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13. 大嶽丸

 廃病院の外に出た直人はすぐに早衛を召喚し憑依する。行先は東京神祇会の行われる京橋神社。


 一刻の猶予もない。先ほどの敵は致命傷を負ってないため、すぐさま仲間に連絡し計画を実行に移すだろう。


 そう考えると殴打するなりして気絶させるべきだった気もするが、今更手遅れだ。いささか行き当たりばったり過ぎただろうか。


 そう思うもう一つの理由が京橋神社の場所がわからないことだ。こうなったら高高度で身を隠して奴らが魅乗りで飛び立ったところを追跡する方がいいか。


 だがそれとて確実ではない。見失う、気づかれる可能性がある。


 ……これは、気配か?


 不意に黒鉄を目の前にした時と同じ雰囲気を感じた。いや、感じている事に気付いたと言うべきか。


 魅乗りの気配だ。妖気とでも表現すべきか。


 はっきりとわかる。そして今帝都で姿を現している魅乗りは今宵のテロに関係している可能性が高い。


 ……行ってみるか。距離は遠くない。数分で行ける。


 直人は進路を西に変え、低高度を飛行する。気配の所在はとある神社の林だった。


 みなもから教わったな。鎮守の森と言うんだったか。


 その森の外れに、巨大な影があった。


 あれは……御佐機か。魅乗りが憑依している御佐機。一介の魅乗りの気配を感知するなど初めての経験だが、気配の発生源は多分あれだ。


 一瞬攻撃しようか迷った直人だが、まずはここが京橋神社なのか確かめるのが先だと思い直す。


 悠紀羽神社では鳥居のある正門とも言うべき塀に社銘の書かれた表札が建てられていた。この神社も同様であると期待し、正門前の通りに着陸する。


 突如飛来した御佐機に通行人が驚愕しているが、それは無視して表札を探す。あった。京橋神社。


 まずはついていた。後は事の逼迫をここの人間に伝えるのみ!


 境内を疾走する直人はすぐに拝殿へとたどり着く。が、集会をやっているような気配はない。その奥に本殿があるはずだが、神様を祀る場所で集会はやらないだろうし、おそらくそれほどの広さもない。

 それ以外に巫女舞や能をやる場所や祈祷を行う場所もあるんだろうが、それらも候補としては除外できる。


 直人はそれらのある方向とは逆に走る。となると普通に住居の中か?


 直人がそう考えた矢先、大勢の人が集まっていそうな明かりのついた施設が見えた。それは直会殿なおらいどのであった。


 多分これだな。そう思った直人は施設の前まで走ると、扉を開ける。目の前には両開きの引き戸があり、左には廊下が伸びていた。


 話声が聞こえるし、間違いなくここだろう。


 直人は勢いよく扉を開けると、とにかく注目を集めようと大声を出す。


「おらぁ!」


 扉の端が壁にぶつかる音と謎の侵入者の声に室内の視線が独り占めになる。


「え、ちょっ!」

「あれえ!?」


 みなもと茜の声に直人もその存在を見つける。

 よかった。ここで合っていたらしい。


「早く逃げるぞ!」

「何やってるのよ!」

「え、直人君呼ばれてないよね」

「おい、なんだ君は!」

「関係者以外は立ち入り禁止だぞ!」

「出ていき給え!」

「出ていくのはここの全員だ!」

「何を言ってるんだ!」

「ちょっと直人まずいわよ!」

「まずいのはお前らの方なんだよ!」

「本当に警察を呼ぶぞ!」

「そんなことやってる時間はない!」

「何が目的だ!」

「ここから全員逃がすことだ!」

「私達がなんで逃げるの?」

「それは共産主義者がここに来るから――」


 そこまで言って直人は思い当たる。

 奴らは既に仲間をこの辺りに潜伏させていると言っていた。だったら迂闊にここから逃げ出すと危険なんじゃないか?

