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俺、召喚!……え、聖女?①

 眩い光。

 俺は真っ白い空間のなかで、いくつもの声を聞く。


――来たれ、来たれ。

――異界より来たる、我らの救世者。

――どうか、我らにその力をお貸しください。


 これは、あれだ。

 ……異世界召喚。

 深夜アニメで何回も予習済みの、例のアレ。

 シミュレーションはばっちりだ。

 俺はしがない社畜だが、問題ないだろう。

 というよりも、安月給でこき使われて休みも取れないポイズンな毎日とオサラバできるなら、異世界でもなんでも行ってやるさ。趣味の料理もろくに出来ない日々なんて、クソ食らえ!


 特技はオムライスを綺麗に包むことだが、全然異世界でもいけると思う。

 根拠はないけど、前向きに考えていこう。

 ポジティブさがお前の取り柄だ、って野球部の顧問にも言われたしな!

 ……まぁ、ずっと補欠だったけど。


 中堂リョウタ。27才。

 この光が消えたら、俺はきっと異世界に……。



◆◆◆



「おお、召喚に成功したぞ!」

「異界からの救世者!」


 ざわざわ、と期待に満ちたざわめきに目を開く。

 目の前には、いかにもファンタジーな光景が広がっていた。

 てるてる坊主みたいなローブを着た人たちが、祈りのポーズのままでこちらを凝視している。


 松明の火に照らされた神殿。

 仰々しい杖を持った、長老っぽいおっさんたち。

 鈴や花で全身を飾った、踊り子っぽい女の子(かわいい!)。


 ざわざわ……。

 ざわざわ……。


 ちょっと待ってくれ。

 このざわめき、明らかに「戸惑い」を含んでいる気がするのだけれど?


「……こほん」


 長老っぽいおっさんが、咳払いをして場を沈める。

 何人かの人を集めて、こしょこしょとナイショ話をしている。

 召喚された俺は、その間ずっと仁王立ちをしているわけだが。

 ここでオドオドしてはいけないと思うんだな!

 なんて言ったって「救世者」みたいだし。


 なるべくキリッとした表情を崩さないままで仁王立ちをキメる。


 しばらくすると、長老たちが俺の前にやってきた。

 踊り子っぽい女の子も一緒だ。近くで見るとめちゃくちゃ可愛い。大好きなアイドルグループ幽霊坂49の推しにめっちゃ似ているし。


 そして。

 踊り子っぽい女の子が、口を開いた。


「……ようこそ、クレスティアへ」

「俺は、リョウタ……中堂リョウタです」


 この場所は、クレスティアというようだ。

 どうやら、国の名前みたいだ。

 なんか、いかにもファンタジーって感じ!

 憧れの異世界、来てしまいましたよ。

 ちょっと感動していると、踊り子の口から信じられない言葉が飛び出した。


「どうか、私たちにその力をお貸しください――聖女様(・・・)

「……は?」


 いや、ちょっと待って。

 今、なんて言った?


「その清らかな力で我らをお救いくださいませっ!」

「いや、その後」

「……聖女様ッ!」

「いやデカい声で言ったってダメだわ! 今『聖女様』って言った!」

「はい! 私たちの世界に伝わる【聖女召喚】の術式によって異界から招かれた方ですから」

「……ちょっと待ってね」


 確認作業。

 おっぱい……なし。

 ちんちん……あり。


「えーっと、君」

「はい。我が名は召喚の巫女、エメラ・メラルドでございます」

「エメラちゃん」

「はい」

「俺、男だよな?」

「は、はい」

「女の人、じゃないよね? TSとかしてないよね?」

「てぃー……?」

「オンナノコの体になったりしてないよね、ってことですね」

「は、はい。違うかと」


 よし、意思疎通はできている。

 言語もばっちり通じている。さすがは異世界召喚。


「それで……俺は?」


 核心に迫る質問。

 自分の鼻先を指さして、ゆっくりとエメラに問う。

 エメラはまっすぐにこちらを見つめて、言った。


「聖女様」


 俺は、たっぷり5秒考えてから、


「いや何でだよ!?」


 絶叫した。


 いや、ちょっと待ってくださいよ。

 マジで? いや、どういうこと?

 あこがれの異世界召喚。ここまではいい。


 俺……男なのに、聖女なの? 

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