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第7話「仲間を探してる」

 ヒルデガルドの言葉に二人の口論がぴたりと止んだ。


「面白い話ってなんだい? 先に尋ねておくけど、まさかこんなホラ吹きと同じような話をボクに聞かせたりしないだろうね」


 怪しむイーリスに彼女は首を小さく横に振った。


「信じるかどうかは君次第だな。興味がなければ耳を塞いでもいい」


「……いいよ、聞こう。で、どういう話なの?」


 ほら吹き男なら何を言われても話など聞かなかったことだろう。イーリスは目の前にいる女の瞳の鋭さを信じてみることにした。


「ああ。君たちが敬う大賢者、ヒルデガルド・イェンネマンが新しい仲間を探しているという話だ。特に魔法が扱える者を見極めているとか」


 嘘のようで本当の話だ。ひとりで冒険者をするのは危険が付きまとうし、何者かに命を狙われた経緯を思えば、仲間の一人か二人は欲しかった。だからヒルデガルドは信用できる仲間を選ぼうとしている。セリオンは論外だったが目の前のイーリスならばあるいは。そう考えて話し、食いつくかを試したのだ。


 結果から言ってイーリスは彼女の思った通りに強い興味を示した。白いローブがふわっと揺れるほどの勢いで立ち上がり「本当の話か?」と聞き返すほどで、自らが魔導師を目指している見習いであるからだった。


「……まあ色々あったみたいでな。今はとにかく信頼できる仲間が欲しいんだとさ」


 思い出すと苦笑いが出てくる。各地で起きた魔物の襲撃による被害が多かったせいで、人間同士が手を取り合うどころか、明日を生きるために互いのものを奪い合うのが日常化していた頃。世界を救うべく旅をしていたヒルデガルドたちであっても関係なく幾度と騙され裏切られてきて、やっと世界が平和になったのにまだ気にする必要があるのかと吐き出しそうになるため息をこらえた。


「おいおい、あんたの言ってることは本当か?」


「おや。仲が良いのに君は知らないのか、セリオン」


 目を細めてわざとらしく勝ち誇った表情を浮かべてみせると、セリオンがぎろっと睨んで苦々しい顔で「俺は聞いてないだけだ!」と言い訳がましく声を荒げた。


「フッ。まあどちらでもいいが、私は彼女に君たちの働きを伝える手段を持っている。信じるかは君たち次第だが。……そうだな、私も嘘つき呼ばわりされるのは癪に障るから、これを君たちに渡しておくことにしよう」


 金貨を一枚ずつテーブルに置き、二人の前に指で弾く。


「まさか嘘でもこれで黙ってくれとか、そういう話だったらボクは降りるけど?」


「ハハ、勘違いするな。これはいわゆる賭けだよ」


 テーブルに腕を置き、わずかに身を乗り出して言う。


「君たちに金貨を預ける。私が嘘をついていると思うのなら、今すぐにでも使って構わない。ただ、もし本当だったら耳を揃えてきっちり返してもらう。あとで無いと言っても逃がすつもりはない。さあ乗るか、乗らないか?」


 面白そうだと思ったのか、イリーナはニヤッとして「ボクは乗った!」と金貨を強く握りしめる。絶対に使わない自信があったし、目の前の女の挑戦的な表情に『ここで退くわけにはいかない』と挑んだ。


「よろしい。で、そっちの君は?」


「ば、馬鹿にしやがって! 乗ってやらあ!」


 セリオンが半ば興奮気味に彼女の金貨を取り上げて怒った。


「では賭けは成立ということで……さっそくゴブリン討伐に出かけたいんだが、構わないよな? もし準備が出来ていないなら済ませてきてくれ」


 促され、二人とも「準備はできてる」と即座に返答する。冒険者たるもの、いつでも仕事に取り掛かれる準備は欠かしていない。多少のだらしなさを持ったセリオンでもしっかりしたものだ。


「では行こう。洞窟付近へのポータルロックはないから、ギルドの馬車を借りて行くことにする。それまでセリオンの話でも聞かせてもらおうじゃないか」


「ハ、任せとけ。面白い話がたくさんあるんだ」


 本人が目の前にいるとは露知らず堂々とした態度にヒルデガルドは彼を密やかに鼻で笑う。


「ああ、ゆっくり楽しませてもらうよ」


 愉快な子供の面倒を見るように、彼女は愉快な顔をした。


「そうだ、ボクの自己紹介がまだだったね。──改めて、イーリス・ローゼンフェルトだ。そっちの名前も聞かせてくれよ」


「私はヒルデガルド・ベルリオーズ。……魔導師見習い(・・・・・・)だ」


 横に並んで歩くセリオンがフッ、と鼻を鳴らす。


「なんだ、あんたは大賢者と同じ名前なのか。しかも魔導師見習いって奴じゃあ、周りからの視線に苦労してそうじゃねえの? どうしても人間ってのは比較する生き物だからよ」


「そうでもない。こうで出来は良いものでね、褒められることばかりさ」


 イーリスが小声で「怒っていいんだよ」と囁くのを手で制しながら口だけを動かして『面白いだろ?』と微笑んだ。本当に彼女はそう思っていて、セリオンがどんな作り話を披露してくれるのか楽しみでならなかったのだ。


 ギルドの受付で馬車の貸与申請を済ませ、証明書を受け取ったら厩舎近くの馬車置き場で厩務員に渡して準備を待った。それなりに時間を取られてしまったが、ゴブリンが活発になる夜間に洞窟へ着くのが望ましいと気にはしなかった。


「やっと出発だな。セリオン、君に御者を頼んでも?」


「貰った額から見りゃ、それくらいお安い御用だ」


「そうか。なら私は荷台でゆっくり話でも聞かせてもらうよ」


 金の詰まった袋を荷台に放り投げ、脱いだ自分のローブを丸めてクッション代わりに座る。対面にはイーリスが自分の白いローブを被り込み、大きなため息をつく。「耳障りだ、ボクは着くまで眠る」と言って。


 ヒルデガルドはくっくっと笑いを殺して口もとを手で隠す。


「ハハ……面白い奴らもいたものだな」

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