 ここに留まるよりはマシかもしれないが、何人かはテロリストと鉢合わせて殺されてしまう可能性もある。


「よし、警察を呼べ!」

「わかった。呼ぼう」

「首都警だぞ。相手は御佐機を持ってる。ただの警察じゃ相手にならん」

「一体君は何がしたいんだ!?」

「直人、首都警は一般人が通報して動くものじゃないわ」

「え、そうなの?」

「共産主義者ってどういうこと?」

「それはだな。革命だかでここにいる神道関係者を殺すって話を聞いたんだ」

「え、本当?」

「だから逃げろって言ってたの?」

「今警察を呼んだからな」

「本当に呼んだのかよ」

「お前が呼べって言ったんだろうが! まぁ警察が来るまで大人しく――」

「何人来るんだ?」

「まぁ数人と言ったところだろう」

「そんなんで役に立つか!」


 警察を見れば警戒して逃げ出すか? いや、そんな甘い連中ではないはずだ。御佐機まで入手しているのだ、警官数人など単なる障害物と見做されるだろう。


 だが武装したテロリスト集団を見た警察が首都警に連絡することはあるのでは? それならば呼んだ意味はある。その場合首都警が来るまでここを守り切る必要があるが、少なくとも戦える人間が俺とみなもと茜の三人いる。さすがに敵の御佐機もせいぜい数機だろうから、現実的な策だと思われる。


 そもそも俺達が御佐機に憑依して外に立っていればテロリストもビビッて計画を中止するかもしれない。


「わかった。俺が外で見張る。みなもと茜も来い」

「え、ちょっと」

「じゃあお父さんに伝えてくるね」

「おい君、逃げるのか!」

「逃げねえよ! 他に御佐機を持っている奴はいないのか!」


 くそっ。俺は一生懸命説明しているのになぜ伝わらない。まぁ下手に伝わってパニックになられるよりはいいのかもしれないが。

 ここは三人で防戦に徹するのが上策だな。


 直人がそう考えていた時、プロペラが空を裂く音、そしてレシプロ発動機の音が聞こえてきた。


「まずい、来やがった!」


 慌てて直会殿なおらいどのを出る直人。その右方に魅乗りの気配を感じる。十数メートル先に巨大な人型。直人は即座に早衛に憑依する。


 いつの間にか雨が降っていた。


 魅乗りはすぐに襲い掛かってはこなかった。その隣に九七式、霊精が着陸する。


「私は大嶽丸。宴には間に合ったようだな」


 中央の一際大きい赤黒い御佐機が名乗りを上げた。


「一目連!」


 背後からみなもが御佐機を召喚する声が聞こえる。


 大嶽丸は当たり前だが魅乗り。霊精も魅乗り。翼端が切り落とされた形状であることが着陸時に見えたことから、もしかしたらあの時の魅乗りかもしれない。だが九七式はグレーの塗装。魅乗りではないのだ。


 魅乗りと人間がつるんでいるということか。先ほどテロリスト達が「妖怪は共産主義と親和性が高い」と言っていたが、本当なのか。


 魅乗りが人間の主義主張に理解を示し、協力するなど俄かには信じがたい話である。しかし目前の九七式は大嶽丸らを味方と認識しているようだ。


「秋葉!」


 後方から茜の声が聞こえる。これで三対三。だがそれは御佐機だけでの話。


 拝殿の方から男女二十名ほどが走ってくる。テロリスト達が来たのだろう。彼らは小銃やら短機関銃やら刀やらを持っていた。


「な、なんだお前達!?」

「きゃぁ! 何よこれ!」


 複数人の驚く声が後ろから聞こえる。


 直人は状況を整理した。

 目前の敵御佐機に夢中になっては他のテロリストを取りこぼす恐れがある。それに九七式は人間。できれば殺したくない。大嶽丸も茜の事があるので殺害は不可。

 これらは戦闘不能に追い込めれば理想だが、殺害禁止の状況では難易度が高い。

 そして、もし霊精が銀座で出くわしたあの『膝落しつらく』の使い手なら、稀なる強敵。他の二機を気にして勝てる相手ではない。


 結局のところ積極的攻勢に出るメリットは無い。防戦一方ということになるだろう。


「隼!」


 不意にテロリストの一人が声を上げる。次の瞬間、そこに隼が出現する。


 まだいたのか。一瞬そう思ったが、驚くべきはその後だった。


 その隼は出現するや否や跳躍すると、味方であるはずの九七式へ太刀を振り下ろし、その首を両断する。


「何!?」


 直人は思わず驚きの声を上げる。その隼は赤黒い色をしていた。

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