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第四話

「お主の妹、良い塩梅に拗らせすぎておるのぉ」


「大創造神様……何せ、神になる前から拗らせているに、神となってからの千年というもの、ひたすら神として自身の世界の管理に没頭していたものですから……はぁ」


 とある新界の神殿に映し出せされる映像を見ながら、口では呆れていそうな言葉を発しながらも、顔は生暖かい表情を見せる大創造神と、本当に困った顔をしている美丈夫の男神の二人が映像を肴に神酒を呑み交わしていた。


「お主の妹は、見事なツンデレ女神ヒロインだの」


「私の妹の恋路を、酒の肴にしないでもらいたいものです。しかも、それを兄である私を相手にしながらとは、趣味が悪すぎます」


「お主の妹の尊さを、独り占めしては尊さの損失じゃぞ」


「私が管理する世界の文化を大層お気に召したのは光栄ですが、我が妹で遊ばないでいただきたいものです」


「……お主の右手が握っている酒は、なんであるのかのぉ」


 全身を銀色に輝かせながらも、呆れ顔で女神の兄である男神に半眼を向ける大創造神であったが、ただの酔狂で女神の世界を覗き見しながら酒を楽しんでいる訳ではなかった。


「奥手の女神が人の子に惚れて、ツンツンしながらも、心ではベタ惚れであるのにも関わらず、相手が逆の感情を抱いている状況になっておるのだが……控えめに言っても、最高じゃないかの?」


 神の世界には、娯楽が少なかっただけだった。


「それは否定できないのは、事実! だがしかし、妹が報われて欲しいと思うこの気持ちもまた真実なのです!」


 女神を妹と呼ぶ男神も、いつの間にやら、大ジョッキに注がれた生ビールにしか見えない神酒を飲み出していた。そして既に出来上がっていた。


「人の身である時から、妹は仕事一筋で……色恋沙汰に一切関わることなく、女神へと自らの魂の格の位階を高めました。それは、兄としてもひじょぉおおおに誇り高いのデス!」


「神が酒に呑まれてどうするのだ……」


 実は大創造神が兄に絡んでいるのでなく、その実態は兄が大創造神に酒によって絡んでいるのであった。


「だぁてそうでしょうぉおおともおおお! こんなに可愛くも美しい妹など、どの異世界を探したところいないのにも関わらず……あの男はぁあああああ!!!!」


「そんなに気に食わない相手なのであれば、適当に異世界にでも飛ばしてしまえば良かろうに」


「そんなことしたら! そんな事したら……妹が悲しみますので……うぅうぅぅ」


「兄は兄で、拗らせておって面倒くさいのぉ……」


 仕事一筋だった妹の初恋を、兄は応援したかった。


 妹の属性が、兄の管理する世界で言うところのツンデレであることが分かってからと言うもの、いつデレを相手の男に向けるのか、嫉妬と怒りで悶えながらも、その瞬間を兄として見届けようと決意していた。


 だが、一向に妹のデレは見られなかった。


 この男神の妹である女神は、ツンデレ属性に加え、拗らせ女子属性も合わせ持っており、〝ツンデレただしデレの発動条件は未だ解明されず女子〟という、男からの視点で見た場合、ただの性格きつめの美人でしかなかった。


「惚れた相手のおらぬところでは、ちゃんとデレておるのだから、見ておる分には、その焦ったくも、もどかしい感じが、尊いがの」


「惚れた相手が、世界を滅ぼそうとした男の生まれ変わりであり、前世の記憶がないにも関わらず、我々に対しては、過剰なほどに嫌悪感を抱いている相手だというのですよ! しかもその事を妹は、しっかり把握しているのですよ!?」


「そうじゃのぉ」


「贔屓目に見たとしても、うちの妹は変態なのでしょうか!?」


「そうじゃろうのぉ」


「あぁ!? やっぱり!?」


「悪い意味ではなく、尊い意味での変態じゃぞ?」


「良い意味ではなく、尊いとは!? って、先ほどから随分とうちの世界の文化に毒されてますが、大創造神たるお方が、一つの世界の影響を受けるすぎるのは、どうかと思います」


「あれだけ取り乱しておいて、急に仕事モードに戻れるとか、妹より気持ち悪いぞ、お主」


 完全に酒に呑まれて取り乱したようにしか見えなかった女神の兄は、敏腕秘書のように大創造神の横に姿勢良く立ち、真摯に苦言を呈していた。しかし、先ほどのシスコンおよび酒乱を見せられている大創造神としては、兄の言動には呆れるばかりであった。


「お主の要望どおりに、我々が封印したかつての魔王の肉体を復活させて、吊り橋効果であの二人をくっつける手筈は進めたが、大創造神としては職権濫用な気がするがどうかの?」


「我が妹の前に、大創造神様の権威など紙屑同然なので、全く問題ありません」


「お前、それ素面で言っていたとしたら、大問題じゃからな?」


「妹の幸せの為ならば、魔神にでもなりましょうとも」


「二人の恋のラスボスが兄とか、急にその辺の人間のよくあるシスコンの話に成り下がったのじゃが、本気で堕ちそうじゃから口にだすではないわ、バカタレが」


 ドヤ顔で天高く拳を突き上げながら宣言する兄を見て、大創造神のお気に入りの世界の一つの危機が近く訪れそうで、頭を痛くする大創造神であった。


「しかし、いくら妹の好いておる相手が憎しと言っても、封印を解くと同時に、魔王を魔神に格上げさせた状態にしてくれとは、随分と厳しい兄じゃの」


「……え? 魔王を魔……神に、格上げ?」


「お主の眷属神が、わしのところに申請書を持ってきたときに、本当に良いのかと確認したのじゃが……」


 〝我が主のたっての希望でございます〟


「自信満々の顔でそう言うものじゃから、そのようにしたのじゃぞ?」


「どゆことぉおおおお!?」


 神世界に、女神の兄の取り乱した絶叫が響き渡ったのだった。

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