第4話
俺がこの街に入ってから丁度2ヶ月経った日。春らしい温かさはどこへやら、その朝はとても肌寒かった。そして寒さが故か、布団の中の温もりから抜け出せずにいた涼太は1時間ほど出よう出まいと自問自答を繰り返した後、午前6時頃にやっとベットからでた。
「うーーんっと、やっぱさみぃ……上着どこいった上着……」
寝ぼけた頭のまま、見つけた上着を着て外に出る。伸びをしながら自宅(ただの小屋)を出て裏に回り、井戸で水をバケツ樽一杯に充たして家(ただのボロ屋)に戻る。1度洗顔し、キッチンの棚から食材を探して調理し始める。魔法の類の便利なものが俺には使えないので火打石で火種を作り、藁に引火させる。やがて薪も燃えるような炎にしてから炎の上に油を敷いた鉄板をおき、その上に食材をのせて焼く。日本の、焼肉の鉄板焼きで使うような鉄板をフライパン代わりにサササと調理し、今日の朝食を完成させた。
「ま、自炊してた時期があったとはいえ、あんまりいいのは出来ないからな…あいつにも微妙って言われちまったし、これからも頑張るしかないんだよなぁ……」
なんかの肉と焦げ目のついたキャベツがわさっと盛られた皿と、串に刺して焼いた魚がテーブルの上で湯気を立てている。
「いただきます」
特別美味いわけじゃないけど、不味くはないから黙々と食べる。
モグモグ、シャキシャキシャキ……
小さな咀嚼音ですら大きく聞こえるほど、家の中は静かだ。
「ごちそうさまでした」
十数分でたいらげ、食器を井戸水で洗ってから支度をし、外に出た。
ギルドまで自宅から歩いて15分程。その距離を涼太はてくてくと無言で歩いて通っている。
やっぱり役所のような雰囲気を漂わせるギルドの中にある、依頼書が沢山はられたクエストボードから1枚、適当な物を見繕って受付にいたアルトさんに差し出す。
「依頼の受注、了解しました。しかし…いつもレベル1にとって少し難度の高い依頼を受注しますけど、何度も言いますが無理して死ぬのはやめてくださいよ?」
「わかってますって。でも、早くお金を稼ぐ手段はこれぐらいしか無いと思ってますからやめろと言われてもやめられないですね…自分のステータスは早めに正確に把握しておきたいので」
「でも、もう一度言いますけれど、本当に何も無いのかもしれませんよ、そのスキル欄」
「まぁ、だとしてもやっぱり気になってしまうんですよ、性格的に」
「その答えを聞くのも2回目ですね…あ、この依頼の達成で目標金額に達しますよ。えーと、内容は……スカルロードを通る商人達の護衛ですか。なんでわざわざ商人にとって危険な場所を通るんですかね?」
「さぁ…?でも、ただの護衛にしては報奨金が高かったのはやっぱり危険な場所を通るからか。となると急いでいるんじゃないですかね、この人達」
「そうかもしれませんね」
「…ところで、このスカルロードってなんですか?」
「えーと、スカルロードと言うのはですね…………あ、あそこにいる貴方の友人に聞いてみたほうがいいんじゃないですか?」
「え?」
アルトさんが指さす方を振り向くと、壁によりかかっていた人も俺に気がつき、顔を輝かせて手を振る。ドドドドと効果音を鳴らして走ってきたその人は俺の目の前でキキーッとブレーキをかけ、
「よっ、へたくそ剣士君」
「その呼び方やめてくれないかなー?…まぁ、下手なのは自分でも認めてるけど」
苦笑する俺の言葉にニカッと愛想の良い笑顔で返すこの人はリネアと言う。生前は友達なんてほとんど居なかったこの俺に出来た1人目の異世界の友人で、人懐っこさと親しみやすさが全身から溢れる元気な女の人である。
「依頼の受注は完了しましたので、どうぞ行ってらっしゃいませ。今日もあなたに幸運を」
気を使ってアルトさんがそう言ってくれる。一礼して歩き出した俺に、リネアが尋ねる。
「で、今日はどんな依頼を受けたのー?」
「なんかスカルロードって場所を商人が通るからそれを護衛しろって」
「ほぇー、なんでまたあんなところを……あ、リョータはスカルロード知らないでしょ」
「それ今聞こうと思った」
「えーと、スカルロードって言うのはね…………」
それから話しながら、2人は依頼人の待つ場所まで歩いた。
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