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第24話「不老不死の望み」

 ヤマヒメが語ったのは、鬼人の成り立ちについてだ。


 遥か昔、島国を襲った大きな魔物を討った人々は、その首を勝利の証として三日三晩、村に置いた。そのとき、魔物の首から垂れた血を好奇心で触れ、口に入れた幼子が、成長すると額から二本の角を生やした。立派で美しい娘に角が生えたとして、魔物の呪いだと言われ、治療法を探したが、その途中、娘は突然、村人たちを襲った。彼女は魔物の血を飲んだことで、完全に人ではなくなっていた。


「……では、その娘というのが君か?」


「まさしく。わちきは、もう三千年は生きてる」


 目を剥くほど驚かされた。魔塔にある資料でも、魔物とは自分たちが想像するよりも遥か昔から存在しているのではないか、という推察をした魔導師が論文に纏めた事実があるが、彼女は遥か昔から存在するモデルケースなのだ。


「ではもうひとつ聞かせてくれ」


 酒をひと口のみ、鋭くヤマヒメを見る。


「その話では、ひとりの鬼人が現れて村人を殺した……というふうに聞こえるが、この都には数多くの鬼人たちがいる。彼らはどうやって増えたんだ?」


 なんとなく察しはついている。だが、本人の口から聞くまで信じる気はなかった。


 しかし、彼女は堂々と拳を掲げて。


「当然、わちきの血よ。こいつを飲ませれば、生きていようが死んでいようが、一度は鬼人となって目を覚ます。それが、わちきが鬼人として覚醒したときの能力(ちから)のひとつだ。だから、殺した連中を全員、わちきと同じにしてやった」


 ちょっとした好奇心。それから確認。自分の能力がいかほどであるかを調べるためだった。そうして多くの配下を得たヤマヒメは、島国の人間たちを次々に捕えて仲間に変えていったが、やがてひとつの問題に突き当たった。


「幼く鬼人となったわちきと違って、血を飲んで覚醒した者たちは、人間であった頃の記憶を持たなかった。酒や飯を喰らうばかりで、わちきらは生み出すという行為についての知識や知恵さえ失った愚か者。ゆえ、人々との共生の道を選んだのよ」


 別に、わざわざ人間を喰らう理由はなかった、と彼女は言う。牛や豚といった家畜を捌いて食べるのと変わらず、必要がなければわざわざ捕食する意味もなかった。彼らを食糧とする以上に、彼らの知識と知恵が必要だったのだ。


 ヒルデガルドが、そこで疑問に首を傾げた。


「なら、残した人間たちはどうした」


「ふふん。見て分からんかね、小娘?」


 すくっと立って、大きく手を広げて彼女は自慢げに言った。


「この都に住まう者たちこそ、島国に在った生命(いのち)の果てよ! 土地だなんだと騒ぎ立てる理由もない。わちきがすべてを支配し、わちきがすべてを管理する! そうすることで誰もが不幸にならない、ひとつの国をつくったのだ!」


 最初こそ、必要なくなったのなら家畜にでもすればいい、と小さな村を与えて様子を見たりするも、人間の成長速度はあまりに遅く、作業効率も慣れてしまえば鬼人のほうが遥かに早い。だったら少しずつでも仲間にしていけばいいと考えて、ヤマヒメはひとり、またひとりと血を与えていった。


 そうして、そのうち鬼人同士ならば交配も出来ると分かり、数百年前からは完全に鬼人だけの世界となった。


「しかし、だな。まだわちきでも解決できていない問題はある」


「……たとえば、どのような?」


「寿命だ。てめえら人間よりはずっと長いが、五百年もすれば死んじまう。不老不死なのは、鬼人の祖たるわちき一人だけ。どんなにつええ野郎だろうと、そのうちカスみてえに崩れて消えちまう。わちきは、それが寂しくてならねえ」


 隣に立った者たちが次々と消えていく。昔馴染みの顔が失われ、ヤマヒメは幾度となく孤独を味わった。鬼人同士の揉め事で数を減らすこともあるし、規律を守れない者は処分しなければ必ず害になる。そうして徐々に数を減らす仲間たちに、憂いを覚えた。何匹かでいい、自分と同じ永遠の命さえ持ってくれれば、と願った。


「もちろん、あれだ。増えすぎちまったら、それはそれで困りもんになる。だから数は少なくていい。……なあ、ヒルデガルド。てめえには分かるだろ?」


「さあ、分からんな。分かる気もない」


 ヤマヒメはニコニコしたまま、ヒルデガルドに言った。


「すっとぼけんじゃねえよ。てめえが人間やめてる(・・・・・・)ことくらい、わちきにゃあ分かってんだぜ。霊薬だ、てめえの身体を作り変えてるもんは。わちきにその技術を寄越せ。でなきゃあ殺す……つったらどうするよ?」


 明確な脅しに対して、ヒルデガルドは堂々としていた。


「屈する意味などない。今の私には、なおさらな」


「……へっ、なるほどねえ」


 すとん、と座り直して、瓶に再び口をつけ。


「冗談だよ。わちきが望んでいることに嘘偽りはねえが、てめえを脅してまで欲しがるもんじゃねえのも分かってる。だがよう、そいつを欲しがってる奴もいる。この島のどこかに潜んでる、めんどくせえはぐれもんが」


 遠くを見つめて、彼女は酒臭いため息をつく。


「厄介な奴だ。リュウシンつう、わちきの手から逃れて今も姿を隠す鬼人がいる。てめえら、そいつを探すのに手を貸してくれねえか?」

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