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8. 各務原

 立川を飛び立って数十分。直人達の無線に通信が入る。


「各務ヶ原管制塔より飛行中の御佐機へ。所属と氏名を述べよ」

「神楽坂魔導士予科。水無瀬直人」

「……状況は把握している。正面の滑走路に着陸されたい」

「了解」


 空軍各務ヶ原基地は立派な滑走路に加え、複数の大きな格納庫や掩体壕。製造設備、整備工場まである非常に大きな施設だ。


 三人は滑走路に着陸すると、迎えに来た乗用車に乗り込み、司令部のある管制塔へ連れていかれた。


「水無瀬直人と、その友人二名。話は聞いている。ここを出るまで入門証を外さないように」


 そう言って受付の軍人が入門証を手渡す。


「施設内は魔導士の刀を除いて武器の携帯は禁止だ。持ってないと思うが、銃や短刀を持っているならここで提出するように」

「いや、ないです」

「よろしい」


 そうして待つこと数分。

 作業着の男が姿を現す。


「君か。補助ロケット試作機の魔導士は」

「え、ええ。はい」

「何故この時期なのか。何故中学生なのか。私は何も知らない。だが品物はできている」

「博士。早速ですが、お願いします」

「ではこっちだ」


 作業着の男に、軍人、直人達三人が続く。


 アスファルトで舗装された道路をしばらく歩き、整備工場にたどり着く。


 入口を通ったところで、作業着の男が口を開いた。


「改造はここで行うが、部外者が入っていいのかね」

「いえ、まずいです。こんな時勢とはいえ、軍事施設ですので」

「ふむ。ではお嬢さん二人はここで待っていてくれ」


 そう言ってから、作業着の男は守衛に近づいていく。


 まぁ仕方ないあるまい。そう長時間ではないだろうし、ここは屋根があって、日差しは避けられる。


「水無瀬君。ついてきなさい」

「じゃあ、後でな」

「ええ、待ってるわ」

「後でねー」


 二人に向けて軽く手を上げると、守衛に入門証を見せ、直人は工場の奥に進んでいく。


「どのくらいかかります?」

「一時間かそこらだ。既に作業者は待機させている。すぐ始めよう」


 天井が高い場所に着くと、数人の作業者が木製パレットの上に座っていた。

 その奥のパレットには、銀色に輝くダクトやノズルが置かれている。


「水無瀬君。ここに御佐機を出してくれ」

「わかりました。早衛!」


 工場内に、身長六メートルの御佐機が出現する。


「うつ伏せで寝かせてくれ」


 そう言われたので直人は一旦憑依し、うつ伏せで倒れてから離脱する。


「向きはこれでいいですか?」

「問題ない。作業者諸君、改造の時間だ」

「おいーっす」


 ツナギの男達が一斉に立ち上がり、散っていく。


 クレーンを操作する者。溶接棒を持つ者。レンチを持つ者。

 早衛の改造が始まった。




 それと丁度同じ頃、ガレージの入口に二人の男が現れる。


 姿は空軍の軍服。だが様子が少々おかしい。

 それを見咎めたか、守衛が椅子から立ち上がり侵入者へと歩み寄る。


 次の瞬間、侵入者の一人が一刀のもとに守衛を斬り捨てた。


「……え!?」

「みなも、この人達!」


 身構えるみなもと茜に、侵入者達が近づく。


「邪魔をしないと誓ってそこをどけ」

「そうはいかないわ」

「では仕方あるまい」


