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正反対の友人

 何だが、もやもやしますね。

 閑斗と出会ってから数日、御樹は自分でもわけがわからない感情に襲われていた。決して不快ではないのだが、それでいてどこか自分をイラつかせる、そんな感じだった。


「はぁ……」


 今日何回目になるかわからない溜息が、御樹の口から洩れた。


「どうしたの、御樹。今日溜息ばかりじゃない」


 隣の席の少女が、後ろから軽く抱き着いてきた。啓志女学院の生徒は比較的お嬢様が多いのだが、この少女は髪を派手ではない程度に染めていた。それだけでかなり周りからは浮いているような存在だったが、本人はあまり気にしていないようだった。


「佳奈さん、どうしたんですか」


 佳奈に抱き着かれるのはよくあることだが、考え事をしていたこともあって御樹はびっくりしてしまう。


「だから、御樹が溜息ばっかついてるから、ちょっと気になったの」

「そんなに、溜息をついていましたか」

「もうね、傍から見てたらどうしたのかな、ってくらい」

「そうでしたか。心配をかけてすみません」

「もう、御樹は固いんだからぁ。わたしと御樹の仲で、そんなの言いっこなしだって。まあ、そこが可愛いんだけど」


 佳奈は御樹と顔を近付けた。佳奈がつけている香水の香りが、御樹の鼻腔をくすぐった。ここまで近付かないと感じられない辺り、本当に僅かにしか香水をつけていないのだろう。


「佳奈さん、近いですって」

「はは、ごめん」


 御樹が抗議をすると、佳奈は悪びれるでもなく御樹から距離を取った。


「もう……」


 御樹は呆れたように息を吐いた。


「あの二人、またやってるのね」

「でも、御樹と佳奈って、本当に正反対じゃない。なのに、妙に仲が良いっていうか」

「そうそう、そこが不思議なのよね」


 周囲の生徒達が、そんなことを口にしていた。

 鈴川の家はこの地域では割と知られた名家で、義理とはいえそこの娘である御樹は正真正銘のお嬢様といえた。片や、佳奈は髪を染めたり香水をつけたりと、良くも悪くも型破りな存在だった。この二人が仲良くしているのは、周りからしてもおかしくは見えるのだろう。


「どーお、元気なった」


 佳奈が屈託のない笑顔で言った。


「あっ」


 そこで、御樹は先程までの感情が幾分収まっていることに気付いた。完全に消えたわけではないが、佳奈に絡まれる前よりずっと楽になっていた。


「何があったかは知らないけどさ、わたしで良かったら相談乗るよ」

「そうしたいところですが、こう、うまく説明できなくて」

「そんな難しいことなの」

「わたしの家のことですので、こう、あまり他の人に漏らしたらまずいっていうか」


 佳奈の気遣いはありがたかったが、さすがに本当のことは言えなかったので、御樹は適当に家のことだと誤魔化した。


「そっか。御樹の家はなんつーか、良いところの家だからね。そりゃ、人に話せないことの一つの二つはあるか」

「心配してもらったのに、すみません」

「いいよいいよ。わたしみたいな庶民には、わからないこともたくさんあるしさ。よし、御樹。遊び行こ」


 佳奈はそう言うと、御樹の手を取った。


「えっ?」

「気晴らし気晴らし。こういう時は、遊んで、気分を変えるのに限るって」


 佳奈に半ば強引に手を引かれて、御樹は立ち上がっていた。


「よし、行くよ」

「は、はい」


 佳奈は御樹を引っ張るようにして教室から出ていった。


「本当、あの二人ってわかんないよね」

「でも、御樹が嫌がっているわけじゃないし、口出しするのもね」

「佳奈みたいなのからすると、御樹は気に食わないような気もするんだけど、わかんないね」


 その様子を見て、教室に残っていた生徒達はそう口にした。


「ゲーセン行こっか」

「ゲーセン、ですか」

「行ったことない?」

「はい」


 佳奈に聞かれて、御樹は頷いた。思えば、幼少の頃からずっと修行の日々で、どこかに遊びに行くということはほとんどなかった。


「そーなんだ」


 何故か佳奈はニヤニヤとしていた。


「じゃ、御樹の初めて奪っちゃうぞ」

「な、なんて人聞きの悪いことを言うんですか」


 佳奈がとんでもないことを言い出すので、御樹は顔を赤くしてしまう。


「赤くなんなくてもいいのにねー」


 そんな御樹を見て、佳奈がからかうように言った。


「佳奈さん、からかわないでください」

「はは、ごめん。じゃ、思いっきり遊ぶぞ」


 佳奈はゲームセンターでよく遊んでいるのか、ゲームは全般的に上手かった。対して、御樹は初めて遊ぶゲームばかりだったから、操作をするだけでも精一杯だった。


「やっぱり御樹は器用だね。初めてやるとは思えないよ」


 それでも佳奈は馬鹿にするようなことはせず、逆に御樹を褒める。


「そうでしょうか」

「そんなに謙遜しなくていいって。御樹、もっと自分に自信持ちなよ」

「!?」


 佳奈は何気なく言ったのだろうが、御樹はその言葉に一瞬硬直した。


「どうしたの」

「い、いえ。そうですね」


 まさか佳奈に閑斗と同じことを言われるとは思わなかったが、佳奈の言葉に素直に頷くことができた。


「あー、遊んだ遊んだ」


 一通りゲームで遊んだ後で、佳奈は大きく体を伸ばした。


「そうですね」


 そんな佳奈を、御樹は笑顔で見ていた。


「じゃ、帰ろっか」

「はい」


 二人がゲームセンターを後にしようとすると、三人の高校生くらいの少年が前に立ちはだかっていた。


「ねぇ、その制服、啓志女学院じゃん。こんな所で遊んでいていいのかな」


 少年の一人が嫌らしい笑みを浮かべていた。


「何、お兄さん達。わたし達、もう帰るんだけど」


 こういった手合いに慣れているのか、佳奈は手のひらを振った。


「そんな冷たくしなくてもいいじゃん。俺達に付き合ってよ」

「しつこいなー、だから、もう帰るってば」


 それでも食い下がってくる少年達を、佳奈は心底からうざったいというように突き放す。

 困りましたね。

 その様子を見て、御樹は思案していた。見たところ少年達はこれといって何かしらの体術を身に付けているわけではなさそうだ。御樹が本気になれば、この三人を叩きのめすのはわけないだろう。だが、こんな所でそれをするのは色々とまずいことになる。


「そっちの子、さっきから黙っちゃってどうしたの」


 少年の一人が、御樹の肩にてをかけようとする。御樹は反射的にその手を払いのけてしまった。


「おいおい、優しくしてれば付け上がってさぁ」


 それが気に入らなかったのか、手を払いのけられた少年が凄んでくる。

 やってしまいましたね。

 反射的だったとはいえ、相手を怒らせるようなことをしてしまったことに内心で舌打ちしてしまう。


「どうしたの」


 御樹がどうしたものかと思案していると、聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。

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