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13. 作戦会議

 詩文の家を訪ねた直人は、外に詩文を待たせつつ、家の人間に話を聞く。

 別段、軍人が来たりとか、電話がかかって来たりとか、そういうことはなかったようだ。


 そういうことなら、一先ず学校に戻ろう。


 もう一度鳴滝教官と話をして、最低限、詩文が巡航部の部室にいられるようにしたい。


 疎開先のグランドにはまず直人が着陸すると、校舎の中に入って様子を伺う。


 始業前の校内は平穏そのもの。見知らぬ魔導士も存在しない。


 結局、昨日から軍服姿を見ることはなかった。

 教官への確認は必要だが、別に市ヶ谷に通報したということはなさそうだ。


 そう判断した直人は校舎を出て、手ぶりで詩文に着陸指示を出す。


「直人はん。大丈夫やったん?」

「見た限りじゃな」

「よかったわぁ」

「とりあえず部室に行こう。部屋にはいられんかもしれんが、部室で寝泊まりしてればいい」

「ほんにおおきにな」

「飯はまぁ……食堂に紛れ込め」

「勉強は自習やね」


 部室の中にベッドを置けば当分はしのげるだろう。炊事ができる設備を置くのもいい。

 その他、元居た学校に戻って、放課後は巡航部に参加するという方法も考えられる。

 ただ、もう一度転校が可能なのか。詩文にとってどちらがいいのか。直人にはわからなかった。


 部室の近くまで来ると、みなもと茜に名を呼ばれた。


「無事で良かった!」

「どうして、いなくなったの!?」


 みなもの方は少し息を切らせている。


 俺の発動機音を聞いて跳び起きて、急いで着替えてきたのか。


「鳴滝教官から何も聞いてないか?」

「聞いてないわよ! 教えてくれないのよ!」

「そうか」


 みなもと茜は困ったろうが、教官の判断は正しいと直人は思う。

 第三者に勝手に話せる内容ではあるまい。


「勝手にいなくならないで! 心配するじゃない!」

「わけは話す。部室に行こう」

「はぁ……まぁ戻ってくるって思ってたけど、事前に話してほしいわ」

「そうもいかない事情があったんだ」


 直人達は部室に入り、靴を脱ぐと各々椅子に座る。


 みなもが水がめからコップに水を注ぐのを待って、直人は口を開く。


「詩文。みなもと茜には話してやれ」

「わかりました。みなもはん。茜はん。あてには秘密にしとったことがあるんです」


 そして詩文は自分の本当の年齢や出自について説明した。

 その後、直人は自分と詩文が何故逃げたか。昨晩何処で何をしていたかを話す。


「普通に危ない目に合ってるじゃない……」

「その魅乗り、また襲ってくるんだよね」

「死喰虫と名乗ってた。大妖怪らしいな」

「そうね。虫の妖怪にも、元々神だったものが零落して妖怪になったものがいるのだけれど、死喰虫はその筆頭かしら」

「元は神様、か」


 確かに、あの女の半分以上を構成していた蝉みたいな虫は、嫌悪感や悍ましさを醸し出すものではなかった。


「死喰虫は死体を分解し、浄化する虫や微生物の総体としての神ね」

「……確かに、死体に群がる虫が混じってた気がする」

「神様だった頃は鬼や虎を食べてしまうほどに強力だったみたいだけれど、まつろわぬ神として排斥されてしまったのね」

「鬼とかと同じになったってことか」

「そういうこと。今や幽世から死を振りまくだけの存在よ」

「斬っても死なんねん。やっかいや」

「御佐機を持ってなさそうなのが救いだな」

「……ねぇ直人。そろそろ始業なんだけれど、詩文ちゃんのこと、どうするつもりなの?」

「巡航部には所属する。この線でいくしかないな」

「大丈夫だよ。私達からも頼むからさ」

「茜はんおおきにな。みなもはんも」

「さて。朝飯買いに行くか。詩文は朝飯買ったら部室で待ってろ」

「そうします」


 直人達は一旦自室に戻って鞄を取り、購買でパンを買うと、そのまま教室へ向かった。




 終礼が終わった後、直人は京香に呼び止められる。


 脱走について怒られるかと思ったが、それについては何も言われず、ただ、放課後は女子三人と巡航部の部室にいるようにとだけ伝えられた。


 女子三人……詩文も入っているのか。


 だから現時点で所属を認められていると楽観はできないが、交渉のチャンスではある。


 放課後、健児、亮太にも詩文の事情をかいつまんで話す。


 二人の驚きが冷めやらぬ中、京香が姿を現した。


「久世と間宮は外で練習だ。憑依状態で基本の型をマスターしろ」

「ま、俺達は飛べんからな。行くぞ亮」

「剣の腕を磨くとするか……」


 二人が出ていくと同時に京香は板のみとなった寝台に持って来た書類やらを置く。


 何かしらの説明が始まるらしい。だがその前に、こちらから言うことがある。


「詩文!」

「はい」


 返事をした詩文が立ち上がる。


「鳴滝教官。あてを巡航部の活動に参加させてください! お頼申します!」


 頭を下げる詩文に対し、京香はため息をつく。


「貴様が、貴様らがそう言ってくることはわかっていた。私としては絶対に反対なんだがな」

「そこをなんとか! 詩文の戦力は巡航部の安全に直結します!」

「貴様の主張はわかっている。私としても和奏を追い出すつもりはない」

「いいんですか!?」

「部活動だけはな。問題は、明日の作戦に参加するのかだが」

「あては参加したいです!」

「何故だ」

「一緒に戦ってこそ、仲間だと思うからです」


 回答を聞いて、京香は再びため息をつく。


「仲間外れはいやということか」

「詩文は飛べますからね」

「……まぁ、勝手に戦われるよりは、初めから参加させておいた方が管理しやすい。だが、明日の作戦は、参加者の詳細を空軍に提出せねばならん。『和奏』などと、本名を記載するわけにはいかんだろうが」