 男がそう言って刀を構えるのと、みなもと茜が抜刀するのはほぼ同時であった。


 不意打ちや奇襲は不可。二対二の真剣勝負。


 二対二の真剣勝負が、一対一とそう変わるわけではない。


 構えを取って睨み合い、読み合いと駆け引きを経て、勝負は一瞬で決まる。


 片や幼少時より古流剣術を修めてきた剣客。片や帝国軍の教練に耐え、実戦剣術を学んだつわもの


 互いに攻め手に対して受け手を用意していると考えてよい。


 故に勝算なき拙攻は自殺。相手の一挙手一投足を見極める必要がある。


 そして二対二である以上、状況の変化にも遅滞なく応変せねばならない。


 致命的なのは味方がやられ、無傷の敵が二人残ってしまうケース。こうなっては万事休す。


 これを避けたければ、味方が敵に斬り込む、或いは敵が味方に斬り込んだ瞬間に、こちらも仕掛けていくしかない。


 ここで一つの命題が生まれる。


 味方が敵に斬り込んだ時に、好機と見て自分も斬り込むか否か。


 静観に徹し、味方がやられれば進退窮まる。


 では自分も斬り込むか。しかし対面の敵は一縷の隙も見せていないのだ。


 味方に誘われての主体性無き攻撃など、容易く見切られ返り討ちにあうだろう。


 乾坤一擲斬り込むか。味方の勝利を信じて座して待つか。

 自らは賭けをするしかないのか。


 それはある意味では正しい。


 魔剣の使い手でもない限り、完璧な回答などない。


 そしてその賭けの勝算を少しでも上げるために、剣術があるのだ。


 八方眼。視野を広く持ち、一つのことに拘ることなく適切に状況を判断する。


 対面の敵だけを見つめてはならない。


 味方の攻撃は果たして適切なものか。味方に斬り込んでいく敵は、勝算あってのものか。


 自分以外の全ての参加者が、自分の選択を決める要素となる。


 生と死。如何に後者の役割を敵手に押し付けるか。


 みなもは正眼。茜は甲段に構える。対する敵手は共に右上段。魔導士が最も多用する構え。


 既に四人は敵の二人から同時に斬りかかられる展開、何より同士討ちという愚行を避けるため、互いに距離を取っている。


 まず殺し合いになるのは、自分と相対する敵だと考えてよい。


 みなも、茜は敵手を、そして互いの様子を伺い、勝機を探る。


 みなもの頬を汗がつたう。


 八月下旬。熱気が四人の体力を奪いつつあった。


 しかし斬り込めない。今、仕掛ければ、集中を切らせば、死ぬ。


 魔導士達はひり付く緊張感に身を焼きながら、互いの殺意だけを感じて向かい合う。


 酷く暑い。


 神経が焼き切れそうな緊張から逃れるべく、斬り込みたくなる。しかし自制。


 斬るのは自分。故に今は時を送る。


 現状、それぞれは読み合いに徹し、状況は不変に見える。しかし、水面下では既に生還者を決める天秤が揺れ動きつつあった。


 みなもと敵手の間合いが、ゆっくりと、ゆっくりと、着実に詰まりつつある。


 睨み合いの中、みなもが亀の如き遅さで、歩を進めつつあったからだ。

 相手に悟られぬほどの遅さで、慎重に勝利の糸を手繰り寄せる。


 みなもと敵手には少なからぬ身長差が存在する。したがって、両者にとって最適な間合いは異なる。


 まさに今、間合いは敵手が斬り込むに最適な距離となっていた。


 しかし、敵手は踏み込めない。

 切っ先を真っ直ぐ喉元に向けられて、そう簡単に踏み込めるものではない。


 このままいけば、間合いは敵手にのみ有利な距離を通り過ぎ、対等な条件に変化する。


