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鳴滝京香の御佐機講座6

二号雷電甲型

所属:大日本帝国空軍

魔導士:世良いつき

武装:九九式二〇粍二号機関銃四型

発動機:景星二三型ル(1段2速ターボチャージャー)

速度 加速力 上昇力 横転性 旋回性 機体出力 耐久性

 4  5   4   4   4    4   2


 雷電は日華事変の戦訓から海軍向けに開発された要撃精霊機だ。機体、発動機共に開発は国華重工。

 三九年の四月、市ヶ谷機関は『上昇力』『速度』『機体出力』に重きを置いた要撃精霊機の開発に着手した。一時は零精の後継機とさえ目されたそうだが、様々な不具合の解決に手間取った結果量産開始が初飛行の一年半も後になってしまい、その頃には市ヶ谷も海軍もさしたる期待をかけていなかったようで、比較的少数の生産に留まってしまった。

 しかも海軍の精霊機の中では最も操縦しにくいと言われ、魔導士からの評判も芳しくなかったらしい。

 しかし停戦までに間に合った機体であり、南方や本土における防空戦闘に投入されて戦果を挙げている。

 雷電の特徴はなんといっても関取のような三角形の体型だろう。これは新たに開発した大型発動機を搭載するためマウント部が大きい必要があり、かつ機体出力も確保するためには無暗に腰部を絞らない方が良いと考えられたからだ。

 本機二号甲型はターボチャージャーの重量とバランスを取るために身長が伸ばされており、紫電はおろか疾風よりも背が高い。そのずんぐりとした体型も相まって古今十傑に数えられる名力士『雷電』を彷彿とさせる力強い容姿だ。

 実際のところ機体出力なら疾風すら上回ると言われているが、見た目に反して重量は疾風や紫電よりも軽い。その事実を知ってしまうと防御面については不安になるな。

 主翼は零精同様翼弦の二五パーセントの位置が一直線となるテーパー翼であるが、これは設計チームが零精と同じであることに起因する。

 実は二号甲型は二種類存在し、一号雷電からかなり手を加えた国華によるものと、ターボチャージャーを追加しただけの市ヶ谷機関によるものがある。

 ただ、そもそも二号甲型は開発中のターボチャージャーの実機試験をするうえで、既存の精霊機の中では最もスペースに余裕がありそうという消極的な理由で開発されており、現行の設計を流用できる市ヶ谷側のものが採用されている。なお、どちらもターボチャージャーの位置は右脇腹だ。

 そもそも搭載するターボチャージャー自体の信頼性が非常に低く、評価はあまり高くなかったらしいが、新生空軍においては唯一のターボチャージャー搭載機であり、細々と生産が続けられていた。完成した機体は厚木と大村の御佐機隊にのみ配備されたそうだ。

 本機は重量バランスの悪化により操縦難易度が更に上がっており、雷電全般にも言えることだが、とても新米魔導士が憑依できる御佐機ではなかったらしい。故に古参の魔導士が多い部隊を選んで配備していたらしく、特に本土決戦における本機はかなりの戦果を挙げている。敵対した英米の魔導士も本機のことは高く評価していたらしい。

 私は憑依したことがないからどのくらい操縦が難しいのか知らないのだが、守勢に回った日本軍が必要とする性能を備えていたことは間違いない。

 実は過小評価されていた傑作機なのでは? と思えてしまうな。




P-51D-25 Mustang

所属:GHQ

魔導士:ロジャー・ヒューズ

武装:AN/M2 12.7mm連装機関銃

発動機:V-1650-7(2段2速スーパーチャージャー)

速度 加速力 上昇力 横転性 旋回性 機体出力 耐久性

 4  3   4   5   2    3   4


 今大戦の最優秀精霊機と言われるP-51。そのD―25はその決定版だ。

 頭文字がPなのは、英米の陸軍は精霊機のことをFamiliarではなくPertnerと呼んでいるからだ。

 英米陸軍で使用された本機は抜群の高高度性能を持ち、高度六千メートルを超えた空域では圧倒的な速度と上昇力を誇った。加えて高速域での横転性と旋回性も非常に優秀で、高高度を高速で飛行する本機を日独のレシプロ精霊機で照準することは事実上不可能と思われる。

