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片方の決着

「剣を使わないの」


 砕下と相対してから全く剣を使おうとしない閑斗に、千佳子はそう言った。


「俺が剣の力を使える時間は、限られているからね。無駄打ちはしたくないんだ」

「そうなの」

「まあ、色々とイレギュラーだからね。その分制限も多いよ」

「ふうん」


 閑斗に言われて、千佳子は納得したのかしないのかわからないように頷いた。


「密談は終わったか」


 二人の会話が途切れたのを見てか、砕下がそう言った。


「密談、ってほどのものじゃないけどね」

「何か奥の手でもあるようだが、出し惜しみしない方がいいんじゃないか。オレとしては、その方が助かるが」

「奥の手っていうのは、ここぞという時に切るものだよ」

「面白いことを言う。それが余裕からなのか、それとも虚勢か」


 砕下はそこで右足を半歩下げた。


「見せてもらおうか」


 そして、閑斗との間合いを一気に詰めてきた。

 霧業とは異なり、身体能力に任せて殴りかかってくるだけの粗暴な戦い方だが、両手に纏っている雷がそれを後押ししていた。

 扇子で触れても感電してしまうから、閑斗はできるだけ雷に触れないように立ち回る。

 砕下の右腕が閑斗の体を掠めた。それだけで、全身に電気が走ったような衝撃が襲い掛かった。


「これは、迂闊に触れないな」


 閑斗は大きく飛び退いて間合いを離すと、一息ついた。全身に痺れがあるものの、動きに支障をきたすほどではない。

 剣を握っている右手に若干力が籠ったが、まだその時ではないと思い直した。


「上手く宮瀬さんを盾にするから、独楽を投げる隙が無いよ」


 千佳子が若干苛立ったように言う。

 粗暴なように見えて、砕下は千佳子の独楽を警戒しているようだった。


「思いの外、戦えるようだね。倉島君、少しでも隙があったら、独楽を投げて構わないよ。最悪、俺に当たっても構わないから」

「そんな簡単に言わないでよ。宮瀬さんに当たるかと思うと、躊躇しちゃって上手く投げられないから」

「なら、俺が上手く動くしかないか」


 自分の提案に抗議する千佳子に、閑斗はそう言った。

 今度は自分から砕下との間合いを詰めると、砕下の太もも付近を扇子で薙ぎにいった。

 砕下はそれを無視して狙われた方と反対側の足で閑斗を蹴り飛ばしにいく。


「くっ」


 閑斗は防ぐかかわすか迷ったが、防ぎきれないと思い攻撃を中断して砕下の蹴りをかわす。


「雷を纏っていない箇所なら、何とかなるとでも思ったか」

「確かに、少し甘かったかもね」


 雷のせいもあるが先程から攻めあぐねていることもあり、閑斗は少し焦っていた。当初の予定では二人掛かりならさして時間もかからずに倒せると踏んでいたから、なおさらだ。

 このまま時間だけ長引くと、霧業と戦っている御樹が持たなくなってしまうかもしれない。


「剣は使えて後二、三回か」


 閑斗は小声で呟く。

 砕下の元にたどり着くまでに、かなりの回数剣の力を使っている。状況を打破するために剣を使いたいが、失敗した時のことを考えると中々踏み切れずにいた。


「さて、そろそろ攻めさせてもらおうか」


 砕下は右手の雷を閑斗に飛ばした。それと同時に、左手で閑斗に殴りかかってくる。


「やむを得ないか」


 閑斗は飛ばされた雷を剣で切り裂くと、自分に向けられた左手を扇子で受け止めた。少し勢いが弱まったのを見計らって、扇子を砕下に左手から離す。

 だが、完全に勢いが殺せていなかったこともあって、閑斗は体勢を崩してしまった。


「宮瀬さん!」


 閑斗が苦境に立たされたのを見て、千佳子は咄嗟に両手の独楽を投げていた。

 片方の独楽は砕下の顔に、そしてもう片方の独楽は胸元へと飛んでいく。


「懲りもせずに」


 砕下は自分に向けて飛ばされた独楽を難なくかわした。

 だが、独楽の対処に追われたこともあって、閑斗に追撃することができなかった。

 閑斗はその隙を見計らって、砕下がかわした独楽に扇子を投げた。独楽の軌道が変わって、砕下の肩口に独楽が落ちる。


「ぐっ」


 予想外の一撃を受けて、砕下の体勢が大きく崩れていた。

 閑斗は跳ね返ってきた扇子をつかみ取ると、その勢いのまま砕下に振り下ろした。


「があっ!!」


 独楽の一撃を受けた上に扇子の一撃も受けて、砕下は片膝を付いていた。

 一度に色々なことが起こり過ぎて、千佳子は紐を飛ばして独楽を回収することを忘れてしまっていた。


「これで、終わりにする」


 閑斗は右手を砕下の頭上から一気に振り下ろした。

 砕下の頭から腰付近までが真っ二つに切断される。

 そのまま仰向けに地面に倒れ込んだ。

 頭を一瞬で切り裂かれたせいか、砕下は断末魔の悲鳴をあげることすらできなかった。


「やっぱり、剣の力を使える限界が来ていたようだね。これで決められて良かったよ」


 閑斗は安堵したように息を吐いた。

 万全の状態なら、全身を真っ二つにできていた。それができなかったということは、剣の力も限界のところまで来ていたということだった。


「宮瀬さん」


 砕下が倒れたのを見て、千佳子が駆け寄ってきた。


「まさか、扇子で独楽の軌道を変えるなんてね。最初から、狙ってたの」

「いや、咄嗟に思いついただけだよ。このままじゃ、ジリ貧だったからね。上手くいって良かったよ」


 感心したように言う千佳子に、閑斗はそう返した。


「おかげで、独楽を回収しそびれちゃったじゃない。この視界じゃ、なくなった独楽探すのも難しいし。わたしはもう、戦力になれないよ」

「はは、ごめん。でも、これ以上戦いが長引くのもどうかと思ったからね」


 千佳子が独楽をなくしたと文句を言うが、閑斗は謝ることしかできなかった。とはいえ、もっと上手く立ち回れたとも思えないので、これが最善だった。


「まあいいよ。わたしが戦力になれなくても、宮瀬さんがまだ戦えるでしょ。早く御樹さんの所に行かないと」

「そうだね」


 千佳子に促されて、閑斗は頷いた。正直なところ、剣の力をほぼ使い切っているから、そこまで戦力になれるかは怪しいが。


「というか、俺には御樹ちゃんの位置がわからないから、倉島君が先導してくれるかな」


 御樹の元へ行こうと足を踏み出して、閑斗は自分では御樹の居場所がわからないことに気付いた。


「うん、わかった。急ごう」


 御樹のことが気になるのか、千佳子は急かすように言う。


「ああ」


 千佳子に先導されて、閑斗は御樹の元へと走り出した。

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