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第26話「マツリ通り」

 ノキマルは細身だがしっかりした体格で、包み込むような大きな手をしている。鬼人の男は、およそ彼のような者が殆どだ。しかし、それが彼らの強さの指標ではない。たとえ細身であろうと、ヤマヒメのように圧倒的な強さを持つ場合がある。


 興味深い、とヒルデガルドはしきりに頷いた。


「じゃあ、君たちが身内で強さの指標にしているのはなんだ? 角も大きさどころか数も様々だろう。ヤマヒメにしたって、角は君と比べれば大きくない」


 言ってもいいのだろうか、とノキマルは思案した。外部からやってきた者に、自分たちについて詳しく教えるのを、主君であるヤマヒメは許可するのか。それを察したイルネスが「あの女がそんな小さいこと気にせんじゃろ」とあきれ顔をする。


「まあ、それもそうやもしれません。強さの指標が分かったからとて、我らが主君様に勝てる者など誰もいやしませんでしょうから」


「ふ。大した自信でなによりだ。では続きを聞かせてくれ」


 鬼人という種族への興味が尽きず、ヒルデガルドも珍しく、期待に満ちた子供のように目をきらきらと輝かせて催促する。


「いいでしょう。具体性には欠けるかもしれませんが、我々の強さの指標とはつまり、()なのです。いかほど飲めるか、それが重要です。しかし誤解なされませんよう。飲める量そのものではなく、飲んだ酒を我々は妖力に変えるわけで……限度はあるんですが、主君様には、それがないのです」


 初めて聞く言葉にヒルデガルドが首を傾げた。


「妖力……というのは、魔力とは違うのか?」


「ああ、些か異なりますね。といっても大差はないですが」


 鬼人たちは魔力を持たず、その代わりに酒を飲んで妖力を得る。もし力を使い果たしても、酒を飲めば、徐々に回復していく。また、彼らは妖力で様々な能力を発揮できるが、基本的には身体能力を強化するばかりで、他の魔物のように火を噴いたり、水を操ったり、雷光を轟かせたりもできないし、人間のように魔力を使って魔法を放つことも不可能だ。その分、基本的な身体能力が高いのが特徴だとノキマルは語った。


「遥か昔、もう数百年以上も前のことになりますか。この島に、あるひとりの魔導師が大陸から渡ってきて、この地で亡くなりました。そのとき魔法について教えてもらったのですが、我々には再現不可能だったのです」


 魔力と妖力の違いは、当時に来た魔導師にも分からなかった。調べようとしたものの、人間の寿命はあまりに短く、年老いた魔導師は文献をわずかばかり残して、そのままヤマヒメの膝元で生涯を閉じた。


「その魔導師の名はカースミュールと言わなかったか」


「いいえ、カースミュールとやらは存じ上げませんなぁ」


 ノキマルには覚えのない名前。彼が口にしたのは──。


「俺は長年、主君様の傍仕えをしておりますが……俺がただひとり会った魔導師の名はクロウゼン・イェンネマンという男でした」


 イェンネマンの姓を聞いて、ヒルデガルドが目を丸くする。イルネスも「は?」と思わず声が出てしまうほどだった。


「のう、ヒルデガルド。クロウゼンとは……」


「私の先祖だな。魔塔でも名前だけは聞いたことがある」


 魔塔が出来るよりも以前の大魔導師で、魔塔の資料にも名を記されている。ただ、若くして行方知れずだったため、その詳細を今日まで知らなかった。


「そうですか、ヒルデガルド殿はクロウゼン殿の! 彼は良い男でしたよ。主君様も彼には感銘を受け、鬼人にはせず火葬したほどなので」


「偉大な先祖らしいな、誇らしいよ」


 ノキマルは嬉しそうにニコニコしながら。


「それならば、なおのこと持て成さねばなりませんな。……と、いうわけで、話の続きはまたいずれにして、今日は都を楽しんで頂きたい」


 彼が指差した通りには、たくさんの店が並んでいる。淡い提灯の輝きがずらりとしていて、通りを歩く者たちの楽しそうな姿が印象的だ。


「わーお、こりゃすごいのう! ええ匂いもするぞ!」


 ヒルデガルドと手を繋いで、イルネスはぴょんぴょん跳ねた。


「マツリ通りと言って、毎日のように賑わっているんです。ホウジョウの各地から稼ぎにやってきた奴らのために用意された場所でして、メシに酒、遊びもありますよ。焼きそばにりんご飴、綿菓子にかすてら。美味しいものもいっぱいです」


 初めて聞く食べ物の名前にヒルデガルドもわくわくする。漂ってくる油のにおいが、二人の腹をぐう、と鳴らす。


「……ふ、まあ仕方ないな。魔核の修復を目指すべきなんだろうが、時間はたっぷりある。少しくらい遊んだって構わないだろう」


「うむうむ! 儂はとりあえず、あの店が良い!」


 ヒルデガルドの手を引いてイルネスが向かった先は、串にささったリンゴが飴に包まれたお菓子だ。甘い香りに誘われてよだれが出てくる。


「ノキマル、これがりんご飴という奴か?」


「ええ。ひとついただきましょう、美味しいですよ」


 代金はノキマルが支払い、りんご飴を三本買う。イルネスがばくりとひと口齧って、頬を緩ませた。


「う、うまい……! ヒルデガルド、これは……あの、」


「ああ……。通りの食べ物、全部食べ尽くせる気がしてきたな」

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