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意外な一面

「あ、宮瀬さんからメールですか」


 スマホがメールの着信音を鳴らしたので、確認してみると閑斗からのメールだった。


「えーっと、話をしたいから、空いている日時を教えてくれないかな、ですか」


 断る理由もなかったので、御樹は空いている日時を確認してメールに打ち込んだ。幸か不幸か、高宮の家に戻ってきてからは休日はよく空くようになっていた。

 しばらくすると、メールが返ってきた。


「その日の午後三時頃、喫茶店ドモールで待ち合わせ……ドモールってどこにあるのでしょうか」


 御樹はメールを読んだ後、スマホで指定された店を検索する。


「わぁ、お洒落なお店ですね。こういうお店って、結構お値段もするんじゃないでしょうか。あ、意外と良心的なお値段」


 検索した店のサイトに掲載された写真を見て、御樹は思わず声を上げていた。外観はこてこてに飾り付けられた感じでもなく、要所要所だけが飾られていてお洒落な雰囲気だった。

 メニューの値段も御樹が想像したほどではなく、学生でも十分に手が出る範疇だった。

 宮瀬さんがこんなお店を知っているなんて、意外ですね。

 御樹は閑斗がこんな気の利いた店を知っていたことを、少し意外に感じていた。


「なんだか、デートみたい……わ、わたしは何を考えているのでしょうか」


 御樹は大きく頭を振った。

 とはいえ、休日に異性と出かけるなんて初めてのことだったから、どうしたものかと頭を悩ませる。

 宮瀬さんなら、ありのままでいいよ、って言いそうですけど。

 まだ日はありますし、ゆっくりと考えましょうか。


 そして、当日。


「まさか、着ていく服に悩まされるなんて、思いもしませんでした」


 御樹は頭を悩ませていた。決して着ていく服がないとか、そういうわけではない。こういう時にどんな服を着ていけばいいのか、そういった経験がないから迷ってしまっていた。


「やっぱり、佳奈さんに相談するべきだったでしょうか……でも、絶対にからかわれてしまいますし。ああ、もう」


 御樹は意を決して手近にあった白のワンピースを手に取った。少し前の誕生日に鈴川の義両親が買ってくれた物で、とても大切にしていたこともあって、こちらにも持ってきていた。

 鏡の前でワンピースに不自然がないかを確認して、髪型も整える。小さいバックに財布やスマホなど必要な物を入れると、それを肩にかけた。

 準備に迷っていたので時間を確認すると、まだ余裕はありそうだった。

 御樹が玄関で靴を履いていると、前触れもなく扉が開いた。


「あっ、御樹さん。お出かけですか」


 玄関を開けたの千佳子だった。


「千佳ちゃん、どうしたのですか」

「ちょっと、御樹さんと話したいなって、思ったんだけど」

「ごめんなさい。今日は約束がありますので」

「いきなり訪ねたわたしが悪いんだから、気にしないでよ。でも、今日は随分とお洒落してるね。もしかして、デート、とか」


 御樹の服装を見てか、千佳子はそんなことを言った。


「そ、そんなこと、あるわけないじゃないですか」


 若干からかいを含んだ千佳子の言葉に、御樹は動揺してしまった。


「その態度、怪しいなぁ」

「もう、千佳ちゃん」

「冗談だよ。早く行かないと、相手を待たせるんじゃないの」

「そうですね。では千佳ちゃん、また今度」


 せっかく訪ねてくれた千佳子に悪いとは思ったものの、御樹はそう言った。この埋め合わせは、別の機会にすることにしよう。


「うん」


 千佳子の返事を背に受けて、御樹は待ち合わせの場所へと向かった。


「えっと、確か……この辺りだったような」


 事前に店の場所は確認していたとはいえ、実際に行くとなると勝手が異なった。


「あ、ここですね」


 スマホで見た外観と同じ店を見つけて、御樹は安堵した。時間を確認すると、まだ待ち合わせの時間には余裕があった。

 御樹は店のドアに手をかけた。

 店内は外観にたがわず、お洒落な雰囲気だった。店の中を確認すると、奥の方に閑斗が座っていた。閑斗はスマホで何かしらの操作をしているようだった。


「宮瀬さん」


 御樹が声をかけると、閑斗は顔を上げた。


「御樹ちゃん、今日はありがとう」

「宮瀬さん、随分と熱心にスマホ操作してましたね」

「佳奈ちゃんに言われてから、スマホ持ってるだけなのは勿体ないかな、って思ってね。使い方を勉強してたところだよ」


 閑斗はスマホをしまい込んだ。


「それで、お話ってなんでしょうか」

「まあ、そんなに慌てないで。まずは座ったらどうかな」


 閑斗に促されて、御樹は閑斗の正面に座った。


「何か注文しようか。さすがに、こういう店に来て何も注文しないのもどうかと思うからね」


 閑斗は御樹にメニューを差し出した。


「はい。でも、こういうお店に来たことはありませんので、何を注文したらいいのか迷いますね」


 差し出されたメニューを受け取って、御樹はメニューを眺めた。


「ここの紅茶はどれも美味しいからね。ハーブティーもあるけどちょっと癖があるから、慣れない人にはお勧めしないかな。スタンダードなところで、ダージリン辺りが良いと思うよ」


 閑斗はこういった店に慣れているのか、そんな言葉がスラスラと口から出てきた。


「あっ、そうなんですか。では、それで」

「後はパンケーキも美味しいんだよね。是非食べてもらいたいな。紅茶とセットで頼むと安くなるしね」

「は、はい」


 閑斗が思っていたよりも手慣れていて、御樹は流されるままに頷いていた。


「じゃ、それでいいかな」


 閑斗は店員を呼ぶベルを鳴らした。


「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか」


 しばらくすると、店員がやってくる。


「はい、ダージリンでパンケーキのセットを二つ、お願いします」

「パンケーキセットのダージリンですね。しばらくお待ちください」


 店員は注文を確認すると、奥の方へ向かっていった。


「宮瀬さん、手慣れてますね」

「両親の影響で、紅茶とかにはちょっとうるさくなっちゃってね。時々こういった店に入って、美味しい店を探したりしてるんだ」

「そうでしたか」


 閑斗の意外な一面を見れて、御樹は閑斗に対する認識を改めていた。


「俺がこんな趣味を持っていて、意外かな」


 それが顔に出てしまっていたのか、閑斗がそう聞いてきた。


「はい。確かに意外とは思いました」

「そうだよね。自分でもらしくななぁ、って時々思うし」


 御樹に言われて、閑斗は乾いた笑いを上げる。


「でも、いいんじゃないでしょうか。素敵な趣味だと思います」

「……ありがとう」


 御樹の言葉に、閑斗は一瞬驚いたような、不意を突かれたような表情を見せた。だが、すぐに穏やかな表情になっていた。


「それで、お話とは何でしょうか」

「ああ、それは……」

「お待たせしました。パンケーキセット、ダージリンです」


 閑斗が口を開きかけた時、店員がやってきた。


「ご注文は以上でよろしいでしょうか」


 手早くカップと皿を二人の前に並べると、確認するようにそう聞いた。


「はい、ありがとうございます」

「では、ごゆっくりどうぞ」


 閑斗がそう言うと、店員は一礼してその場を去った。意味ありげな目で二人を見ていたのは、御樹の気のせいだっただろうか。


「話の腰を折られちゃったけど、まずは冷める前にいただこうか」

「そうですね」


 御樹は頷くと、目の前のカップを手に取った。

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