プロローグ 後編
『転生、したいですか?』 『はい』 『いいえ』
涼太はしばらくそれらの文字を見つめていた。
(…転生だって?なにそれファンタジーな感じ。ラノベみたいな展開じゃねーか)
頭では小バカにしつつも、心は少しづつテンションが上がっていた。
(……でも、もしここで『はい』を選んで本当に第二の人生が始まるのだとしたら、俺はどんな人生を歩むのだろうか)
目の前に広がる、寂しさを感じさせていた黒闇が、舞台が始まる前の期待を膨らませる薄闇に変わった。それと同時に生前の嫌な記憶がどんどん蘇る。涼太の中で不安と期待、悲しさと期待が一瞬だけ入り混じる。
(………まあいいや。どんなことになろうと、俺は自分の信じたいものを信じるだけだ。今までで出来なかった、自分の自由にしたいことを目一杯するんだ)
入り混じったが、自分の中で決意を固めて『はい』を押す。
一瞬体が浮遊感に包まれ、ふっと意識を失った。
二度目の覚醒。目を開くとそこは一面の草原。
穏やかに風が吹き、まぶしさを感じる太陽の光は優しく地上に降り注ぎ、それらを受けて青々とした草がゆらりゆらりと揺れる。頭上には蒼穹が広がっていて、点々と真っ白な雲が浮かんでいる。遠くには山も見える。頂きに雪をかぶった、アルプスの霊峰のような荘厳さを感じさせる山である。
思わず「おぉ…」と言葉をこぼしそうになる自然の風景を見て、
「…本当に、俺転生したんだな…」
涼太は感慨深くそうつぶやいた。
「さて、まずは荷物の確認かな」
足元に置かれてあったバックパックの中身を物色し始める。
「えーと、なになに、水の入った革袋が二つとパンっぽいものが五つ、地図らしき紙があって……なんで籠手が左手のだけあるんだ?まあいいや、とりあえず着けるだけ着けるか」
何の装飾の施されていない革製の籠手を左手に着けた。そして自分の身に着けているものを確認する。…確認するといっても、死ぬ直前と変わらないパーカーなどの日本の服を今も身に着けているだけで特に大差はなかった。
腰にぶら下げた「二本の短剣」以外は。
「…あれ?なんで弓じゃねえんだ?なんで剣?おい、弓はどこだ弓は」
短剣をぶんぶん振ったり投げたり、柄尻同士をくっつけてみたりしたが、二本の剣は弓に変わらなかった。(当たり前だ)
「…………まぁ、転生するときにアーチャーとして転生します、なんて言ってなかったし頼んでもいなかったけど…それでも剣、かぁ……俺一番剣苦手なんだよなぁ…」
本当に転生できた喜びは消え失せ、代わりに初っ端から県を持たせれたことに対する失望感の方が大きくなる。
「まぁいいか、ここから近くの町までそう遠くないみたいだし、そこで弓を買えばいいか。…ん?なんかポケットの中に…」
ポケットの中に違和感を感じ、手を突っ込んで引っ張り出してみると銀色のカードが出てきた。
「何々…ステータスカード、ですか。俺の名前とステータス書いてあんな…性別、年齢、諸々書いてあるな…スキルは…ま、当然だけどなしか。レベルは当然1っと」
一通り見まわして、最後に名前の隣にあった欄を見る。
『天職:ソルジャー』
「なんだよ天職ソルジャーって。…ん?「天職」?「職業」とか「クラス」とかじゃなくて「天職」?ちょっと調べてみるか」
バックパックに入っていた、この世界の言葉のための辞書を引いてみる。
「天職、天職、天職……あった。何々…はぁ!?」
説明を読んで驚愕する俺。そこにはこう書いてあった。
『天職:神から与えられた役職のこと。18歳を超えた人ならだれもが持っているもので、一度定められたら変えることはできない』
その説明が信じられず、
「え…勝手に決められた挙句変えられないってどういうことだよ…おれはやらないよ?剣士なんてやらないよ!?あんな脳筋が扱う武器なんて俺には無理だから使わないよ!?」
生前やっていたゲームで培われた剣士への偏見からなる涼太の考えを暴発させる。
「………もう死にたくなってきたわ…剣士とか、ほんとにムリでしかない…」
興味半分で剣を使い始めたときのトラウマが蘇る。愚痴をつぶやいて、へなへなと背中から倒れこむ。その時に手で握っていたステータスカードのスキル欄に、あぶりだされた時のような色の文字が浮かび上がってきたのを、涼太は気が付かなかった。
やっと、プロローグ終わりです。
これからよろしくお願いします。