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霊能者 結月  作者: しろ
1/1

その1

初めて書きます。

不慣れですが楽しんでいただければ嬉しいです!

ご意見や感想も戴ければ嬉しいです!

ではどーぞ!


彼女がいつものように寝室で目を覚ますと、あたりはすでに静かで、閉め切ったカーテンの隙間から差し込む日光の強さからも、もう昼前であることを察することができた。

ベットの上で体を起こすと、埃がうっすらかかった目覚し時計やランドセルを見つめながら、いつから私は今の自分の置かれている状況に諦めがついたのだろうと彼女はふと思った。

彼女が置かれている状況というのは、まさにのっぴきならない状況ではあったが読者諸君にそれらを理解して貰う為のうまい言葉が見つからないので、回りくどいようだがこの話を読んでいただくなかで理解していただきたい。また彼女自身も、筆者同様に周囲の人達にそのことを伝えることができずに悩んでいた。というのも、簡単に言い表すと霊的、或いは超常現象的な、ともかくこの世のものではないと思える奇々怪々な出来事が今彼女の身には起こっていた。

彼女はベッドから降りると部屋の戸の方に歩いていった。4畳半くらいの狭い部屋ではあったが現在小学5年生の彼女にとっては自分一人の部屋ということもあり、まさに自分だけの世界といったところだった。だが、今の彼女にはこの部屋が監獄のように感じられたし実際に戸の前においてあるすっかり冷めきってしまった朝食なんかはまさに獄中のそれを思わせた。

毎朝用意させてお母さんごめんなさいと彼女は思ったが、日に日に明らかに手抜きになっている朝食の内容に、彼女は虚しさを覚えないでもなかった。プラスチック製のプレートに乗ったトーストをかじるとすっかり常温に戻ったオレンジジュースで喉を潤す。食べながら彼女はドアノブを見て今日は外に出られるだろうかと考えた。彼女は引き籠もりであった。ただし、ごく一般的な精神的な要因からなる引き籠もりでは無く、かと言って彼女に肉体的に他人より劣る面があったわけでもなかった。むしろ以前の彼女は明るく活発な性格だった。肩にかからないくらいに切りそろえた黒髪は休み時間に校庭を駆け回る彼女によくマッチしていた。クラスでも人気のお調子者といった程なので、それこそ自宅に引き籠ってしまったという知らせを受けたときはクラスメイトだけでなく学校中でも話題になったものだ。無論両親に至っては一人娘の一大大事とばかりに、あれやこれやと手を焼いてくれたものだがそれもいっときの事ばかりで、今は何も語らぬ娘に何と困ったものだろうと時には腹を立てることもあった。彼女の方もそんな両親の怒りを知らないわけではなかったが、とはいったもののここ最近はその怒りを隠すことすらしなくなってはいたが、何分どうしようもないという気持ちが強かったために彼女自身から格別両親に何かをするということもなかった。

さて、前述諦めがついたと書いたが果たして彼女が何もしていなかったのかというとそうではない。彼女自身この部屋を出たいという意思はあった。そこで毎日起きては戸の前に立ちドアノブに手を伸ばしてみてはいた。半ば諦めの気持ちはやはりあるわけですから、いわばこれは生活習慣の一つと言えた。それでも万に一つという可能性に彼女がまだほんの少しの希望を持ってなかったわけではないが。

ドアノブに前に立つと彼女は部屋の空気が重くなるのを感じた。寒いとさえ彼女は感じた。仮に私や読者諸君がこの場に立っていてもこの空気を感じることはできないだろう。実際、部屋に変化は無いのだからこれは彼女自身が感じているイメージだった。だが確かに彼女はそれらに恐怖していた。薄暗い部屋はより一層暗くなり、埃っぽく感じる。息が苦しい。ドアから嫌に涼しい風が吹きつけて頬を撫でる感覚を覚える。防波堤の上から水底を覗くといつも見ている海の深さの底知れなさに恐怖するように、彼女はこの部屋の居心地の悪さに吐き気を覚える。どうして私が、、、。恐怖を圧し殺して彼女はドアノブへと手を伸ばす。1cm、2cm。すぐそこにあるドアノブが遥か彼方のように思える。すると目の前のドアノブがぐにゃりと歪んだ。非現実。歪んだドアノブに一筋の亀裂が入る。いや、一つでは無い。気がつけばドア全体に無数の小さな亀裂が入っていた。そしてその一つ一つの亀裂が開いたかと思うとそこに、見給え、そこに人の目や口ができていくではないか。まさに異形。彼女は小さな悲鳴をあげて尻もちをつくように倒れ込んだ。

見上げるとそこにはいつもの戸があるばかりである。




加古川結月がここY県S市の市立小学校に転校してきたのはおおよそ1ヶ月前のことだった。転校初日の挨拶は今でも語り種で、特に私は霊能者ですなどと宣った時は、一瞬でその立ち位置を確立してしまった。長いストレートの黒髪ややタレ目で細身の彼女をサダコだなんて馬鹿にする男子も居たが、何分彼女が否定するわけでもなく、かと言って躍起になるわけでもなかった為に次第に飽きられていって今では一人でいることの目立つ子になってしまった。そんな彼女に飯島良子が積極的に近付こうとしているのにはある魂胆があったからだ。飯島自身、友達が多い方ではなく、かと言って孤立しているわけでもないが、だから一人でいることの多い加古川に近付いたのかと言われればそうでもない。飯島にはある悩みがありそれを真面目に捉えてくれるのは加古川だけだという確信があった。飯島自身やや恥ずかしがり屋な面もあったので、ここでは深く語らないが紆余曲折を経て、まさに今日、飯島は黒いセミロングの癖っ毛を恥ずかしそうに指先で遊ばせながら、大きな丸い目を上目遣いにして加古川と一緒に帰路につく約束へとこぎつけたのだ。


