第3話
4人の白衣集団に連れ去られ、病院のような場所で治療を受けて20分、俺の体は完治した。診察を受けて初めてわかったけど、俺のあばら骨が1本折れていたらしい。あのイノシシ共の突進に体が耐えられなかったのだろう…ほんとに凄い勢いで突進してきたな、あのイノシシ共。今度会ったら絶対にあの突進を食らわないようにしよう。………あ、イノシシで思い出した。
肉と言えば、街の外で倒したイノシシの肉はここに来る時に腐ってしまった。おかげでバックパックの中が臭くなってしまい、臭いが移った中身ごと捨てる羽目になった。(辞書は無事だったので今は手に持っているが)それから、今まで着ていたパーカーなどの現代服はやぶれや血のしみなどで大分汚れたから病院の方で捨ててもらう事にした。今来ているのは白い半袖Tシャツに黒い長ズボンである。簡素なものではあるが今は贅沢を言えない、むしろ新しい服を貰っただけありがたいものだ。
少し気になったのは、医療費を請求されなかったことだ。無一文の俺にとってはありがたいことだけど………まぁ、後でお金は返すか。後でつってもいつになるか分からないけど。
さて、イノシシの皮と辞書を手に持って歩いている俺はギルドに向かっている。場所はさっき病院で聞いてきたのでわかる。そこに行けばステータスカードの更新やこの街の地図を貰えるとのことなので行くことにした。
しかし、ここでは常識であるはずのステータスカードの更新の方法を知らないことを訝しまれずに済んだのは俺が出稼ぎ人ということになっているからだと思う。ほんっとに辞書をなんとなく見てた俺ナイスプレー、そして辞書に感謝。これからは自分の無知を出稼ぎ人という肩書きで全て何とかできる。
時刻は昼過ぎ、大体2時ってところだろう。太陽がだんだん傾きつつある。
俺の異世界生活は始まったばかりだ。
「……なんか思ってたよりちゃんとした造りの建物だなぁー…」
ギルドに着いた。白と灰色に塗られた煉瓦で出来た建物は想像以上に大きかった。「木製の建物で、酒場のような雰囲気の建物がギルド」という固定概念があった俺は半ばぼんやりとしていたまま入口のドアを開けて中に入る。
「おー……」
外見と違わず、中は広かった。そして人も多かった。槍やら斧、盾などの武器を背負ってる人が大半だが市民のような格好の人もいる。子連れだっていた。
視点を変えると、窓口で明らかにヒマそうにしている受付嬢もいれば複数の人に押しかけられてオロオロしている受付嬢もいる。
「なんか、賑やかな役所、って感じの雰囲気だな」
涼太がそうこぼした感想はあながち間違いではなかった。
案内板を見つけ、目当ての場所を探して示された場所に向かう。
「こんにちは。本日はどんなご用で?」
窓口に立っていた男の人にそう言われ、ポケットの中からステータスカードを引っ張り出す。
「ステータスカードの更新をしたいのですが…」
「はい、ではこちらの水晶にカードを乗せてください」
そう言って男の人は黒い球体を取り出した。丁度カードがはまりそうなくぼみがある。言われるがままにカードを乗せてみた。
十数秒経った時、カードを外しながら男の人は眉を少しひそめた。
「えーと、リョータ様?もしかして、街の外から来られたのは貴方ですか?」
「はい、そうですけど」
なんで知ってるんだよ、という疑問は取り敢えず引っ込めておく。
「やっぱりですか、先程医療所の方から連絡が来てましたので伺わさせて頂きました。ようこそ、ここフローリアへ。もしも何か困った時があれば、私アルトが力になります」
そう言ってアルトさんは俺のステータスカードに何が印鑑のようなものを押した。跡には、外の壁の門の上に書かれていた、この街の紋章のようなマークが彫られていた。
「アルトさんですね、よろしくお願いします」
その後、ずっと手に持っていたイノシシの皮を買い取ってもらった。手に戻ったのは銀貨30枚。価値がわからないので後で辞書で調べよう。
さて、今の俺のステータスはこんな感じ。
名前:ヤノ・リョータ
性別:男
年齢:
レベル:1
天職:ソルジャー
状態:(なし)
スキル:
備考:フローリアの住人、一般市民。
まぁ、ステータスカードとは言うけど、ゲームのように筋力値とか敏捷値とかが書かれてる訳では無いみたいだ。どちらかと言うと身分証明書のようである。ただ、そんな身分証明書に状態欄があるのはよく分からないけど…まぁいい、それよりもっと分からないのがスキル欄だ。状態欄にはちゃんと「(無し)」と書かれているのにスキル欄には何も書いてないのだろうか。アルトさんにも聞いてみたが分からないと答えられてしまった。ただ、もしかすると中央都に行けば分かるかもしれないとのこと。そこで街1番の鑑定士に見てもらえば分かるとのことだが………依頼料がバカにならないのだそう。仕方ない、依頼だのなんだのこなしてお金稼ぐか。あぁでもその前に家みたいな活動拠点をちゃんとしておかないと。それと食費とか、あ、ここでは日本での食べ物の知識が通用しないかもしれない。どれくらい稼げてどのくらい払えば腹いっぱい食べれてどれだけ手元に残るのか、ちゃんと計算しとかないと………料理はできる、日本にいた時は自炊がほとんどだったから心配ない、だけど食材とかどうにかしないとな…あ、今腹鳴りやがった、取り敢えずなんか食わねえと……あぁ、やるべき事が多すぎる………この先やってけるかどうか心配だわ…………
異世界生活初日、早速疑問と心配事が俺の頭を悩ませにかかってきている。ここでしくじると後でとんでもないことになる。ゲームで培われた俺の勘がそう言ってる、早くなんとかしないと…