第6話
大分遅れてしまいましたね、ごめんなさい。
最近少し忙しかったもので。(言い訳)
ところで、貴方は自分の運がいいと思いますか?
……僕はそうは思わないです。
運が悪いと、ほんとにこの先の人生で損しまくる。
そんな感じがしました。
………あ、この前書きはただの雑談です。ご了承ください。
ガラガラガラガラ、ガシャガシャガシャ…と、車輪やレギンスを鳴らして走る牛車一行とは対照的にスケルトンアサシンの方は音もなく疾駆して俺達を追いかけている。(気がする)
段々と霧が濃くなり、今ではすぐ隣を並走してるはずの牛車でさえシルエットしか見えなくなった。敵がどこにいるのかもわからない状況だが、今は走るしかない。
(……とは思ったものの、なーんか後ろから襲ってくる気がするんだよなあ…)
さっきっから勘が警鐘を鳴らしている。
(…こういう時の勘は大体当たるからな…ゲームの中でもそうだった)
『ゲームの時もそうだった』と涼太は心の中でつぶやいたが、実際は生前やっていたゲームのなかで涼太の勘は培われたのだ。相手がどんなことを仕掛け、そのために向こうはどこに移動したりなにを求めているのか、などなど、一瞬の施行にも似たような「勘」が涼太の強さの源でもあった。ところで、当たり前のことだが弓使いと剣士とでは生き残るために求められる鍬柄宇が大分違う。弓使いの場合、どのタイミングでどの箇所に矢を当てるかが重要であり、そしてそれを実行するためにどのように自分は立ちまわればいいのか、あるいは相手がどのように行動するかの予測も次いで必要なスキルである。今のところ、異世界に転生してから涼太が生き残ってられているのは後者のスキルに(自然と)頼っているから。はっきり言って剣の才能は凡人並。いつも戦闘時は剣士としての自分が持つべき間合いと、ゲームの時のアーチャーとの間合いがごっちゃ混ぜになって、変な距離で剣を振り回している、はたから見たら「THE初心者」って感じで頑張っている。
…まあ、だからこのときに、「後ろから襲ってくるだろうな」と勘が告げたとき、涼太はリネアに向かって叫んだ。
「リネアー!お前の斧を後ろに投げて、俺が相手する!」
「ん?・・・おっけー、任せた!」
この濃い霧でもわかるほど大きく、重量のある鉄の塊が宙を舞った。
「サンキュー!」
ハルバートの落下地点を予測し、そこまで移動する。地面に刺さったハルバートを抜き取り、無茶苦茶重いそれを何とか担いで構える。
(この世界では、自分の天職に合わない武器を持つと著しく重くなる。それこそ、軽いはずの弓を持った腕が地面に吸い寄せられるほどだ。…だけど、今は持てるだけで充分だ)
牛車は既に霧の彼方、自分の周り360°全てが濃霧である。霧の中で孤立しているように見えるが、涼太は焦らない。
(前からはさすがに来ないだろう。こっちから姿が見えてなくて、向こうはこっちの居場所が見えている。敵はアサシンといったか、だったらはぐれた俺から狙うのが定石だろう。
そして暗殺者の名前を冠しているのなら、来るのは…)
足腰の力を入れなおし、腰をひねり、
(……後ろからだ!)
全力の振り向きざまに手にしていた重斧を薙ぐ。…というより振り回すといった方が正しいか。モーメントの法則に従って先端部分に最高の威力を秘めた重斧はドンピシャなタイミングで現れたアサシンの顔に衝突、アサシンは霧の彼方へ骨のかけらをまき散らしながら飛んで行った。
「ふー、タイミングピッタリ。さて、リネア達を追いかけますか。…………って、重すぎだろこの斧。さっきよく俺こんなの振れたな!?」
立ち止まって振り回しただけとはいえ、もともと重いこの武器を扱えたのは涼太の力ともいえる。が、持って運ぶまでのことはできないようだ。
ふーんっ、うーんっ!と引っ張ってもわずかに地面を引きずるだけだった。
「やべ、迎え撃ってからのことなんにも考えてなかった。……それは後で反省するとして、どうしよ、これ」
途方に暮れかけたその時、
「おーーーい!リョーーターーーー?どこにいるのーーー?」
リネアの声が霧の中で響き渡った。ほどなくして人型のシルエットが霧に浮かび、足音も近づいてきて、
「あ、いたいた。その様子だと敵は倒したみたいだね、おつかれ様!」
「いやー、一度吹き飛ばしただけだよ。まあ、これ借りたおかげで大分吹き飛ばせたとおもうけど」
「吹き飛ばすためだけに、重いの承知で私のかしてっていったのかー…流石リョータ、ソルジャーがハルバートを振るだなんて馬鹿げた発想、君にしか思いつかないよ!」
「あぁ、ありがとう…まあ、今地味に俺がディスられたのは置いとくけど、商人さんたちはどこ行った?」
「もうここ抜けて今頃街に到着してるよ。スカルロードの出口と目的地は近いからね、もう護衛は必要ないと思って先に行っててくれって言っておいたよ」
「なるほどね……んじゃ、俺らもあとを追いかけますか。しかしこんな、男の俺でも持てないような物持って戦えるなお前。ほんとに女か?」
「なっ、失礼だな君はー!?私は女だよ!?それに、ウォーリアーでもないのにハルバート持って戦おうとする君こそアホだーー!」
「……わり、さっきの発言は撤回するよ」
「随分あっさり認めたね?」
「まぁ、女の人に『女じゃない』というのは失礼ってこと思い出したからな。それより…」
一仕事終えた途端、彼らは談笑しながら牛車の後を追った。