 結果、この駆け引きは時間の経過が不利に繋がることを承知で耐えた敵手にこそ利するものとなった。


 暑さと緊張感。そして綱渡りによる精神の摩耗でみなもは相当に疲弊していた。


 体力、気力の消耗がミスを生む。

 どんな優れた魔導士も、集中の糸が切れた時に魔の時を迎えるのだ。


 みなもの肺が、大きく息を吐く。


 これを見逃す敵手ではなかった。敵手は先の機を捉える。

 一瞬で生死が分かれる空戦を生業とした魔導士にとっては必然と言えた。

 みなもが息を吸い始めるその瞬間に、敵手は右足を踏み込む。


 間合いが近いため、前進よりも重力落下を利用した斬撃。


 みなもにとって幸いだったのは、自らのミスに気付いた点だった。


 息を吸っている間の硬直から抜けると、咄嗟に重心を後退、敵の斬撃が届くまでの時間を半刻伸ばし、手首を返して刀で受ける。


 置いただけの刀など容易く弾かれたが、負傷を免れることはできた。


 この攻防はもう一組の睨み合いにも影響を及ぼす。


 みなもの呼吸が周囲に露呈した直後、茜は息を吸いつつ、少し背中と肩を丸めた。

 あたかも息を吐いたかのような挙動。


 先の機を取った味方に後押しされたか、敵手はこれに反応した。


 身体を動かすのは筋肉であり、筋肉の出力は呼吸状態に左右される。

 吸よりも吐が筋力に遥かに大きな出力をもたらす。人間である以上、この理からは逃れられない。


 すなわち人間は、息を吸う瞬間こそが無防備となる。


 その瞬間を狙って繰り出される袈裟斬り。が、これは釣り出された形。


 茜は重心を下げつつ後ろに滑ると、すかさず跳躍。

 刀を振り下ろした敵手の手の上に右足を踏み下ろす。


 呼吸の偽装。跳躍。足技。これぞタイ捨流。


 敵手は反射的に茜の足をどけるべく手を動かす。


 足場を失った茜の右足は重力に引かれ落下。その勢いのまま柄で頭頂部を殴打した。


 体重の乗った一撃。女だてらの威力。


 茜はすぐにみなもの救援に向かうべく、刀を左肩に担ぐように上げつつ、右へ足を踏み出す。


 しかし、敵手は昏倒してはいなかった。


 歯を食いしばりつつ右上段に構え、薪割のような大きな踏み込みで軍刀を振り下ろす。


 それは執念で放たれた不格好な攻撃であったかもしれないが、茜の企図を阻むには充分だった。


 茜は脚を止めつつ左甲段に刀を動かし、左足を後ろに滑らせつつ、振り下ろすことで敵の刀を叩き落とす。


 すかさず左足を動かして左方に突き。足を踏みかえ右へ薙ぐ。


 飛び散る血の量から相当なダメージになっていることは間違いないが、致命傷ではない。


 茜は追撃をかけるべく右甲段に構えた。


 一方のみなもは攻撃を防いだ衝撃を殺さず少し下がり、一身重になりつつ刀を執政笛に構える。


 斬り上げの追撃を予想してのことだったが、敵手は突きにて連撃を放ってきた。


 切っ先がみなもの無防備な脇腹を襲う。しかし、刃を垂直のまま突いたため、切っ先は肋骨に当たり、内臓への侵入は防がれる。

 間合いが近く、十分に加速できなかったことも幸いした。


 決定打にならぬと見るや否や、敵手は重心を下る。肋骨にひっかかった切っ先が、みなもの身体を下方に引っ張る。


 咄嗟にのけ反るような斬り上げ。敵の刀を打ち上げるが、体勢は完全に崩れてしまった。


 好機と見たか、敵手は上体を持ち上げつつ軍刀を水平に構え、再度刺突してきた。


