第一話
弓が使えないことをどうするかは後で考えるとして、今やるべきことは地図に沿って近くの街まで行くことと定めた俺は走って町に向かっている。異世界に転生したレベル1の俺ははっきり言って魔物の格好の餌である。(魔物いるかどうかわからないけど)なのでせめて、今から体力をつけるようにしようと決めたので、手始めに町まで走っていくことにした。剣士は弓兵に比べて必要な体力が多いと踏んでの発想でもある。
「それにしても、(ハァ、ハァ)遠いな……(ハァ、ハァ)地図みたから方角は(ハァ、ハァ)合ってると思う、けど…」
生前は特にランニングなどはしていなかった俺の体力は貧弱、走ればすぐに意気が上がってしまう。5分ほど走れば休憩、また5分程走って休憩、の繰り返し。これ、いつになったら街に着くんだ?
走っては休憩、のサイクルを何度したかわからなくなってきたころ、5頭のイノシシがこっちに向かって突進してきた。それも殺意をむき出しにして、だ。まあ、イノシシつっても、体高は俺の首の下くらいまであるが。
「やっぱり魔物的な存在はいるのね…よーし、初めての剣士としての戦闘だ、気張っていこう!」
自分自身を鼓舞し、一本だけ剣を抜く。他の4頭より大分先行していたイノシシの正面に立って構え、引き付けて、引き付けて…
「やぁッ!」
イノシシがぶつかる寸前で半身ずらし、脇腹に剣を突き立てる。イノシシは絶命したが、突進してきた勢いに逆らって踏ん張ることができずに体を後ろに持っていかれ、一本だけポツンと立っていた木にぶつかることでやっとその勢いを止めた。
「いてててて……どんだけ走るの速いのこいつ。…あれ、剣が引っこ抜けねぇ。まあいいや、もう一本で何とかすrいでっ!?」
後から来た4頭のイノシシが次々に涼太を吹っ飛ばしていく。レベル1の涼太に当然耐えられるようなHPはなく、死ぬ寸前まで追い込まれた。涼太の視界が霞み、体中のあちこちから悲鳴が聞こえる。
「いってえ…ゲームで食らうダメージより断然こっちの方が痛いわ。だからこそ嫌というほどこの世界が現実なんだと思い知らされるなぁ」
再びこちらに向かってくるイノシシ達を睥睨してそうつぶやく。
「アーチャーとして転生できなかったのは嫌だけど、剣の一刺しで死ぬような雑魚にやられるのはもっと嫌だ」
痛むからだを無理やり起こして、もう一本の剣を引き抜く。
「さあ来い!!お前らは俺のこれからの人生の糧にしてやる」
啖呵を切ってから1時間後、ようやく残りの4頭を倒した。
「(ぜえ、ぜえ、ぜえ…)やっと倒したぞオラぁ……なんか皮やら肉やら落ちてるけど、戦利品ってことでいいのかな。なら肉は後で焼いて食うか」
痛むからだを引きずりながら、戦利品の回収を進める。
「戦闘したからレベルアップとかしてるのか?ちょっと見てみるか」
戦闘前と比べて、銀色のステータスカードに書かれているパラメーターに何の変化もなかった。
「レベル1だからな、経験値はたまっているはずだけど…まだレベルアップするのに経験値が足りないとか?」
ポケットの中にステータスカードをしまう。途端に激痛が走る。
「いぃってぇ…ダメだ、俺の体死にかけてる。この状態で戦闘なんかしたら今度こそ生きていられるかわからねぇ、早くいかないと」
まともに動いてくれない足を無理矢理前に動かして歩き出す。
いつの間にか大分進んだのか、街の物と思われる白い壁が見えてきた。