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1. 護衛

 帝都に近づくにつれ、銀色の箱は大きくなっていく。紛れもない実態。存在感が強まる。

 その銀の箱は直方体で、六面全てから銀色の枝のようなものが生えていた。


 場所は東京都千代田区千代田。宮城の真上。


 その底面は高度五千メートルほどだが、その上面は空の割れ目の中にあり、一体どのくらいの大きさなのか見当もつかない。


 空の割れ目の縁の部分は赤く発光しているが、割れ目の向こうは真っ黒で何も見えない。


 そして銀の箱からは黒い水が漏れだしていた。


「な……なんだこれ」

「これは……」

「みなも。知ってるのか?」

「伝説上のものだけれど。これは幽世の――」

「魅乗りだ!」

「え!?」

「魅乗りが飛んでるな。西側か!」


 言うなり直人は進路を変えた。


 いかなる理由であれ魅乗りは殺す。

 それに今回の場合、この異常現象と関係があるかもしれない。


「私が三番機でいいのかな」

「ああ。みなもが二番機に入れ。高度を上げつつ行くぞ」

「はい」


 三人は立川方面へと飛行した。


「あれだな。魅乗りは四機くらい。いや、遠くにもう三機いるな」

「どうするの?」

「高度の高い三機を狙う」

「了解よ」


 三機の魅乗りとは同位高度にあるが、接近しつつあるためいずれ会敵する。


 直人は下方の様子を伺う。


 そこでは四機の魅乗りと深緑色の機体が戦っていた。おそらく帝国空軍の所属機。


「民間機! すぐに退避せよ!」

「俺達も戦います!」

「……北に離脱中の大型機を守れ! できるか」

「了解!」


 そう答えた直人は北側に進路を移す。

 先ほどから見えてはいた。御佐機とは違う航空機のシルエット。あれを守ればいいわけか。


 航空機の護衛任務は初めてだな。

 護衛には直掩と制空とあるが、今あの航空機に直掩機はついていないように見える。

 ならば、俺達がその役割を果たそう。


「まず魅乗りにちょっかいを出す。墜とさなくていい。そのまま大型機の方に向かう」

「わかったわ」

「おっけー」


 敵機は赤黒い機体で魅乗りであることは間違いない。

 三機とも同じ形状であるため精霊機と思われるが、見たことのない機体だ。


 太刀を構える直人達に対し、二機の魅乗りが向きを変え正対してきた。

 左下に回避し、縦の旋回で大型機に向けて進路を変える。


 目前に敵機がいた。先ほど旋回してこなかった一機。


 すかさず機関銃を抜き、銃撃を始める。


 撃たれる魅乗りはバレルロールを始め、距離が急速に詰まっていく。


「追い抜くぞ」


 直人は魅乗りを追い抜くや否や急降下し、一気に距離を開けてから緩い上昇に移る。


「四時から敵機!」


 茜の声と共に、発砲音が聞こえてきた。

 音からして俺や茜と同じ三十ミリ。


 直人は鋭く旋回し、敵機と正対するように向きを変えた。


 銃弾が肩部と胸部に当たるが、被害はない。


 大型機との距離が近づきつつある。あまりスピードは出ない航空機らしい。


 魅乗りの飛行をひたすら邪魔してその間に逃げてもらうというのは無理そうだな。


 直人は斜めの旋回に入る。

 多少不安だったが、二人ともしっかりついてこれていた。


 これにより敵機後方に入ることができたが、敵機はシザーズと横滑りを駆使して射線を絞らせない。


 この隙に、後ろにいたはずの魅乗りが下方を緩降下で速度を稼ぎつつ追い抜いていくのが見えた。


 こいつら、腕がいいぞ!


 エリート部隊だったのかもしれない。やっかいだ。


 先に護衛対象に到達されては元も子もない。俺達も増速すべきだ。


 そう判断した直人は急降下に入り、みなも、茜もそれに続く。


 早衛と秋葉権現は突っ込みの良い機体だし、一目連も機体の大きさに違わぬ重量を持つため降下は得意。


 すぐに前方の魅乗りに追いつく。


 後方の魅乗りも追っては来ているが、射程外。


 直人は射撃を始める。みなも、茜も射撃を始め、十字砲火が魅乗りを襲う。

 手ごたえはあった。


 銃弾の数発が発動機の下を通り背面に当たった。

 ただでは済むまい。二手に分かれたのが仇になったな。


 直人達はそのまま追い抜き、大型機に接近する。


 四発の、爆撃機か。

 主翼に大きく赤い丸が入っているので空軍機であることは間違いない。尾翼には羽を広げた鷲のマークが描かれている。


「反転するぞ」


 上昇旋回で爆撃機と高度を合わせ、敵機との距離を確認。近い。


 そのまま斜めの旋回で敵機の後方につく。だが敵機は降下に入っており距離が詰まらない。


 そして爆撃機の下方に入ると、急上昇に転じ、射撃を始める。ここにきて爆撃機の銃座も射撃を始めた。


 魅乗りと爆撃機が交差し、爆撃機の右翼から出火する。被弾したらしい。


 すぐに自動消火装置が作動し、火は消し止められる。しかし爆撃機は右に傾き、降下を始めていた。


 おいおいおい、持ち堪えてくれよ!


