第二話
やっぱり、見えていた白亜の壁は街の物で間違いないだろう。関所のような、検問所のような施設が鉄製の門の前にみえる。最後の力を振り絞って…というのは大げさだけど、大分弱ってきた自分の体をノロノロと動かす。
「止まってください。カードの提出をお願いしまs…って、大丈夫ですか?」
門番であろう女の人に声をかけられて、そして心配された。無理もない、多分今の俺の体は血まみれで傷だらけ、満身創痍って言葉を体現したかのようである。そりゃあ心配の1つはされるだろう。
「あー…うん、正直痛いですね」
「何があったんですか?」
「なんか、イノシシみたいなのに襲われて」
そこで「しまった!」と俺は心の中で後悔する。イノシシなんていってもこの世界にイノシシがいるはずがない。だからわかるはずがないと思ったが…
「それは災難でしたね……」
そこまで言って、門番さんは手元で球を作って破裂させた。魔法かなにかだろう。
「…いま治癒師を呼びましたので、来るまでにステータスカードの確認をしてしまいましょう」
そう言って手のひらを向けてきた。
(……あれ?イノシシで通じてる?)
不思議に思いながらも、銀色に光る板を門番さんに渡す。
「拝見しますね~」
待ってる間暇なので、なんとなしに辞書を開く。パラパラパラーとテキトーにめくってテキトーな場所で広げて読んでみる。
『出稼ぎ人:街の外に住居を構えて暮らしていた人がお金を儲けるために付近の街に出て働く人のことを指す。安全ではない街の外で暮らす人たちのほとんどは頑強な体の持ち主であり、街で重宝されることが多い』
(なんでこんなことが書いてあるんだ?)
「えーと、リョータさん?」
門番さんに呼ばれ、辞書を閉じて答える。
「はい、なんでしょう?」
「見たところ、貴方はここから出て戻ってきた人ではないようですが…どこから来られました?」
素性を問うような質問に一瞬たじろいだが、とっさにこう言う。
「場所はこっちの都合上言えないですけど、出身地は壁の外です。今日からこの街で働きます」
自分は街の外から来た出稼ぎ人だということを暗に告げると、門番の人は納得した顔で、
「なるほどそういうことでしたか…それでその道中にイノシシに襲われたんですね…レベル1のステータスを一度も更新してない状態でよく生き残りましたね、さすが出稼ぎ人といったところですか…」
「え…?あぁ、ありがとうございます」
思わぬ誉め言葉が返ってきたので照れ隠しをしながらお礼を言った俺だが、心の中では、
(あっぶねぇぇ!!さっき辞書読んどいてよかったああああ!ここで答えられなかったら怪しまれるもんな、街に入る建前ができてよかった…)
と、冷や汗をこれでもかと言うくらい噴き出していた。
ほどなくして、白衣を着た4人の集団が門を開けてきた。
「お勤めご苦労様です。けが人はこの人です」
門番さんがそういうと、白衣集団の先頭にいた、口元を白い布で隠している人が黙ってうなずいた。そして「こっちこい」というように手招きされたので招かれるままに付いていく。そうしたら門番さんに声をかけられた。
「リョータさーん!」
「はい、なんでしょー?」
振り向くと、門番さんが笑顔で、
「ようこそ、フローリアへ!あなたの人生が豊かになりますよう!」
そう言われたので手を振って返した。
次の更新、遅れると思います。