 それが身体の正中線やや左側を狙ったものであることは明らかであったが、みなもに残された選択肢は少なかった。


 みなももまた軍刀を寝かせると、平を左腕に乗せ、防御姿勢を取る。


 そして敵の切っ先が腕に侵入すると同時、腕を上げ、保持した刀を射出した。

 刀が腕を突き抜け左鎖骨にぶつかる。だがそこまで。対するみなもの刀は狂いなく敵手の首元へ到達した。


 威力が足らず、貫通には至らない。しかし気道には確実に届いた。


 形勢逆転。深刻なダメージを受けているのは敵手。


 腕は、まだ動く。


 みなもは左手のひらを柄に乗せるようにして右上段に構え、正眼に構えた敵手と睨み合う。


 互いの負傷が、次が最後の命のやり取りであることを告げていた。


 その数刻前、茜と敵手の戦いは、茜が先の機を探っていた。


 負傷した敵手は味方が優勢に見えることもあって、定石通り待ちに徹していると予想された。


 故に安易に斬り込んでいくのは軽率ではある。


 しかし、敵が受け身であるということは先制攻撃を受ける危険性がないということであり、イニシアチブを奪いやすいということでもある。


 右甲段に構えた茜は右足を大きく踏み込む。しかし、重心は落さない。刀は左甲段へ。


 これだけで、敵手は半歩後退。


 そして左足の踏み込みと同時に斬り込む茜の刀が、後の先を取るはずだった敵手の刀がぶつかる。


 腕をぐるりと回し、右甲段。即、斬。


 綺麗な袈裟斬りが敵手の胴体を斬り裂いた。


 先後の先。


 タイ捨流は右半開に始まり左半開に終わる。この勝負においても、タイ捨の一刀は袈裟斬りに終結した。


 それに数秒と遅れることなく、みなもの戦いもまた決着がついた。


 みなもによって喉を突かれた敵手は、最早機敏な行動はとり得ないように見える。


 故にみなもは先制攻撃を仕掛ける。気力体力出血は限界が近い。


 左足で地面を蹴り、身体を前に送る。


 敵手は瞬時に反応した。一歩下がれば間合いを外し、後の先を取れるはずであった。


 そのために息を吐きつつ一歩下がる。


「グブ……」


 穿たれた喉笛から、空気と血液が漏れた。


 その挙動に全神経を集中している者からは、息を吐いたこと、すなわち行動を起こそうとしていることは明らかであった。


 敵手の後退で間合いが開く。ではみなもの刀は空を切るか。否。


 みなもは咄嗟に左脇構えへ変化していた。足は一歩踏み出すのみ。


 右上段が初めからフェイクのつもりだったわけではない。


 負傷と引き換えに喉を穿ち、敵の呼吸を可視化していたからこその閃きであった。


 今度こそ、みなもは左足を踏み込みつつ斬り上げる。


 敵手は軍刀を右に動かし、攻撃を防ごうとする。


 しかし、手遅れであった。


 みなもの軍刀はそれを押し切り、敵手の首元へ到達した。


 振り抜かれる刀。敵手の首は皮一枚残して両断される。


 即死した敵手が倒れるのと同時、みなもも息を吐いて膝をついた。


 魅乗りは二人とも、血だまりを作って絶命している。


 市ヶ谷神道流は、互いが分厚い装甲で身を守る御佐機であることを前提とする剣術であり、介者剣術とも異なるものである。


 それに対し神道悠紀羽流や鶴来タイ捨流は中世以前から連なる介者剣術、素肌剣術双方の流れを汲むものであり、技の体系において、人体構造に関する十分な考慮がなされている。