「太刀打ちに切り替える」


 ここで攻撃手段を銃撃から太刀に変更。確実に墜とす!


 旋回している敵機に対し、上昇、下降から水平飛行に入り、敵機と正対する。


「みなも、茜は左を狙え!」


 そう言って直人は太刀を右上段に構える。そして太刀を振り下ろす、ふりをした。


 これに敵機はかかった。釣られるようにして太刀を振り下ろす。対する直人は下段に構え直している。


 時計回りに横転しつつの斬り上げ。

 直人の太刀は魅乗りの左腕を両断した。


 腕と太刀が落下していく。


 もう一機の魅乗りは二対一では不利と踏んだか、下方への旋回で回避していた。


 よし。これで脅威は去った。


 そう思って直人が爆撃機の方を見ると、片腕を失った魅乗りが爆撃機へ接近しているところだった。


 しまった!


 すぐに旋回するが、魅乗りが爆撃機に追いつく方が早かった。


 自衛機銃をものともせず、魅乗りは爆撃機右翼に接近。そのまま衝突した。


 赤黒い獄炎が上がり、金属片が舞い散る。


 主翼の片方を失った爆撃機はスピン状態を立て直すこともできず、そのまま墜落。

 機体からはいくつかの落下傘が飛び出してきた。


 守れなかったか……。まぁ搭乗員は生きているのだから良しとするか。


 残った最後の魅乗りは降下しつつ離脱していくところだった。


 深追いしても仕方ない。先ほど戦っていた空軍機と思しき御佐機と合流するか。


 直人達は高度を落としつつ進路を変えた。


「民間機へ。我々に続いて着陸されたい」

「了解」


 無線に従い誘導されたのは立川の空軍基地だった。


 飛行場に着陸すると、三人は憑依を解く。そして管制塔と思われる建物へ案内された。


 中に入ると、一人の男が近づいてくる。いくつか勲章を身に着けているので、高級将校と思われた。

 年は四十くらいだろうか。眼鏡をかけた、頭の良さそうな男だ。少し冷めた印象を与える。


 先導していた魔導士二人が敬礼するとその男も敬礼を返し、口を開いた。


「任務ご苦労。そちらの少年少女もだ」


 その言葉に、直人達は頭を下げた。


「俺の名は雅楽川泉澄うだがわいずみ。空軍少将。立川基地の司令を務めている。君達も所属を述べよ」

「神楽坂予科所属。水無瀬直人です」

「同じく、悠紀羽みなもです」

「同じく、玉里茜です」


 泉澄は頷き、話を続ける。


「まぁ、無事で何よりだ。あれを失っては意味も無いがね」

「あれというのは?」

「君らが守ろうとした爆撃機が積んでいたものだ」

「どうしてあの爆撃機が襲われたんです?」

「あの鹵獲B17はあるものを運んでいたんだ。だが魅乗りに情報が漏れたらしく、攻撃を受けた」

「あるものというのは?」

「軍事機密だ」

「はぁ、そうですか」

「説明したところで、最早存在しない。意味がない」

「墜落個所を探せば、案外無事だったりしないんですか?」

「そういったものではない。我々は希望を失ったわけだが、まぁ、次の手を考えるとしよう。君達については一応学校に所属の確認を取る。取れたら帰って――」


 そこまで言い換えて、泉澄は視線を一瞬横にやる。


「そもそも、何故あそこを飛んでいた?」

「それはですね。俺は魅乗りの気配がわかるんですよ」

「魅乗りの気配がわかるだと!?」


 泉澄の驚きの声を上げる。


「はい。正確には持ってる刀のおかげですが」

「その刀がそうか!」

「はい」

「銘はなんという」

「夜切です」

「ははは。拾う神ありとはよく言ったものだ。これで君達を帰すわけにはいかなくなったな」

「え!?」

「ついて来い」


 そう言って泉澄は踵を返すと、建物の奥へと進んでいった。


 周囲を見渡すと、直人達を連れてきた魔導士が真剣な眼差しでこちらを見ている。ただ事ではなさそうだ。


 直人達も泉澄の後に続き、応接室へと入った。


 泉澄は壁に取り付けられた電話の受話器を取ると、ダイヤルを回す。


「雅楽川だ。茶を四人分持って来い」


 そう言って受話器を置くと、向かいのソファへと腰掛けた。


「まぁ座れ。話というのはな、水無瀬。君の力が欲しい」

「俺の力?」

「正確には君の刀『夜切』だが、まぁ同じことだ。順を追って話そう」


 直人達がソファに座る中、泉澄は一呼吸置き、少し逡巡してから話し始めた。

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