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第38話「思いがけない祝福」

────そんな不安とは裏腹に、嬉しい出来事はある。疲れて浴室で眠るといった彼女には顔を覆いたくなるような失態も、翌日になればすっかり忘れて、早朝からイーリスと共に忙しなく外出の準備を進めていた。


 今日は記念すべき二人の昇級試験の結果発表の日だ。


「持っていくものって無かったよね?」


「ああ、ロビーの掲示板で確認できるそうだ」


 大事なローブを一着、ダメにしてしまったので、ヒルデガルドは新しく今の髪色と同じ深紅のローブに着替える。金色の縁取りがかっこいい、と彼女は鏡で身だしなみをチェックして満足げにニヤッと決め顔をする。


 ブロンズランクのバッジとも今日でお別れだ。迷宮洞窟ではコボルトロードも討伐したし、最深部まで辿り着いたのは他の冒険者たちが証人になってくれる。完璧と言っていい成果は、彼女たちの昇級を確実なものにした。


 シルバーランクのバッジを新たに受け取れるのだと期待を胸に抱き、二人はまたアベルたちを残してギルドへ向かう。歩いてすぐの距離は、気分よく歓談に時間を忘れ、あっという間に辿り着く。


 既に大勢の受験者が集まっており、自分の名前の有無で一喜一憂している様子にヒルデガルドも心が躍った。


「冒険者というのは面白いな、イーリス。昇級など楽なものだと思っていたが、こうも結果が大々的に発表されるのは中々に期待を煽ってくる」


 人だかりに隙間が出来たら割って入り、掲示板の前へ。張り出された大きな紙にはずらりと合格した冒険者たちの名前が並ぶ。簡単な試験に思えたが、コボルトロードのこともあってか大して調査できていない者たち、あるいは明らかに合格ラインをぎりぎりで意識したような報告書を作製した者たちは不合格とされていた。


「……イーリス、私の名前がないが」


「あ、やっぱり? ボクもないんだよね」


 ひとつずつ確かめ直す。やはり、どこにもない。


「変だな。私たちは合格ラインなど大幅に超えているだろ」


「そのはずだけど……受付にいって聞いてみようか」


 いつになく不服な気分にふくれっ面をみせるヒルデガルドに、イーリスがくすっとした。大賢者といえども同じ人間なのだ。子供のように不機嫌にもなる。受付にいって申し立てでもすれば、理由くらいは聞けるだろうと手を引こうとする。


「おい、見ろ。ヒルデガルドだ、例のブロンズの」


「大賢者と同じ名前だって。才能あるんだな、羨ましい」


 そんな声が彼女たちを見る冒険者たちからあがった。いったいなんの話なのだろうと不思議に思っていると、遠くでアディクが「あっ、おはようございます。はやかったですねえ」と嬉しそうに歩み寄ってくる。


「おはよう、アディク。聞きたいんだが、私たちの──」


「ゴールドランクへの昇級、おめでとうございます」


「……うん? すまない、ゴールドランクがなんだって?」


「ですからゴールドランクへの昇級です、お二人共」


 驚きのあまり、声が出ない。アディクが金の剣を模したバッジを手に、彼女たちへ差し出したのだ。


「今回の結果は非常に優秀と言わざるを得ないでしょう。コボルトロードの討伐に最深部への到達。あまつさえ中級の魔水晶をギルドに寄付まで頂き、規定違反の冒険者たちも捕まえて下さった。そこで私どもギルドの運営委員で協議を行い、ヒルデガルド・ベルリオーズさんとイーリス・ローゼンフェルトさんの二名を、新たに特例としてゴールドランクへの昇級とさせて頂きました。改めて、おめでとうございます」


 思いがけない祝福に驚き、きょとんとした顔でバッジを受け取る。手の中にずっしり重たい金のバッジの感触が、彼女たちを現実に引き戻した。顔を見合わせて眩いばかり笑みを浮かべ、抱き合って喜んだ。


「やったよ、ヒルデガルド! ボク、ボクがゴールドランクだ!」


「ああ、私もいっしょだぞ! やったな、努力の甲斐があった!」


 周囲の冒険者たちが注目していた理由は、まさにそれだった。コボルトロードを二人で討伐したうえ、最深部まで辿り着くなど生半可な腕前では不可能だ。祝福の声はあちこちからあがり、拍手も聞こえてくる。


 二人の喜びようにアディクもうんうんと頷きながら。


「実にお見事でした。誰が見聞きしても納得の成果です。つきましては、お二人に案内すべきことが二点ありますので、聞いて下さいますか?」


 受付のカウンターに置いてあった小さなメダルを二枚、手に取り、バッジと同様に手渡して「闘技場の参加許可証です」と言った。


 盾の前に二振りの剣をデザインしたメダルは貨幣の硬貨と比べて少し分厚く大きい。星がひとつ刻まれているのは、メダルの発行回数で、三回を超えると再発行ができなくなる、とアディクは説明した。


「……すまん、闘技場というのは? イルフォードに来てから、観光とか散歩とかあまりしていなくて、場所にはあまり詳しくないんだ」


「闘技場はイルフォードで暮らす冒険者の目玉です」


 アディクがグッと拳を握り締め、熱意をもって力説する。


「ゴールドランク以上の冒険者たちにのみ許された、実力者同士の魂のぶつかりあい……腕を磨き、強者としての頂点に立ちたい戦士が集う、こと戦いにおいては百戦錬磨の猛者たちの猛者たちによる猛者たちのための神聖なる場所。それが闘技場なのです。勝てば勝つほど、人気になればなるほどファイトマネーも増えて、依頼で稼ぐよりも楽だという方もいる一攫千金を掴むための場所でもあるんです!」


 若ければ絶対に自分も参加していたと息巻く姿にヒルデガルドはクッと笑う。今でも出来そうな勢いに見えた。


「それで、もうひとつの話はなんなんですか?」


 イーリスに尋ねられ、彼は自分の熱の入った話を中断して、恥ずかしそうにこほんと咳払いをしてから。


「実は、コボルトロード討伐などの成果は、その日のうちに国や魔塔に報告されるんです。そこで討伐者であるお二人が魔導師だと聞きつけて──魔塔の大魔導師、ウルゼン・マリス様から面会の申請があります」


 魔塔と言われてイーリスが飛びつくように嬉しそうな顔をしたが、ヒルデガルドは真逆にムッとした不愉快の表情をみせる。


「……そうか。わかった、すぐにでも会おう」

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