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6. 来訪者

「ここにいたか」

「鳴滝教官。どうしたんですか?」

「ドイツ人が来てな、この学校で御佐機を持ってる三人組がいるはずだから出せと言い出した。ドイツ軍関係者だと言われたら無碍に追い返すわけにもいかないし……。多分貴様達だと思うんだが、知り合いにドイツ人はいるか?」

「いないです」


 直人達は首をかしげる。


「そうか? なんでも立川のドイツ軍基地に侵入してきたことがあると言ってるんだが、覚えはあるか」

「ありますね……」

「なんということだ。国際問題だぞ。とにかく来い! やっかいなことにならなければいいが」


 京香に連れられ三人は中庭を歩く。


「ドイツ人は四人。彼女らの要求は以前ドイツ軍立川基地に侵入した三人との決闘だそうだ」

「決闘!」


 面白そうな話だ。ただまだ受けると決まったわけではない。どんな条件かにもよる。


「最初はしらばっくれようかと思ったんだが、ちゃんと調べているようでな。この学校の生徒で間違いないと言って聞かん」

「決闘を受けないとどうなるんです?」

「基地侵入の件を告発するとか……その場合は貴様だけでも退学にして示しをつけるしかないな」

「げぇっ! 俺行くとこないっすよ!」

「教官それは!」

「ドイツが同盟国とは言え領空侵犯は不法行為だ。ただ立証できるのかという疑念はある」

「いずれにせよ、決闘に勝てばいいんですよね」

「決闘で満足するような口ぶりだったがな。寧ろ負けてやった方が穏便かもしれん」


 校舎を通り過ぎて校庭を歩いていると、ドイツからの客人というのはすぐわかった。


 正門前に軍用車と思しき黒い小型車が停まっていて、その前に同い年くらいの少女が二人立っている。


「やっと来ましたね!」


 そこにいたのは本当にドイツ人、少なくとも西洋人だった。金髪に青い目はいかにもドイツ人のイメージだ。ブルーグレーの軍服風の服を着ている。


 髪型はギブソンタックと呼ばれるもので、直人は凄い髪型だなと思った。


「俺と決闘したいんだって?」

「貴方が、この間立川の基地に侵入した一人?」

「そうだ」

「そうですか」


 ドイツ少女は直人を品定めするように見る。


「ところで、ドイツ軍基地に侵入したのは三機。残りの二人は後ろにいる女子二人ってことでいいでしょうか?」

「そうだけど……」


 答えつつ直人はあることに気付いた。


「お前日本語上手いな」

「日本育ちなんだから当たり前でしょう? もちろんドイツ語も喋れますが、貴方がたが理解できませんし。Verstehst du?」

「あー、東北のドイツ人街に住んでるっていうあれか」

「そうです。まぁ私は立川に住んでますけど。ところで……」


 ドイツ少女は前に一歩出ると直人を見上げる。


「私はあの時ジェット御佐機に憑依して迎撃しました。その私を撃墜した人がいるはずなんですが、もしかして、貴方?」

「……あーあれか。あの警告してきたやつ。俺だ」

「ですか。貴方があの時の……」


 ドイツ少女が笑みを浮かべたような、それでいて目は睨んでいるような不可思議な表情をする。


「いいでしょう。私はエリザ。エリザ・シュトレーリッツ。貴方は?」

「水無瀬直人。いや、直人・水無瀬?」

「いいですこと。貴方は私が墜とす!」


 エリザは直人をビシッと指さした。


「あー、シュトレーリッツさん達の主張はわかりました。決闘を受けないというわけではありませんが、今ここでというわけには……。この水無瀬達とご相談のうえ、後日別の場所でというわけにはいきませんか?」

「いきません! わざわざ土曜日に来てやったのです。おとなしく引き下がれなどと、ヤパーナのくせに、生――」

「失礼しました」


 エリザの口を塞ぐようにして、半歩後ろに控えていたメイド服の少女が歩み出た。ドイツ人らしく長身だ。


「我々も好きな時に外出できるわけではないのです。今日は訓練だと申請していますが。故に手ぶらで帰るわけにはいきません。決闘さえすればエリザ様の気も済むでしょうし、お願いします」