 無論、弱点もいくつか存在はするが、総合力で本機を上回る精霊機は日米単独講和の時点では存在しないだろう。

 またカタログスペックに現れない本機の強みとして、飛行状態を知るためのジャイロ計器と機関銃の照準器を連動させた、K-14という新型照準器がある。これは自機の機動に合わせて光像を移動させてくれる代物らしい。

 加えて後方警戒用のレーダーも標準装備されていた。こいつは背後に金属性の物体が存在するとランプと音で知らせてくれる装置で、生存性向上に役立ったそうだ。

 因みに本機はイギリス本国の空軍と、アメリカ陸軍航空隊の両方に配備されているそうだが、マスタングという愛称はイギリス空軍だけが使っているらしい。

 連合軍をしてBest of Familiarと称されたこの万能機は、アメリカ独立のため、大英帝国の存続のため、新たなる戦場でも更なる進化と活躍を続けていくだろう。




Ta152H-1

所属:在日ドイツ軍

魔導士:ヘルムート・マイザー

武装: MK10830mm機関銃

発動機:Jumo213E-1(2段3速スーパーチャージャー)

速度 加速力 上昇力 横転性 旋回性 機体出力 耐久性

 4  3   4   4   2    5   5


 傑作Fw190シリーズの最終形態だ。機体名はドイツが生んだ天才、タンク博士のイニシャルが取られている。

 本機の開発コンセプトは『特殊高々度精霊機』であり、その名の通り高高度性能を追求して開発された。そのためFw190シリーズの直系に当たるものの、特性はだいぶ異なるらしい。

 例えば驚異的とさえ言えた横転性能は平凡になり、代わりに苦手としていた旋回性能が上昇しているようだ。

 本機は多段過給機の開発で英米の後塵を拝していたドイツが遂に完成させた究極のレシプロ精霊機となる、はずであった。

 だが、その時には既に高高度戦闘に対するエレガントにして画期的な回答であるジェット発動機が実用化されていた。

 結局のところ、生産の始まった本機の主な任務は地上付近を飛行するMe262の護衛になってしまった。開発時期が遅かったのもあって大規模に量産もされず、目立った戦果は残していない。

 大戦末期には設計図と数基のJumo213E-1が日本に持ち込まれたが、そんなものを量産している余裕は既になく、機体だけが必要数作られて輸入した発動機を搭載したようだ。おそらく魅乗りとの戦いが唯一の実戦経験だろう。

 本機は生み出されたその瞬間から、次世代の御佐機であるMe262の陰に隠れることが宿命づけられていた機体だ。

 そのためか本機の評価は圧倒的なポテンシャルに期待する声と、やはり存在する欠点に着目する声に分かれる。

 そうした議論が尽きないほどに、本機はロマンに溢れているのだ。




諏訪明神

所属:大日本帝国空軍

魔導士:雅楽川泉澄

武装:九九式二〇粍二号機関銃四型

発動機:祓一三型ル(1段2速ターボチャージャー)

速度 加速力 上昇力 横転性 旋回性 機体出力 耐久性

 5  5   4   3   2    4   5


 疾風の発動機をより大出力でターボチャージャー付きのものに変更し、翼面積を増加させた機体で、重心バランスを取るため身長も増している。

 元々は疾風の高高度性能を強化した『疾風改』という名で開発が進められていたが、侵攻用の制空精霊機としては航続距離が短く、単純な空戦性能としては疾風より低下している中途半端な性能として、次期主力精霊機開発計画の中では保険機のような扱いを受けている。

 しかし操縦特性が疾風と似通っており、更なる装甲化により生存性が高いなど式神用の機体として特に将校の間で人気が高い。

 有名な運用例として、鷹司謙信の護衛部隊に本機と同一設計の式神が八機集中配備されていた。

 次世代の制空精霊機としてはもう少し航続距離が欲しいという声と、防空用の精霊機としては妥当という声が両立しており、次期主力精霊機として採用の可能性を持つ優れた機体だ。




試製天斬

所属:大日本帝国空軍

魔導士:松原礼侍

武装:五式三十粍機関銃

発動機:祓一三型ル(1段2速ターボチャージャー)

速度 加速力 上昇力 横転性 旋回性 機体出力 耐久性

 4  3   4   3   2    6   4


 疾風を一回り大きくしたような見た目の大型精霊機だ。高高度性能と航続距離に重きを置いて開発された。

 疾風のターボチャージャー搭載型『疾風改』との比較では最後まで評価が割れたらしいが、大型である方がターボチャージャーの搭載には有利であり、日本が苦手としていた高高度性能の確保を第一とする方針で本機が次期制空精霊機の本命となったそうだ。