「適当でよくないですか? 鈴木とか」

「馬鹿か貴様は。公文書偽装だぞ。いや、馬鹿は私も同じか……」

「ご迷惑をおかけします」

「公文書偽装か……? この私が? どうなってる……」


 動揺している鳴滝教官は珍しいと直人は思った。


「あてが入部するときにもっと違う名前を名乗ったことにしたらどうですか?」

「まぁ、そこらへんは、私が考える。私としても、三人より四人で相互支援をした方が、貴様らが安全に戦えるとは思う。和奏。期待しているぞ」

「ほんまおおきにです!」


 詩文が顔を輝かせたのを見て、京香も少しほほ笑んだ。


「では、明日決行の作戦を説明する。昨日来ていた空軍の魔導士は、これを説明に来ていたんだ。だから水無瀬と和奏は、逃げ出す必要などなかったのだ」


 寝台の上に長野県全域と周辺地域が描かれた地図が広げられる。


 そして京香は教鞭を手に話し始めた。


「作戦目的は開闢党の殲滅。攻撃目標は皆神山。ここに開闢党本部がある。明朝、陸軍が空挺を行う。


 将棋の『歩』の駒が三つ、地図の上に置かれた。


「それに先行して爆撃機が二機、御佐機が四機、東から皆神山に向かう。貴様らは浅間山北側でこれと合流し、目標へ向かう」


 浅間山には飛車が置かれた。


「だがこれは囮。爆撃機は敵の迎撃を確認したら即座に離脱。御佐機隊は釣りだした敵機を撃墜し、制空権を確保。この間に空挺部隊は目標へ降下し、地上を制圧する」


 飛車に立ちふさがるように黒い碁石が、飛車の隣には神楽坂予科の校章が置かれた。


「迎撃にはあの番の疾風が出てくるだろう。貴様らの今までの任務は、いわば威力偵察であり、迎撃だった。だが今回は違う。今回は航空撃滅戦であり、敵御佐機の撃墜を以て任務完了となる」


 京香は教鞭で黒い碁石を指す。


「御佐機隊の指揮は山本庄之助少尉が取る。山本少尉が水無瀬に指示を出すから、他の三人は水無瀬の指示に従え」


 四人が頷いたのを見て、京香は話を続ける。


「敵の御佐機が離脱した場合は、深追いは無用。敵の空中戦力がいなくなった時点で対地支援に移行し、味方の損害を減らすように。概要は以上だ。質問はあるか?」

「皆神山の拠点を潰せば、開闢党はなくなるんですか?」

「その他野尻湖にも簡単な拠点が確認されており、この間の二式大艇はそこから飛んできたと思われるが、今や戦力らしいものはない」

「空挺ってなんですか?」

「空中挺身の略だ。パラシュートで飛行機から飛び降りて戦うことを言う」

「空軍の御佐機隊は頼れるんでしょうか」

「正直なところわからない。そこそこはやれるはずだ。空軍の四機でも番の疾風を抑えられると踏んでの作戦決行だろうからな」

「空軍の支援があるんだ。あいつらを倒す絶好のチャンスだな」

「いや支援するのは貴様らの方なんだが……」


 作戦自体小規模であり、複雑なものではない。


 要は敵が迎撃に出てきたところを返り討ちにする。これだけだ。その後は消化試合に過ぎない。


「会議は以上だ。明日は三時に職員室に集合。今日は早く寝るように」


 そう言い残し、京香は去っていった。


「ま、今日は飛行練習はやめておくか」

「そうね。疲れたらよくないし」

「あの、みなもはん……あて気になってることがあんねんけど」

「何かしら」

「みなもはん。あてのこと、会った時に気付いてたんじゃないやろか」

「なに!? みなも、そうなのか?」

「いや、あの、確証はなかったわ。ただ、もしかしてって思っただけで」

「誰かに言ったか?」

「言わないわよ!」

「私も聞いてないし、ほんとだよ」

「やっぱり和奏って名前でピンと来たのか?」

「そうね。あと、実は私、詩文ちゃんと会ったことあるのよ」

「あー、覚えてましたか!」

「詩文も覚えてたのかよ」

「はい。あて正体バレるんじゃないかと思ってドキドキしてました」

「まぁ最初はどこかで見たことあるような。くらいにしか思ってなかったのよ」

「えげつないやん。あてはちゃんと覚えてたのに」

「五年も前なんだし、覚えてる方が凄いと思うわ」

「はぁ、まぁ社格がちゃうねんなぁ」


 ともかく、当座の懸念事項は消えた。


 今日はもう飛ばないのなら、外で健児と亮をしごいてやるか。


 そう思い、直人は部室の外に出た。

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