「いやそう言われてもな……貴方がたは外国籍の人間でして――」

「だからこそ、こうして日を選んで来ているのです」

「本当に決闘するつもりですか?」

「当然。そのためにわざわざ来てやったのです」


 京香の問いにエリザは光栄に思えとでも言いたげに答えた。


「魔導の誉れと言いたいところだが、当学の生徒ではありませんので。申し訳ありませんが、貴方がたが怪我をされた時に我々は責任を持つことができません。よって今ここで決闘の許可を出すことは――」

「その心配はいりません! 私達の誰が怪我をしようとも、その責任をこの学校には問いません。そもそも私は許可なんて求めていないのですが。とはいえこれはいい保険でしょう?」

「……水無瀬、相手はこう言っているが、決闘を受けるか?」


 京香はため息をつきながら直人に向き直った。


「正直私としては後日どこか遠くで勝手にやってくれても一向に構わないんだが」

「受けましょう」

「貴様私の言葉の意味を理解してるか!?」

「ここで逃げるのは魔導不覚悟。日本男児にあるまじき所業。わかってますよ」

「そうか。貴様は馬鹿なんだな……他の二人は男児ですらないし……」


 何故か教官にバカにされているが、今は決闘に勝つことが最重要課題だ。


「貴様達も、決闘を受けて構わないか?」

「うん! 特訓の成果見せたいしね」

「まぁ、貴方達二人がそう言うなら」


 みなも、茜も承諾するのを聞いて、エリザは満足そうに、そして不敵に笑っていた。


「仕方がない……。弾薬と瑞配みくまりを用意せねばならんな」


 瑞配とは航空機や車両における燃料に相当するものだ。火薬等と同様、工業的に安価に生産できる。


「あれ、そういえば俺この間の決闘で使った弾薬と瑞配の金払ってないな」

「ああ、私との決闘の分は全額私持ちにするよう教官に言ってあるから大丈夫よ」

「みなも!」


 直人は思わずみなもの手を握った。感謝しかない。あの決闘で飯を奢ってもらえることになり、あまつさえ決闘の費用も払っていてくれたとは」


「ちょ、ちょっと!」


 いきなり感謝されて戸惑ったのか、みなもは顔を真っ赤にしている。


「いきなりはびっくりするじゃない……」


 みなもが何やら呟いているが、これは思わぬ障害だ。はっきり言って弾薬瑞配代を払う金はない。そう思いつつ直人がドイツ人組の方を見ると、エリザは何か察したようだった。


「ふーん。そういうことですか。だったら今回の必要経費はこちらがお支払いします」

「お、悪りぃな」

「これで断る理由はなくなりましたね」

「よし。決闘だな」


 直人が審判を京香に頼もうと思った時、エリザの半歩後ろにいたメイド服姿の長身のドイツ人女性が歩み出てきた。


「決闘の件ですが、可能なら四対四を希望します」

「四対四? なんで」


 彼女らの目的はこないだのドイツ軍立川基地上空での意趣返しのはずだ。となれば、三対三が相応しいはずだが。


「我が空軍ではシュバルムが普通なのです」

「シュバルム?」

「四機小隊のことだ」


 直人の呟きに京香が答える。


「まぁ日本ではケッテが基本だと聞いたことがありますし、三対三に譲歩してもいいんですけど、正直遅れてますね」


 ケッテ……というのは三機小隊のことか? だがそうだとするとエリザの発言は少々おかしい。


「日本でも四機小隊が普通だぞ」


 少なくとも早衛部隊ではそうだったし、早衛部隊時代の教官は二機分隊四機小隊が基本単位だと言っていた。


「そうですか? なら話が早いです。四対四でやりましょう」

「そりゃ無理だ。こっちは三人しかいない」

「そこの女性はアポストルを持っていないのですか?」

「アポストル?」

「御佐機の事だ」


 これまた京香が答える。


「じゃあそこの女性というのは?」

「今貴方が喋ってる人です」

「ええ!? この人は教官だぞ?」


 エリザが指さしたのは京香だった。


「日本では学生が学生を教えるのですか?」

「私はもう二十を過ぎている」


 京香は肩をすくめて答えるが、エリザは悪びれる様子もない。


「ふーん。まぁヤパーナの年齢はよくわかりませんね」

「顔の平たいこと」


