鳴滝京香の御佐機講座5
飛燕二号甲型
所属:反政府勢力→神楽坂魔導士予科学校
魔導士:和奏詩文
武装:九九式二〇粍二号機関銃四型
発動機:水天一一型(遠心式スーパーチャージャー1段流体継手式無段階変速)
速度 加速力 上昇力 横転性 旋回性 機体出力 耐久性
4 2 2 4 3 2 2
二号飛燕甲型は一号飛燕の発動機出力強化型だ。性能上の大きな弱点であった上昇力と低速域での加速力が幾分改善しているが、代償として発動機の生産性と信頼性が致命的なまでに悪化してしまった。
二号飛燕の開発は四二年春頃には始まっており、重量を増した発動機とバランスを取るため身長を伸ばしつつ、初期型より増加の一途を辿っていた翼面荷重を低下させるべく主翼を大型化。更には機体出力の強化も狙うという意欲的なものだった。
しかし結局機体出力の強化は断念。主翼の大型化による効果も見られず、主翼形状を一号丁型と同様にした本機が甲型として採用された。
飛燕は最後まで発動機の品質不良に泣かされた機体だった。開発陣の思想や技術力に誤りはなかった点からも、自国の事情を考慮せず液冷発動機を希望した陸軍とそれに乗った市ヶ谷機関の判断ミスと言えるだろう。決して失敗作ではなく、九七式に匹敵する数が作られた飛燕だが、停戦後の精霊機機種整理の際、生産終了が決まっている。
もし日本の工業力で満足に発動機を生産できていたら。或いはいっそ空冷発動機を採用していたら、より高い評価を与えられていただろう。
零式精霊機一号
所属:神楽坂魔導士予科学校
魔導士:久世健児、間宮亮太
武装:九九式二〇粍一号機関銃二型
発動機:雅一二型(遠心式スーパーチャージャー1段1速)
速度 加速力 上昇力 横転性 旋回性 機体出力 耐久性
2 2 3 2 6 2 1
日本の御佐機は本機を抜きにしては語れない。本機は開戦から停戦まで旧海軍の主力精霊機の座にあった零式精霊機の、最初の本格量産型だ。
機体の開発は国華重工。発動機の開発は富士航空機。その特徴は徹底的な軽量化による驚異的な旋回性能と、群を抜いた航続距離にある。
そのピーキーな性能は大戦初期の伝説的な活躍と、その後の数多の苦境を生み出した。
開発当時、零精の装甲は機体正面の胸部、腹部こそ三七ミリ対戦車砲に耐え得るものとされたが、実際には英米の三七ミリ対戦車砲は中距離で貫通した。しかも背面部には装甲が存在せず、七・七ミリライフル弾でも貫通した。
これは当時の海軍の『近い将来御佐機の装備する航空機関銃は二〇ミリになる。二〇ミリ機関銃弾に耐えうる装甲を背面に備える事は重量過大となり非現実的で、寧ろ機動力で回避する方が合理的である』という思想に起因する。
加えて背面は上からの攻撃には発動機で守られており、装甲化の優先度が低いとされていた。
そのため一度真後ろを取られてしまうと魔導士が死亡する危険性が非常に高く、必要以上に犠牲を増やす欠陥とも指摘されるようになった。
加えて主翼の強度も限界まで削られており、速度が時速六五〇キロメートルを超えると確実に空中分解した。
そうした欠点を承知の上で図られた軽量化は、圧倒的な旋回性と、低高度での優秀な上昇力と加速力をもたらし、格闘戦に持ち込むことができれば無敵の強さを誇った。
加えて長大な航続距離は敵勢力圏奥地への侵攻と、長時間に及ぶ空戦時間の確保を可能とした。とある手練れの魔導士は、零精最大の強みはその航続時間にあると言い切ったほどだ。
更には日本の御佐機全般に言える操縦のしやすさも見逃せない。ベテラン魔導士達がその技量をいかんなく遺憾なく発揮できたのみならず、失速限界速度の低さと低速域での運動性の高さから、対空砲火の少ない地域なら対地支援にも活躍することができた。
しかし開戦から一年も経つと本機の弱点は敵軍に露呈することとなり、敵精霊機は一撃離脱にて応じてくるようになる。こうなると本機の旋回性は活かすことができず、横転性の悪さから降下に入るまでが遅く、急降下してもすぐ制限速度に達するという弱点ばかりが顕著となり、ベテラン魔導士をもってしても苦戦が目立つようになった。
こうした弱点を改善した二号零精の配備が始まった段階で一号零精は徐々に前線から引き揚げられ、その良好な操縦性を活かして訓練機として運用されることとなった。
以上のように致命的とさえ言っていい欠点を抱えた本機であるが、開戦初期に制空権を確保し、多大な戦果をもたらしたことは疑いのない事実だ。余談ではあるが、私も戦果の殆どをこの機体で挙げている。
敵軍にさえ恐れられた零式精霊機は間違いなく軍事史に残る名機だ。
発動機『雅』
零精を傑作機たらしめた文字通りの原動力が、搭載した発動機『雅』にある。雅は欧米で作られた同程度の出力を持つ発動機と比べ、軽量・コンパクトで低燃費、しかも信頼性も高い傑作発動機だ。
機能面においても雅は瑞配の逆流防止弁、バイパスが備えられており、マイナスGがかかっても発動機が停止しなかった。これはDB601の燃料直接噴射ポンプと同等の効果を持ち、英米の御佐機に対し背面飛行時は圧倒的に有利であった。これは実際に敵御佐機に対する有効な戦術として取り入れられている。