 本機は試作機である式神から量産仕様である精霊機にグレードダウンした時点でいくつかの問題、とくに過給機周りの不具合が発生しており、未解決のものも存在したが、本土決戦勃発により増加試作型(先行量産型)として数十機が生産された。

 最新鋭機たる本機は精鋭魔道士に優先して割り当てられ、その全てが高高度飛行船『ハイトクライマー』所属機となった。

 初陣にして唯一の戦闘経験においてはハイトクライマーから出撃し、優位高度から敵機に襲いかかり、その長大な航続時間による綿密な直掩により航空優勢確保の立役者となった。その後生き残りと思しき機体は発見されていない。




八岐大蛇

所属:大日本帝国空軍

魔導士:安倍晴明

武装:五式三十粍二号機関銃

発動機:奉四二型(遠心式2段3速スーパーチャージャー)×2

速度 加速力 上昇力 横転性 旋回性 機体出力 耐久性

 6  6   6    5   2   5   5


 日本の魔導技術と航空技術の結晶にして極地。量産不可能な超高級設計の御佐機だ。

 設計およびカタログスペックは鷹司謙信の式神『天照』と同一であり、謙信が行った改良の集大成を、邪神八岐大蛇を用いて手に入れている。

 極めて大型な御佐機であり、発動機を二台串型に配置し、八翅の二重反転プロペラを備えている。アスペクト比の小さい主翼は前縁が一直線であり、ともすると前進翼のような印象を受ける。

 これは主翼を大きくすると剛性を高める必要が生じ、桁を強化すると更に重量が増すという悪循環を避けるためであるが、翼面荷重が高くなりすぎるため肩部にも小さい後退翼を搭載している。最強の御佐機が複葉機になったというのは興味深いな。

 前進翼に近い特性と機体重量、更には速度も相まって操縦は極めて難しく、神と一体化している謙信にしか乗りこなせないと言われていたが、清明は稀代の才能で使いこなしているようだ。

 本機の特徴にして唯一の弱点が発動機カウルの上側を覆うように備えられた大きなエアインテークだ。空冷星形発動機は通常その前面を気流に当てることで冷却を図るが、本機の場合後方の発動機は直接気流に当てることができない。

 謙信の度重なる試験飛行と技術者の試行錯誤は、前方の発動機は通常と同様に冷却し、後方の発動機はエアインテークによって導かれた気流によって冷却するという構造を最適解としたらしい。

 そのため、本機は発動機カウルに被弾すると後方の発動機の冷却効率が落ち、通常の損傷以上に出力が低下、最悪の場合オーバーヒートする。

 滅せぬもののあるべきや。同一の性能を持つ式神に憑依し、清明を上回る力量を誇った鷹司謙信ですら撃墜されたのだ。攻略法は必ず存在する。




禍津日神

所属:神楽坂魔導士予科学校

魔導士:水無瀬直人

武装:五式三十粍機関銃

発動機:祓一二型ル(1段2速ターボチャージャー)+液体燃料補助ロケット×2

速度 加速力 上昇力 横転性 旋回性 機体出力 耐久性

 6  6   6   4   2    5   5


 早衛の腰部に液体燃料補助ロケットを二つ取り付けた御佐機だ。ロケットは液体燃料のある限り消火と再点火が可能となっている。

 ロケットの燃焼時間は十分であり、補助ロケット使用時のみ他の御佐機の追従を許さない爆発的な加速力と上昇力を発揮する。

 この補助ロケットはパージ可能であり、燃料を使い切った後にデッドウェイトになることはない。勿論、その後の機体性能は早衛に準ずるが、瑞配タンクを撤去して代わりに液体燃料を搭載しているため、航続距離は大幅に低下している。

 一段二速のターボチャージャーに大気密度の影響を受けないロケットブースタを加え高高度では無敵の性能を発揮するが、本機最大の強みは機体性能よりも魔導士と式神の一体化にある。

 最終的に意識と人格を式神に乗っ取られる程の人機一体は、人間では不可能な第六感レベルの反応速度をもたらす。そこらのベテラン魔導士ですらルーキーに見えることだろう。

 機体性能+無明の領域により隔絶たる戦闘能力を発揮するが、魔導士は出撃と同時に未帰還が確定する。力の代償もまた大きいということだ。

ここまでお読みいただいた方、ありがとうございました。

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