 幼少の頃より励んできたお家剣術の完成度の高さが、二人を勝利に導いた。




 その数十分後、その場に戻ってきた直人は冷水をぶかっけられたような衝撃を受けた。


 うつ伏せに倒れ、出血多量でこと切れている男が二人。


 軽傷とは言えない傷を負い、血を流したまま寝ているみなもと、それを心配そうに見守る茜。


「な、何があった!?」

「魅乗りが来て、私達が戦ったんだよ!」

「魅乗りだと!? それより、衛生兵を呼ぶ!」

「もう呼んだよ!」

「なら待つだけか!」

「直人。私は大丈夫よ」

「無理に喋るな。茜。魅乗りは二人だけなんだな?」

「ここに来たのは二人」

「なんで魅乗りだってわかった?」

「守衛の人を斬り殺したから。あとは殺意」


 突然の事だっただろうに、よく対応できたな。


 これも生と死の狭間にあるという魔導精神の賜物か。


「白兵戦になったのか」

「向こうも刀しか持ってなかったよ」


 ……そういえば、ここに入る時銃火器は持ち込み禁止と言われたな。


「魅乗りが襲ってきた理由は、俺か」

「多分……」


 二人を連れてくるべきではなかったか。

 いや、二人がいなければ早衛の改造中に踏み込まれ、俺が殺されていた可能性もあるか。


「二人とも、助かった。ありがとう」

「あ、いやいや! いいんだよ! 私達も危なかったし、直人君は大事な戦いがあるわけだし」

「助けられたことに違いは無い」

「そうかな。えへへ」


 ここで、赤十字の意匠が描かれた四角形の布を腕に貼りつけた軍人が二名、担架を持って現れた。


 みなもは速やかに担架に乗せられ、医務室へと移動する。


 医務室では軍医と思われる男がすぐに手当てを行ってくれた。


 負傷個所は脇腹、腕、鎖骨。いずれも急所ではなく、包帯を巻くだけで済む。


 式神持ちであることからも大事にはならないと言われ、一安心した。


 ベッドで安静にするみなもが直人へ口を開く。


「聞いての通り。私は大丈夫よ」

「ああ。良かった」

「だから直人は補助ロケットの練習に行って」

「なに」

「その方が、有意義だと思うから」

「……そうだね。みなもは私が見ておくからさ」


 確かに。二人の頑張りに報いることとは、ここで手持ち無沙汰にしていることではなく、晴明に勝てる可能性は少しでも上げることであろう。


「その……通りだな。通信の使用願います」


 直人は近くにいた軍人に話しかける。


「うむ。こっちだ」


 軍人に案内され、直人は立川基地に通話をかける。

 そして交換室で泉澄への言伝を頼むと、滑走路へ向かった。


 試験飛行は本来立川に戻ってから行う予定だったが、帰りにみなもを連れて帰る必要がある。それまでは各務ヶ原に留まっていたい。


 しかし、時間は一秒たりとも無駄にしてはならない。

 ならばここで試験飛行を行う他ないだろう。


 直人は発動機を起動し、離陸。

 ある程度高度を上げたところで補助ロケットに点火した。


 これは……精霊に後押しされているようだ!


 その加速たるや素晴らしかった。上昇力も大幅に増している。


 機体特性に変化がないことを確かめると、どんどん高度を上げていき、高度一万メートルを超えた。


 雲海は遥か下。頭上を見上げると、ダークブルーの空が広がっている。

 しかし、まだ昇れる。


 ターボチャージャーを二速に切り替え、ロケットを併用しながら上昇を続ける。

 高度は一万四千メートルを超えたが、ロケットを使いさえすれば、飛行状態には余裕があった。


 早衛の本来の実用上昇高度は一万四千メートル。

 それ以上の高度だと、瑞配や弾薬の搭載量にもよるが、基本的にはただ浮いているだけの状態となる。


 だが、今ならロケットに点火してやればインメルマンターンすら行える。


 そして高度は一万六千メートルに達した。


 流石に、この辺りが限界か。

 発動機の出力は激減している。補助ロケットだけでは、飛行に足る推力は確保できないらしい。


 地球の丸い輪郭に沿って、空が青い領域とダークブルーの領域に分けられている。


 そして、ダークブルーの領域の方が遥かに広いのだ。

 その向こうには、宇宙と呼ばれる暗黒の空間がある。


 蒼穹を、常夜の宇宙が包み込む。


 遥か遠くには、沸き立ち昇る積乱雲があった。

 その中に明滅が見える。稲妻だろう。


 近くに行けば飛行できないほどの規模なはずだが、ここからだと低空に立つ柱にしか見えない。


 こんな領域を、好きに飛ぶことができるとは。


 これなら勝てるのでは? いや、勝つんだ。


 積乱雲。蒼き世界にいく柱。


 もう一句詠んだ直人は高度を落とし、ロケットを用いた戦闘機動マニューバの練習を始める。


 注意すべきは翼にかかる荷重だ。


 改造された早衛は補助ロケットが追加されただけで、急降下制限速度も、主翼の剛性も増したわけではない。


 高速での引き起こしや旋回は角度に注意しなければ空中分解してしまう。


 よって試験飛行においては、その辺りの運用限界を可能な限り把握することが第一目標だ。


 直人は昼食を挟んで午後三時ごろまで、試験飛行を続けた。

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