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第一話

 とある世界に存在する国に、ある青年が暮らしていた。


 彼は、その国の第一王子であった。


 文武両道であり国民や臣下からの信頼も厚く、継承権第一位であるというだけでなく、次期国王は彼であると、誰もが思っていた。


 しかし、突如として彼の身に危機が訪れる。


 〝魔王の出現〟と〝女神の神託〟である。


 女神の神託は、女神の巫女と呼ばれる少女が、大聖堂で授かり、その内容はこうだった。


 〝世界を絶望の淵に陥れる災厄の魔王が、邪神により生み出されました。対抗できる手段を、我が子らに伝えます〟


 こうして、異世界より〝勇者〟を召喚する術を女神より授かった巫女は、各国の首脳陣に即座に伝えた。


 そこで首脳陣は、全員が悩むことになる。何故なら、巫女が女神から授かった召喚陣を発動するのに必要な魔石の量が、尋常ではない量であったからだ。大国が一年間に消費する魔石の量とも言え、とても即断できる事ではなかった。


 そして首脳陣の決断を鈍らせる事実として、〝魔王の存在と脅威の証明〟が成されていないことにあった。


 女神の神託があってから、一ヶ月余りの時間が経っているが、各国ともに魔王からの被害を受けたわけでもなく、魔王から何か全世界にむけて存在を主張する出来事もなかったのだ。


 実害もなく、存在すらも確認できていないものの為に、尋常では無い量の魔石を使用するとい決断は、極めて現実的ではなかった。


 しかし、女神の巫女による神託は、決して無視できるものではなかった。この世界において宗教とは、女神フィリアソラを称える一神教でありのみが存在しており、その為に教会が持つ権力は国という形を持たないものの、一組織がもつ権力としては異常な程に力をもっていた。


 そしてその女神の声を受け取ることが出来る〝巫女〟とは、その中でも別格とも言える存在であり、〝神託〟として伝えられる言葉の重みは、どの国のトップよりも重かった。


『女神様は、〝対抗できる手段を授ける〟とおっしゃのだ。必ずしも、勇者召喚を行うことはないのではないか』


 誰がこれを発言したのか、皆が記憶にないととぼけたが、その言葉により三日間続いた各国が用意する魔石の配分会議は、やっと終わりを告げた。


 見事な〝棚上げ〟であった。


「父上、それがどうしてこうなったのですか!」


 ニッフォン王国の首都トキュウにある王城の玉座の間において、王国第一王子であるリュカは、父であり現国王シアサに詰め寄っていた。


「リュカよ、落ち着くのだ。お前もこうなるのではないかと、思っていたのだろう?」


 玉座に座るシアサ王は、息子の常人であれば尻込みするような怒気に晒されてなお、特に気圧されることはなかった。


「千年ですよ!? 我々は、いつまでその責を背負い続けなければならぬのですか! このままでは、さらに千年も子孫達にまで追わせ続けるおつもりか!」


「千年は、エルフ族の王や竜人族の王にとっては、そこまで古い感覚にはならないようでな。獣人族やドワーフ族の国々からは同情されたが、それでも誰かが変わってくれるという話にもならないのだよ」


「エルフの婆ぁ竜族の婆ぁめがぁああ!」


 王の御前と言うことは、当然護衛騎士や重臣達もその場に居ると言うのに、激昂する息子を王はあえて諌めようとしていなかった。


 何故なら、この場にいる者達全てがリュカと同じ思いであり、それをリュカが口に出せぬ彼らに代わって代弁しているにすぎない事を、王もまた分かっているからだ。


 遥か今より千年も昔、人族の国々が連合となって世界へと戦争を仕掛け、それが世界大戦へと至った。


 どうしてそのような暴挙を人族の国々がしでかしたのか、千年も前のことであり、記録も殆ど残っていないが、たった一人の〝暴君〟の出現だったと言うことだけは、御伽噺などでかろうじて残っていた。


 結果として、人族は他種族の国々の連合軍によって敗北。その際に当然、敗戦国には賠償金や他国に対する条約などを結ばされた。そして現在、今でもその条約などを継続しているのは、このニッフォン王国のみであった。何故なら、千年という時間は人類にとっては、長すぎた。


 当時の連合国に名を連ねた国々は、ニッフォン国を残し滅び、そして国か新しく起き、そしてまた滅びを繰り返した。その結果、当時の人類の愚行の責任をニッフォン王国のみが背負っている状態になっていた。


 他国との不平等な条約、魔石の供給など、ニッフォン王国は背負いながらも、滅びることなく千年を生き抜いた。しかし、それが皮肉な事に、今の状況を生んでいた。


 今回のような世界規模の課題が、首脳会議の議題にあがると、その尻拭いを最終的には、ニッフォン王国に押し付けられることが殆どであった。


 魔石の採掘量減少時の国庫負担、古代種の魔物の討伐、突然変異種の対処等、どの国も手を出したくない事案を、首脳会議にて毎度のように押し付けられていた。


 〝お前達には、世界を滅ぼそうとした責を負わねばならぬ。我らには、つい昨日のように地獄の様な戦争の光景が目に浮かぶのじゃ。嫌とは言わぬな?〟


 人族からすれば不老不死と表されるようなハイエルフの女王と竜人族の女王の言葉は、千年前の事を当事者として責任を追求する姿に、口を挟む者はいなかったのだった。


 だからこそ、女神の神託から三年目の首脳会議の際に、召喚を行わない各国首脳陣に痺れを切らした教会が、召喚を迫った際に矛先がニッフォン王国へと向いたとしても不思議ではなかった。