 挙句三人目のドイツ人少女が何やらバカにしたように呟いた。その少女はハーフアップのロングヘアで、腰まで届く金髪が目を引く。


「しかしだったらアポストルを使えるんですよね? 教官ってことは」

「まぁ持ってはいます。しかし三人とは違って精霊機ファミリアーですし、私は審判をしようと思うのですが」

「ファミリアー? ああ、タイプ・ヌルってやつですね。そういえばこの間も赤黒く塗装された機体が基地の上を飛んでいました」

「ヌル・ファミリアーってあの貧弱なファミリアーでしょう? しかも空冷。装甲も薄くて銃弾しか防がないって。確かにそれじゃあ、私達の相手は難しいかも」


 エリザの発言に続いて、ロングヘアの少女が喋り、二人ともクスリと笑った。


「……霊精はいい機体だ」


 睨んだというわけではない。だが、直人には京香の目の色が変わったように見えた。


「日本人って物好きですね」

「四対四で戦えるならこちらとしても有難いです。お受け頂けますか? 教官殿」


 メイド少女が京香に尋ねる。


「……わかった。しがない一教師だが、ドイツ人のお気に召すなら参加しよう」

「そうこなくては。教官ごと倒しておけば、完全勝利と言えるでしょう」


 エリザは笑みを浮かべる。


「機銃と訓練弾を用意します。しばらくお待ちください」

「わかりました」


 頷いたエリザはメイドを引き連れ歩きつつ、車にもたれていた少年を呼んでいる。


「購買に行く。貴様たちもついてこい」


 一方の直人達は京香を先頭に、一旦校舎へと向かう。


「こうなってしまった以上、少し教育してやろう。私は貴様達の御佐機のおおよその性能を知っている。悠紀羽は私の二番機につけ。玉里は水無瀬の列機に」


 おおよその性能を知っているということは、みなもや茜も俺と同じく入学時に飛行試験を受けたのだろう。


「分隊の理想的な攻撃は、長機が敵機に攻撃を仕掛けた後、間髪入れず列機が回避行動中の敵機に攻撃を仕掛ける事だ。だがこれには経験がいる。だから私が撃ったら悠紀羽も撃つ。私が逃げたら悠紀羽も逃げる。いいな」

「は、はい」

「後方警戒はしなくてもいい。私の事を絶対見失わないようにしろ。もし私を追い越してしまいそうな時は緩上昇して高度を稼げ」

「はい」

「水無瀬。戦闘が始まったら私達は分隊ごとに動く。敵は四対四に拘ったあたり、四機小隊には慣れている。敵の土俵で戦う必要はない」

「はい」

「おそらく敵はまず水無瀬と玉里を狙うだろう。敵は分隊ごとに水無瀬と玉里を挟み込み、交互に仕掛けて来るはずだ。水無瀬と玉里は降下しつつ速度を維持しろ。私が合図したら、降下しつつ弧を描け」

「旋回戦ですか?」

「そうじゃない。速度は失うな。弧を描きながら降下するんだ。敵機との距離に気をつけろ」

「わかりました」

「まぁ敵の機種が分からんことには具体的な指示を出すことはできないが、勝利の女神は戦局を自発的に変えていこうとするものに微笑む、だそうだ。戦局の変化に受動的になるなよ」

「はい!」


 それから三十分ほど経って、模擬空戦の準備が整う。


 購買にいる生徒達がひっぱるリアカーによって七・七ミリ機関銃と弾倉が用意される。


 京香が審判を頼んだ男性教員は事態を把握しているようで、決闘についてとやかくは言わなかった。


「鳴滝殿が戦うのですか? 大人気ありませんな」

「これも教育です」


 二、三言葉を交わすと、男性教員はリアカーへと歩き、無線機のスイッチを入れる。


「武装は八ミリ級機関銃弾のみを使用し、威力は二十ミリ相当として扱う。ドイツ人諸君、問題はないな?」

「ありません」

「全員憑依せよ!」


 審判の声に魔導士達が一斉に憑依する。


「早衛!」

「一目連!」

「秋葉!」

「零精!」

「Bf Kurfurst!」

「Bf Gustav!」

「Fw Anton!」

「Bf Fritz!」


 全八機の御佐機が出揃った。

Tips:瑞配みくまり

 瑞配とは航空機や車両における燃料に相当するもので、海外ではエリクサーなどと呼ばれる。火薬と同様工業的に安価に生産できる。可燃性の液体。

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