表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

はじまりの村、聖女(俺)の力で最強になる!①

「聖女様がいらっしゃったときのために、近隣の住民がひと針ひと針心を込めて縫ったローブです」


 旅立ちの前日。

 エメルが持ってきてくれたのは、白い衣だった。

 衣は、レースや刺繍がふんだんに使われていて、肩のところがふっくらとしたデザインになっている。


「ええっと……防御力を高める祝福を込めた、とても貴重なローブなのですが……」 

「か、かわいいね?」

「すみません、その、てっきり女の子が召喚されると思っていたので」

「ぐっ」

「あ、あ、いえ! リョウタ様が悪いわけではないんですっ!」


 ローブを背中に隠してしまったエメル。

 大きな目をうるうるさせている。

 そうじゃない、悲しませたいわけじゃないんだ!


「あの! せっかくだから着るよ」


 俺の言葉に、エメルはパッと笑顔になった。

 ああ、着るよ!

 刺繍とレースがなんだ、なんでも着てやるさ。俺が聖女だ!


 ◆◆◆


「とてもお似合いですよ、リョウタ様」


 にこにこ笑顔のエメルに、俺は考えるのをやめた。

 27才。去年からジムに通って大事に育てた筋肉、まさか白い女の子向けのローブを着ることになるとは思わなかっただろう……。

 みちみちっ、と積載容量ギリギリのローブを破かないように気をつけながら歩く。

 神殿から出発して、エメルの案内である場所に向かっている。

 どうやら、『祈りの旅』の出発点らしい。


「ありがとう、エメル」

「いえ……聖女召喚にむけて、村の人たちが作ってくれたものです。無駄にならずによかった」

「村?」

「はい。私の生まれ育った巫女の村です」

「へぇ、巫女の村!」


 なんだかファンタジーっぽい。


「ある理由で、周辺に出没する魔物はすごくレベルが低くて安全な村なのです。戦う力のない人はこの村に集まって暮らしています」

「へぇ」

「ですから、別名『はじまりの村』と呼ばれていて……」

「はじまりの村っ!」


 いよいよもって、ファンタジーっぽいな。

 思わず叫んでしまった。


「これから向かうのが、その『はじまりの村』なんです。聖女様の『祈りの旅』は、その村でのお祈りから始めることになっているんです」

「なるほどなー」


 じゃあ、もう出発が近いってことだ。

 がんばらないとな。

 そう思っていると、


 道の向こうに、村が見えた。

 その村の門の前には――


「うわぁあんっ! 痛いよぅ、痛いよ~!」


 膝を擦りむいて号泣している子どもが、倒れていた。


「だ、大丈夫ですかっ!」


 エメルが子どもに駆け寄る。

 優しいんだなぁ。


「ひっく、ひっく……石に、つまづいちゃって……えーんっ」


 子どもの膝からは、どくどくと血が流れている。

 砂と小石で傷口が汚れている。

 痛そうだ。


「あの……リョウタ様」


 エメルが、ローブの裾をちょいちょい引っぱってくる。

 え、なにそれ可愛い。


「どうした?」

「あの……聖女様は、癒やしのスキル【ヒール】をお持ちのはずです……よければ、この子を直してあげられませんか?」

「え!」


 スキル使用!?

 いきなりここで?


「これは、見た目よりも傷が深いかもですし……」


 潤んだ目で、俺を見上げるエメル。

 う、上目遣いの威力ッ!!


「わかった、任せてくれ!」

「ありがとうございます、聖女様っ!」


 とはいえ。

 さきほどの赤っ恥……「今から、晴れるよ!」事件の二の舞は避けたい。

 スキルって言っても、どうやって発動すればいいんだ……?


 俺の戸惑いを感じ取ったのか、エメルがそっと耳打ちをしてくれる。


「スキルは聖女様が祈ることで発動します。癒やしの祈りを心に、『ヒール』と唱えてください」

「オッケーだ!」


 エメル、なんて気が利くんだ!

 可愛くて、俺のことが好きで、気配りの出来るなんて……さすが異世界、ありがたい。限りなくありがたい!


 子どもの傷口に手をかざす。

 ……いや、祈りだから両手を組んだ方がいいのか。


(えっと、神様仏様。……この子の傷を治してください)


 お願いします。

 祈りを胸に、大きく息を吸い込んだ。


「……――っ、ヒール!!」


 できるかぎり大声で、俺は叫ぶ。

 俺が聖女っていうなら、これくらいの擦り傷すぐに治せるはず。

 祈りを込めて、「治れ!! めっちゃ治れ!!」と念じていると。

 しっかりと組んだ両手の間。

 具体的には、ジムで鍛えた胸筋のあたりから、清らかな光があふれ出した。


「おお! ……うぉおぉ!?」


 その光は、少しずつ大きくなり――大きく……いや、大きすぎるだろ!

 あまりの眩しさに、目を開けていられなくなるほどの巨大な光の柱となって、村全体を包み込んだ。


「うおおぉ!?」

「こ、これが……ヒール……!?」



 ◆◆◆


 その日、『はじまりの村』に伝説が生まれた。

 危険なモンスターの現れないこの村には、病気や怪我で動けない人間が多くかくまわれている。

 しかし。

 村の入り口から突然湧き出た光の柱に呑み込まれた村人達は――

 

「朝から腹下してたのが治った!!」

「なんだこれ……目が、俺の目が見えるぞ! メガネもないのに!」

「うおおおー!! モンスターに石化を喰らって動かなくなってた足が動くぞ!」

「すごいわ! うちの坊やが立った!」

「うちのじいちゃんの髪の毛が生えてる~!」


 ものすごく、健康になったのだった。

 これが、異世界から召喚された聖女、中堂リョウタのヒールの力である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