 そして、それを断る理由がシアサ王にはなかったのだ。


 結論として、魔王調査団を派遣することになるのだが、当然のこととして、これまで魔王が姿を表していない訳である為、そもそも魔王が何処にいるのかも分からなかった。


 その事を理由に、シアサ王は調査団の派遣計画の即時停止を求めようとしたが、先手を打たれた。


〝安心するのじゃ、シアサ王。妾らとて全てを貴公に押し付けるわけではないのじゃ。これまでの三年もの間、ただただ何もしなかった訳ではないのじゃよ〟


 竜人族の女王は、幼い容姿でありながらも、言葉にのせられる覇気は尋常ではなかった。


 竜人族は竜を使役することが出来るが、女王ともなると竜とも会話をすることが出来た。その力を使って、大陸全土を大まかではあるが調査を行なっていた。そして北の大陸に、魔力の揺らぎを見つけていたのだ。


〝道中は、妾が誇る竜騎士がしかと送り届けるのじゃ。貴公は、貴国の()で鬼神とまで謳われる息子を調査に向かわせれば問題なぞないじゃろうて〟


 半ば小馬鹿にした様な笑みを浮かべながら、竜人族の女王はシアサ王にそう告げたのだった。そして、今年の首脳会議において、北の大地への調査が決定し、調査団の団長をリュカとする事も、決定事項となったのだった。


「人族でありながら、その強さを示すお主への嫌がらせも含んでおるのだろうよ。全く、自分達を我らの上位種等と考える奴らの嫉妬は、醜いものよ」


 大きく嘆息を吐きながら、シアサ王は眉間に皺を寄せていた。しかし、〝強さ〟に関しては世界一とも言われる強国を統べる女王から、その〝個の力〟に対し並々ならぬ興味を持たれる息子を誇らしいとも感じてしまうところが、思わず苦笑となって表れてしまうのだった。


「父上、笑っている場合ではありませんよ。あの幼な婆ぁは、国の持つ強さに溺れぬ強かさを持っております。今回の魔王の所在に関しても、自らが動かないと言うことは、我らに知らされておらぬ何かがあるかも知れません」


「分かっていても、首脳会議で決定してしまったものは、動かざるを得ん。飛竜騎士団が、お主を迎えに来るのは、今より一ヶ月後だそうだ。それまでに、調査団の人選及び装備等の準備を終えるのだ」


「一ヶ月ですか……何を言っても仕方のないのですから、しっかりと勤めあげることだけ考えることに致しましょう」


「頼んだぞ」


 そして、リュカは王へと一礼すると、玉座の間をあとにするのであった。


 玉座の間を退室した後、自身の執務室へと向かう廊下で、リュカは声をかけられた。


「リュカ様、如何でしたか?」


 腰まで伸びる日の光のような美しい黄金色の髪を揺らす美しい青年は、リュカの幼馴染であり、それと同時に彼の良き理解者であるノアが、まるでリュカが来るのを待っていたかのように声をかけてきた。


「どうもこうもない。また厄介事を、あの幼な婆に押し付けられたのだ。しかし、今回は教会が寧ろ積極的に動いている所が、面倒極まりない」


 足を止めることなく歩き続けるリュカに合わせ、ノアもまた合わせて歩き出した。


「出立までの時間は、如何程でしょうか?」


「一ヶ月後に、飛竜騎士団が迎えに来る。それまでに調査団の統括をノアに任せる。俺の権限を使って人と物の手配を頼む」


「畏まりました。それでフィソラ様の説得は、出立までに間に合いそうですか?」


 自身の婚約者である公爵令嬢のフィソラの名を聞いたと途端、リュカの足が止まった。顔は苦虫でも噛んだかの様に、眉間に深い皺を作っていた。


「北の大地への調査の話を何処で耳にしたのか知らんが、昨日から調査を断れと酷くてな。どうしても行くなら、自分も着いていくと酷く駄々をこねてな」


「それだけリュカ様の事が心配なのでしょう。可愛らしいではありませんか」


「可愛らしい……か」


「リュカ様?」


「いや、そうだな。あれの説得は済ませておくから、調査団の方は頼んだぞ」


「はい、お任せください」


 辿り着いた執務室の扉の前でノアにそう告げると、リュカは一人で執務室の扉を開き部屋へと入ったのだった。


「フィソラか……本当に忌々しい限りだ」


 座り心地の良い上等の椅子に腰掛けながら、リュカはこれでもかと言うほどに苦々しい表情を浮かべながら、自身の婚約者の名を口にした。


 そこには、愛情を一欠片も感じないどころか、怒気が多分に含まれていた。


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