、他村の人が引く荷車が映った。少し前までは二人が担ぐ棒に荷をぶら下げる方式だったのに、あっという間に便利な大道具が普及した。

 おかげで運搬人が減ってしまい、そこは少し寂しいが、普段より賑やかになる村の雰囲気に自然誰もが浮足立つ。


 他村の人々も、リコピン村に来て目を見張った。

 農業、骨の武器の有用性や道具の発明など、最近リコピン発の変化に周囲の村落も飲み込まれているが、ちょっと目を離した隙にファッション革命が起きていた。


 染色は試行錯誤中でまだ成功例はないけど、タンクトップやTシャツ、ワンピースにベストなどなど、シルエットが様変わりした。


 もちろんアガサが広め、女衆がかつてないやる気を出して、日々新しいアイテムが生まれている。

 ファッションに知識の積み重ねはないよりあった方がいいとしても、必須ではない。他者にウケるウケないは別として、思いついたモノを形にすればいいだけだから、誰かが一歩踏み出して後押しすれば一気に広がる。


 帰宅途中のセナには見えないけれど、今ごろ広場に大勢集まって、リコピン村の面々はドヤ顔で自慢の格好を見せびらかしているのだろう。

 もっともセナの関心は広場に集まる物だが。


 リコピン村の特産物は肉の加工品。鳥や鹿、猪といった普通の動物の肉も需要はあるけど、なんといっても魔物化したそれらの元動物の肉がリコピンブランドになる。安定して狩れる人は滅多にいないから。


 ついでに言っておくと、ゴブリン、オーク、オーガのような人型、あとレアケースだが古代種(エンシェント)ドラゴンやユニコーンなどの幻獣、ケットシーやピクシーといった妖精など、知性の高い生き物は食べない。猫の皮で三味線を作るように、道具になることはあるが。

 何がセーフかアウトかの線引きは所詮偏見とはいえ、カニバリズム寄りの風俗は病みすぎる。大半のジョッキーが馬肉を食べられないのと同じ。


 他村の特産物は、酒、塩、ハチミツ、干物、香辛料、そして魚醤。

 そう、近日中に照焼きチキンが食べられることが確定した。確定を申告された。「照焼きチキン、お納め下さい」良いでしょう。税務官セナは些細なズルも見逃しませんよ?

 

 お昼寝から起きて庭の手入れなど一人遊びに興じて、日が落ちると夕食をとって、セミが鳴き止む夜。子供たちは一軒の家に集められた。

 家主はご意見番四天王、干し肉ガーディアンのムグナン爺。

 大人たちはこれからプチ宴会。今日は下戸のムグナンが保育士係をかって出た。


 元気な子供たちも暑さにバテ気味だから、おとなしくおしゃべり中心にまったり過ごしている。最近発明にハマったコンが、あんなこといいな出来たらいいな的な要望を聞くけど、参考になりそうなアイデアは出ない。宇宙(そら)へ……? ホップステップワープすな。


 「オレ、魔法つかいてぇーよー」

 「ビーストの魔法、本人も分かってないってお手上げね」


 ライは心折れてショボンとした。どう練習しても出来そうな手応えがない。ヒメも自信はないなりに弟は祖父と同じビーストの魔法が使えると感じ、両親にどんな魔法か尋ねてみたけど、答えはまさかの本人曰く、身体強化とどう違うのか分からない、なんか威力スゲーって残念なものだった。


 「魔法は理屈をこねるタイプは使えないと言われる感覚の問題だからな。アドバイスなんて誰にも出来ん」


 聞くとはなしに聞いていたムグナンに言われ、ライはさらに肩を落とす。

 そんなライを見て、セナはコテンと首を傾げた。


 「にいちゃん、つかってるよ?」

 「「「え?」」」


 全員ハテナ。セナは魔力の糸を出して、ライの顔の前でユラユラ動かした。それを見てヒナがハッとした。どうして誰も気付かなかったのか。村の誰にとっても当たり前のことだからスルーしていた。

 ライはまだ身体強化を使えない。ここにいる子供組は全員使えない。コンが使えるようになってきたらしいがそれはそれとして、この村で唯一、ライだけが身体強化も魔法も使えない。

 だとすれば、セナの魔法の糸は見えないはずなのに。見えているのだから、セナの言う通りライは何かの魔法を使っている。


 「あー、ほぼ外に現れない何かか」


 ムグナンに思い当たるフシがあったらしい。


 「嬢ちゃんの魔法は軽量化だったか。それって触ることが条件だろ? 坊主も同じ。触って何が起こるか分かってないから何もないと勘違いしてるんだな。特に小さいうちは危険なチカラは出せなくて余計分からないから今は焦りなさんな」

 「? にいちゃん、ソレにぎってナイナイっておもって」


 ライは目の前で揺れる魔力の糸を握り、意味は分からないなりに素直に消えろと念じてみた。すると消えはしなかったが、言われて良く見てみれば分かる程度には薄くなった。


 「ビーストとやらはそういうことか。魔法の妨害。自分は身体強化しつつ、相手の身体強化を無効化して殴ればそりゃ強いわな。むしろエグすぎる」


 発動条件は触ること、だとすれば使い方が難しくはあるが、有用性は間違いない。


 「魔法は身体から離れれば離れるほど難しい。当たり前だが離れた場所の物に触るなんて本来無理だからな。魔力でどこまで干渉出来るかはイメージ次第だが、触って、というか掌から発動という人が大半だ。坊主、ライは焦りすぎ。自分は何でも出来る、とでも思っとけ。魔力で繋がってもない場所から魔法、なんて出来たら人間やめてるがなハッハッハ」

 「え?」

 「「「え?」」」


 そのころ、広場のキャンプファイヤーの明かりに揺らめき酔って踊る人々。情報交換や親交を深める大事な機会だ。もちろん他村だけではなく仲間と語らうこともある。


 「そういえばアガサ、セナちゃんってどんな魔法を使うか分かってるの?」

 「まだ分かんないわよ。『自分』が出来上がる十歳くらいまではどうとでも変わるしね」

 「まぁそうね」


 ただ、とアガサは人差し指を唇に当てて夜空を見上げた。満月のせいで星明かりは少ない。


 「春にあの子、半魔の猪を倒したの」

 「それ何回自慢するつもり? まぁスゴイけど」

 「実はまだ話してないネタがあるのよ。私自身、あれが事実かどうか、荒唐無稽すぎて信じられなかったから」

 「もったいぶるじゃない脳筋(アガサ)のくせに。貴女からあんな神童が産まれたことが荒唐無稽すぎて信じられないわよね」

 「悪いニュースと最悪のニュース、どっちから聞きたい?」

 「どっちもお断り。いいから続けて」

 「……あの時、あの子ね、()()()()()()()()()()()()。実戦経験豊富な私より探知能力が上ってどうゆうこと?」


 だから動揺して猪ごときにおくれをとってしまった。あの魔力の糸もたいがい器用だけど、そもそも空間認識力が神ってるのよね流石私の息子サスセナ、とアガサはドヤ顔した。彼女にとっては自慢出来れば何でもいい。


 「「「え?」」」


 セナ、離れた場所から魔力の糸を出して遊ぶ。

 だからホップステップワープはやめてもろて。



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