表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/38

仕切り直し

「砕下の気配が、消えた?」


 霧業と対峙していた御樹は、二人が向かった先にいる砕下の気配が消えたことに気付いた。


「おいおい、冗談だろ。いくら二人掛かりとはいえ、あいつがこうもあっさりやられるか」


 霧業の方もそれに気付いたのか、計算外だというように言う。


「あの二人に任せて正解でしたね」


 御樹は自分の判断が間違っていなかった、と改めて思っていた。とはいえ、ここまで早く砕下を倒してくれるとは思っていなかったが。


「やれやれ、だな。ということは、あいつらが戻ってくる前にお前を倒さないといけなくなったか。全くもって面倒だ」

「わたしは二人が戻ってくるまで、時間稼ぎに徹すればいいわけですからね」

「まあいい。最低限、お前を倒すまでには至らなくても戦闘不能まで追い込めばいい」


 霧業はすっと構え直した。


「そう簡単にやれるとでも」

「思っていないさ」


 御樹の言葉を遮るかのように、霧業が動いた。

 軽く地面を蹴ると、御樹の顔付近めがけて鋭い蹴りを放った。

 御樹はそれを左手で受け止めると、その勢いに逆らわずに受け流して霧業の懐に入った。そのまま掌底を霧業の胸元に突き出した。


「その程度で」


 霧業は難なく御樹の掌底を受け止めていた。


「簡単にはいきませんか」


 攻撃を受け止められたのを見て、御樹はすぐさま霧業との間合いを離した。自分の攻撃が簡単に通用するとは思っていなかったが、こうも簡単にいなされると苦しいものがある。


「なら、これでどうだ」


 霧業は単発ではどうにもならないと思ったのか、続け様に攻撃を仕掛けてきた。

 右手の手刀、続いて左手の突き。

 御樹はそれらを続けて受け流すと、再度霧業の懐に入り込もうとする。

 だが、今度は霧業が懐に入り込ませまいと腰付近に蹴りを放ってきた。


「くっ」


 勢いよく踏み込んでいたこともあって、御樹は霧業の蹴りを捌く余裕がなかった。咄嗟に両腕を交差させて、霧業の蹴りを受け止めた。

 その威力を完全に殺しきれずに、御樹は後ろに吹き飛ばされてしまった。

 霧業は吹き飛んだ御樹を追いかけるように踏み込むと、御樹の腰辺りに蹴りを放ってくる。

 体勢が崩されていたこともあり、御樹は霧業の蹴りをまともに喰らってしまった。


「うっ」


 思った以上に重い一撃に、御樹は小さく悲鳴を上げていた。思わず膝を付きそうになったが、どうにか堪えて後ろに飛び退いた。


「逃がさんよ」


 これを好機と捉えたのか、霧業は御樹に詰め寄ってきた。

 御樹の顔めがけて勢い良く拳を突き出してくる。

 御樹は脇腹の痛みに耐えつつも、どうにかそれを受け流した。だが、痛みのせいで動きが鈍っていることもあり、そこから攻撃に転じることはできずにいた。

 このまま攻撃を受け続けるのは得策でないので、御樹は半ば強引に間合いを離した。


「はぁ、はぁ」


 霧業の攻撃が止んだところで、御樹は荒く息を吐いた。そして、自分と霧業との攻撃力の差を痛感させられていた。

 こちらの攻撃ではまともに打撃を与えられない上に、霧業の一撃は一発でもまともに受けたら致命傷になりかねない。


「勝負あったかな」


 御樹の様子を見てか、霧業がそう言った。それでも油断したり気が大きくなったりしない辺りが、霧業らしいともいえた。


「わたしでは、時間稼ぎすらできないというのですか」


 圧倒的不利な状況に追い詰められて、御樹は思わず唇を噛み締めていた。


「思っていたよりもやるようだが、所詮はその程度だったか」


 霧業は腰を落とすと、そのまま御樹に向けて正拳突きを放つ。


「それでも、諦めるわけには……」

「御樹ちゃん!」


 御樹と霧業の間を遮るかのように、何かが飛んできた。


「何だ」


 それが何だかわからないこともあって、霧業は攻撃を中断して飛び退いた。


「これは……」


 御樹の手元に飛んできたそれを受け止めると、御琴の扇子だった。そして、それがここにあるということは、二人が戻ってきたことを意味していた。


「御樹さん、無事で良かった」

「千佳ちゃんも、無事なようで何よりです」


 安堵したように言う千佳子に、御樹もまた千佳子の無事を見て安堵していた。


「御樹ちゃん、向こうは片付けてきたよ」

「宮瀬さん、随分と早かったですね」


 自分の予想よりも早く戻ってきた二人に、御樹はそう言った。


「二人だからね。本当は、もっと早く戻ってきたかったけど、かなり苦戦させられたから時間がかかっちゃったよ。ごめん」

「いえ、十分早いと思います。また、助けられちゃいましたね」


 もっと早く戻れたと謝る閑斗に、御樹は首を振った。


「まさか、ここまで早く戻ってくるとはな。さすがにこれは分が悪いか」


 二人が戻ってきたのを見て、霧業は忌々し気に言う。


「でも、宮瀬さん。どうしてわたしにこれを」


 閑斗が扇子を投げたのは、霧業の攻撃を防ぐためだったのは間違いない。だが、御樹に扇子を渡すかのような投げ方でもあった。


「貸してあげるよ。ちょっと苦戦しているみたいだからね。扇子だけで、そこまで優位に立てるとは思わないけど、ないよりはマシだろうから」

「宮瀬さん、御樹さんを手伝わないの」


 閑斗の言い方が御樹を手伝わないようなものだったので、千佳子は不信そうに閑斗を見た。


「あいつは……霧業は御樹ちゃんが越えないといけない壁だからね。俺が手伝ったら意味はないよ」

「でも」

「それに、さ」


 なおも食い下がる千佳子に、閑斗は自分の右手を見せた。


「何、これ」


 閑斗の右手が尋常でないほど真っ赤になっているのを見て、千佳子は声を上げていた。


「砕下の力と剣の力を併用するのは、かなり無理があるみたいでね。使い過ぎるとこうなっちゃうんだよ。はっきり言って、ちょっと痛いし」


 閑斗は右手を軽く振って見せた。


「でも、わたしも独楽がないし、宮瀬さんも戦えないし。御樹さん一人で……」

「大丈夫ですよ。千佳ちゃん」


 心配する千佳子を安心させるように、御樹は言った。


「やれるよね、御樹ちゃん」

「はい。ここまでしてもらったのですから、大丈夫です」


 御樹は扇子を握り直した。自分の物ではないはずなのに、どういうわけかそれは昔から使っていたかのように手に馴染んだ。


「どうやら、あいつはあいつなりに仕事はしてくれたようだ。一対一なら、オレにもまだ勝機はあるな」


 閑斗と千佳子が戦えないと知って、霧業はにやりと笑みを浮かべた。


「仕切り直しですね。今度は遅れは取りませんよ」


 御樹はゆっくりと扇子を霧業に向けて突き付けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