二人の歩く並木道は、少し前までは桜がその存在感を思う存分に披露していたものだが、今ではすっかり緑一色といった程で、ややスローペースな歩幅をとりながら、加古川は緑の桜も綺麗だなと季節の節目を感じていた。そうして遠くを見つめて歩く加古川を横目に歩く飯島は、加古川に神秘的なものを、あるいは大人っぽさとかそういうものを感じていた。二人の間をぬける風は暖かく、優しかった。飯島はふとさっきのことを思い出す。飯島が加古川を誘った時、加古川はにっこりと笑って二つ返事で快諾してくれた。霊能者だ、なんて日頃言っている彼女であったが、そこには暗さや重苦しさはなく、心はまるで今の季節のように温かい人だと飯島は思った。幾許か歩いたところで飯島は口を開く。

「5年生になったら授業難しくなるかもって思ってたけど、そうでもないよね」

それを聞いて加古川は飯島の顔をじいと覗き込んだ。

「飯島さんはもっと他に話したいことがあるんじゃない?」

そう言った加古川から飯島は目線が外せなかった。まさにその通りであった。飯島の歩みが止まる。なんとなく見透かされた感じが嫌に恥ずかしく飯島が次の言葉を喉まで持ってくるには1分程の時間を要した。思えばこう言うところだなと飯島は改めて思った。前述のことしかり、彼女にはやはり大人っぽさというものがある。それは小学5年生の彼女が年の割に落ち着いているように見えるとか、衣服や所持品の趣向が他の人より落ち着いているというとかそういうものではなく、いや実際にはそうであることも間違いではないのだが、ともかくこの一月ほどの間に飯島が彼女に接するにあたって、まるで大人の女性、いや、母親と話しているのではとさえ錯覚する節が多々あったのであった。ですから、加古川が転校してきて一月、未だクラスメイトにも仲がいいと言える相手がいないのは、一重にオカルトマニアな所というわけではなく、そのような点からも起因しているものだと言って相違ない。現に今も言葉が詰まる飯島を、加古川は相手を慮って静かに次の言葉を待っている。その気品とでもいうだろうか、その何かを飯島は感じ取っていた。

「加古川さんってさ、これから時間ある?」

「うん。あるよ。どうしたの?」

加古川の心配そうな顔。飯島は並木道にあるベンチに目を止めると立ち話もなんだと加古川を促した。加古川は素直に応じるとベンチの上を軽く手で払って見せた。飯島も座りながら話を続ける。

「香久山さんって知ってる?」

「なんて言えばいいのかな?引き篭もりの子だよね」

顔は見たことないよ、と加古川は付け足した。香久山美奈子は飯島や加古川のクラスメイトではあったが加古川が転校してきた時分にはもう彼女は学校には顔を見せなくなって数カ月といった程だったので、加古川も香久山の顔を知らないどころか、その名前を風から聞くということも無いような状態だった。ですから、加古川自身、意図して香久山の存在を聞くともなく聞く程で留めていたのである。ただ、飯島にとって香久山は無二の親友であったといえたという点と、今でも学校で配布物などは飯島がすすんで香久山に届けているという点は加古川も把握していた。そこで加古川は、プリントとか毎日届けてるよね、と飯島にいった。うん、と飯島は頷く。

「今日さ、付き合ってくれない?届けるの」

これには加古川はやや驚いた。先程飯島はすすんで香久山の世話役を買っていると記したが、実際これはどちらかというより飯島が他の人に任せたくないといった感じだったと言えるからである。先日も他のクラスメイトが飯島に付き添おうかと提案したところ、直接否定するわけでこそないが飯島が遠回しにそれを拒み、結局一人で行くということになったと言う所を加古川は目撃していた。それ見て加古川は、飯島に親しいと言える友人が少ないこと、香久山が見たことすらないが大変人柄がよく人気ものだと聞くことから、一種独占欲みたいなものかと納得していた。

「良いけどめずらしーじゃん」

と加古川。いつも一人で行きたがるじゃん、いい子ちゃんぶりっこ?と茶化してみせた。飯島も違うって!と恥ずかしそうに否定する。

「実は黙ってたんだけどね、みなちゃんが引き篭もってる理由、アレっぽいんだよね」

恥ずかしそうにそういう飯島の言葉の端は風になびく葉音に消えそうであった。飯島の顔がやや赤くうつ向いて上目遣いになる。みなちゃんとは香久山美奈子の愛称である。

「アレって、あっ、幽霊とか?」

信じてくれてたんだ、と加古川は意外そうに驚いて見せた。まあねと言う飯島は相変わらず恥ずかしそうにしている。本人が言ってたから、と飯島は付け足した。

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