加えて自動混合気調整装置も備えられており、高度に応じて瑞配と空気の混合比が自動で調整できるようになっていた。これにより魔導士は発動機の状態を気にすることなく、戦闘に集中することができた。
疾風甲型
所属:魅乗り
魔導士:葉山司、葉山令
武装:九九式二〇粍二号機関銃三型
発動機:奉二一型(遠心式スーパーチャージャー1段2速)
速度 加速力 上昇力 横転性 旋回性 機体出力 耐久性
4 5 4 4 3 3 4
本機は現在の帝国空軍における事実上の主力精霊機だ。機体、発動機共に開発は富士航空機。
四一年末、帝国陸軍は市ヶ谷機関に対し、前線配備の始まっていた隼の後継機の開発を指示する。開発要求は制空、要撃、対地支援全てに適した高速機という厳しいものであったが、富士航空機は九七式、隼と同一の開発陣で臨み、基本性能は無論のこと、航続距離、操縦性、更には生産性にも優れた傑作機を生み出す事になる。
疾風の特徴の一つに日本機にしては高い翼面荷重が挙げられる。そのため九七式や隼に慣れたベテラン魔導士からは不評の声も上げられた。しかし英米の御佐機と比べれば特に高いというわけではなく、格闘戦になっても引けを取るというわけではなかった。寧ろ発動機出力の割に小さいプロペラ径と機体から、旋回戦を続ければ先に空戦エネルギーを失うのは敵機という意見も存在する。
市ヶ谷機関は疾風を大東亜決戦機に指定し、最優先での量産を命じたが、これが発動機の粗悪乱造を招く結果となり、量産初期は不具合を抱えた奉が続出し、運転制限が課せられていた(同一の発動機を採用した二号紫電も同じ問題を抱えていた)。
このため停戦前は大半の疾風がカタログスペックを発揮できなかったが、停戦でできた余裕と熟練工の復員により生産体制が向上。発動機の運転制限も解除される事となる。
多段式過給機が未だ実用化されていないため高高度における戦闘は厳しいものがあるが、高度六千メートル以下であれば英米の新型精霊機が相手でも互角かそれ以上に戦うことが期待される。
正式採用前の増加試作型(先行量産型)を経て推力式単排気管を備えたものが本機甲型。その完成度の高さから機体出力、発動機出力を強化した改良型の開発も進められており、当分の間は帝国空軍主力精霊機の座にあるだろう。
発動機『奉』
疾風および紫電が高い空戦性能を誇る最たる要因は、搭載した発動機『奉』だ。奉はベースとなった雅の設計を引き継ぎ、やはり同程度の出力を持つ英米の発動機に比べ、軽量・コンパクトで低燃費だった。カタログスペックにおいては非常に優れており、英米をして日本の魔導技術が生んだ奇跡の発動機と称された。
ただし工業品でなく工芸品と評されたその設計は製造に高い技術力が要求され、停戦前の最も過酷な情勢において満足いく品質を維持できなかったのも事実ではある。
加えて懸案となっていた多段式過給機は停戦後一年経ってなお搭載されていない。
この発動機は日本の科学・魔導技術の到達点にして限界点を示していると言えるだろう。
一号紫電
所属:大日本帝国空軍
魔導士:山本庄之助
武装:九九式二〇粍二号機関銃四型
発動機:奉二一型(遠心式スーパーチャージャー1段2速)
速度 加速力 上昇力 横転性 旋回性 機体出力 耐久性
3 5 4 4 3 4 3
本機は水空両用精霊機『強風』の改設計機であり、開発は強風と同じく明和航空機。完成を急ぐため、発動機を景星から奉に変更し、シーリング材や照明等を撤去する以外は可能な限り強風の設計が流用された。
その結果、試作機は予定していた性能を発揮できないばかりか飛行中のバランスが悪く、乗りにくい御佐機であるとの評価を受ける。また脚の強度が不足しており、着陸時の故障が心配された。
しかしこうした問題が未解決のまま四三年八月には海軍によって『紫電』として量産が命じられた。これは従来の海軍主力精霊機である零精では米英軍の新型精霊機に通用しなくなってきており、零精に比べれば速度、機体出力共に優れていたからだ。
明和はこのような紫電の性能に満足しておらず、市ヶ谷機関の協力のもと、より抜本的な改設計を施すことになる。
なお余談であるが、水空両用精霊機というジャンルは殆ど日本独自のものだと言っていい。
大陸、或いは南方での侵攻作戦において、精霊機が浅瀬や河川を潜行して敵陣に接近し強襲するという戦術が模索された。この用途に向けてまず零精を改造した二式水精が生産され、大戦初期に多少の戦果を上げた。その後継機として強風が開発されたわけだが、結局のところ水空両用御佐機というものは、通常のプロペラを装備するため水中では低速であり、水中装備が重く空戦性能は低いという、どっちつかずの兵器だった。
日本軍においても防戦一方となった大戦後期には水空両用精霊機に対する興味は失われており、精霊機や補助艦艇を大量に用意できる英米においても顧みられることはなかった。
※評価方法は下記の通り。
速度は高度六千メートルにおける『水平速度』。
加速力は『機体重量/発動機最大出力』。
上昇力は高度六千メートルまでの『到達所要時間』。
横転性は時速三五〇〜六〇〇キロメートルでの平均値。
旋回性は翼面荷重。(旋回所要時間ではない)