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恋愛もの

常にポーカーフェイスの笹原さんが笑うと可愛いのを僕だけが知っている

作者: たこす
掲載日:2023/04/08

「笹原ってさ、笑わねえよな」


 クラスの誰かがそんなことを言った。

 教室中に響くほどの大きな声だった。


 それはふざけて言っているというよりかは、悪意に満ちた言い方だった。


 誰が言ったのか、それは問題ではない。

 問題なのは、その言葉にクラス中の生徒たちからクスクスと笑い声が起こったことだ。


「もしかして、未来から来たアンドロイドとか?」


 クスクスという笑い声はさざ波のように広がっていった。

 男子も女子も関係なく笹原さんを見て笑っている。


 僕はそれを見ながらどうしようと思った。

 別に変な正義感を振りかざして注意しようと思ったわけではない。

 僕が笹原さんの隣の席だったため、こちらに飛び火してこないか心配だったのだ。




 しかし当の笹原さんは我関せずといった表情で、その言葉を聞き流していた。

 いや、もしかしたら本当に聞いてなかったのかもしれない。


 ただ黙々と自分の席で本を読んでいた。

 相変わらずのポーカーフェイスだ。


「おい、なんとか言えよ」


 無視されたのが癇に触ったのか、悪口を言った男子が詰め寄った。

 そこで僕は初めて誰が言ったのか気が付いた。


 おかくんだった。


 ひねくれ者で、皮肉屋で、気分屋で、不良一歩手前の男子生徒。

 僕にとってあまりお近づきになりたくないタイプである。

 そんな岡くんは素行にも難があり、笹原さんの読んでいる本を取り上げた。


「澄ました顔しやがって」


 そんなことも言っていた。

 すると笹原さんはおもむろに立ち上がり、本を取り上げた岡くんに思い切りビンタをかました。

 バチィンと、それはもう小気味いい音が教室中に響き渡った。


 一瞬にして静まり返る室内。


 岡くんもまさかビンタされるとは思わなかったのだろう。

 頬をおさえながら信じられないという目で笹原さんを見つめていた。

 そしてその笹原さんは何事もなかったかのように岡くんから本を取り戻すと、席についてまた黙々と本を読み始めた。



 不本意ながら、僕はそんな笹原さんを「カッコいい」と思ってしまったのだった。





 放課後。


 図書委員として図書室のカウンターに座っていると、不意に笹原さんが現れた。

 どうやら読んでいた本を返しにきたらしい。

 岡くんに取り上げられた本って図書室ここの本だったんだ、と思いながら笹原さんから本を受け取る。

 それは僕の好きな作家の本だった。


「あ、この本知ってる」


 ボソッとつぶやくと、笹原さんは目を丸くして僕を見た。


「え? 知ってるの?」


 信じられないことに、あのポーカーフェイスの笹原さんが驚きの表情をしていた。

 逆に僕の方が少し驚いた。


「……う、うん。ヨロズ・ゲンジだよね? 僕の好きな作家だよ」


 すると笹原さんは目を輝かせながら「そう! ヨロズ・ゲンジ!」と声を弾ませた。

 思わず「シーッ」と人差し指を鼻にあてる。

 笹原さんは「あっ」と言いながら口をおさえた。


 そして、ひっそりとした声で「あなたもヨロズ・ゲンジ好きなの?」と聞いてきた。


「うん好きだよ。笹原さんも?」

「うん、好き。大好き」

「面白いよね、この人の小説」


 笹原さんは顔を真っ赤にしながら「うん! うん!」と声に出さずに大きくうなずいた。

 昼間のクールさとは打って変わったその態度に、僕は少しおかしくなった。


「笹原さんがそんなにヨロズ・ゲンジ好きだったなんて知らなかったな」

「私も、まさかクラスにヨロズ・ゲンジ好きがいるなんて思わなかった」


 そう言って笹原さんは嬉しそうに笑った。




 この時この瞬間を、僕はきっと一生忘れないだろう。




 あのポーカーフェイスの笹原さんが笑うだなんて!

 それはもう天女の如く可愛い笑顔だった。


「ねえ、今度ヨロズ・ゲンジについて語り合お?」

「う、うん。いいよ」




 その日から、笹原さんはほぼ毎日のように図書室に来るようになった。

 カウンターを挟んでのヨロズ・ゲンジ談義。

 僕が当番じゃない日は、二人で図書室の片隅で本を読み合った。


 笹原さんはよほどヨロズ・ゲンジが好きなのか、この人の話になると顔を真っ赤にしながら夢中で語っていた。

 そして時折、僕に笑顔を見せていた。

 その笑顔はどんなものよりも光り輝いて見えた。



 この笑顔を普段から見せないのはもったいないなと思う反面、僕だけに見せて欲しいとも思った。

 独占欲が強いといえばそれまでだが、笹原さんの笑顔はきっと誰もが虜になる。心を奪われてしまう。

 であるならば、その笑顔は僕だけに見せて欲しい。



 常にポーカーフェイスの笹原さんが笑うと可愛いのを、僕だけが知っている

挿絵(By みてみん)

(イラスト:コロン様よりいただきました!)


お読みいただきありがとうございました。


なお、岡くんはこれ以降、変な性癖に目覚めて笹原さんのビンタを欲しがるようになりましたが、笹原さんはそんな彼を「気持ち悪い」と言って避けるようになりましたとさ(笑)


また、こちらはラジオ短編用に書いた作品だったのですが、字数制限の1000文字じゃおさまらず、お蔵入りになっていた作品です。

せっかくなのでUPさせていただきました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 甘酸っぺえ… ただただ、甘酸っぺえ… [気になる点] …笹原さんはどうして笑わなくなったのだろう? そして 岡くんは、後にこれが恋だったとふと気付きそう… 甘酸っぺえ… [一言] ヨロ…
[一言] ワイも笹原さんにビンタされたい( ˘ω˘ )
[良い点] 恐らく、誰にでもある青春時代の一コマ。 只のイベントで終わるか、甘酸っぱい関係に進展するか、あれこれと想像を膨らませてくれる作品でした。 既にセピア色を通り越している私の青春ですが、初恋の…
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