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2 無理なものは無理じゃー

「はぁ……えらい目にあった」


 俺は町の中を歩きながらうなだれた。


 やはりというべきか、俺がぶっ飛ばした馬車は盗賊団のものだったらしく、さらにそこに積んでいた荷物の量がこれまでで最大級のものであった。故に俺はやじ馬やら、途中で現れた騎士団やらから、勲章だの握手だの迫られまくり、命からがら逃げてきたのだ。


 魔王の俺が、人間に褒められるなどあってはならない。逃亡もそれゆえである。しかし、



 ――人間と和気あいあいするのも、悪くない。



「……はっ!?」


 思わずそんな思考がわいてしまい、俺はブンブンと頭を振って忘れようとする。


 俺は魔王! 俺は人間の敵! そして俺はいつか、人間の勇者に討たれるものだ!


 人間と交友を深めるわけにはいかない。例え一度、人間の勇者に敗れていようが、俺が魔王であることは変わらないのだから。


「我、魔王……。ニンゲン、クウ、マズイ」


 晴天のもと、人通りの多い大通りで、俺はブツブツと不貞腐れながら歩く。


 蘇ってからは姿形だけでなく服装も変わっていて、ジーンズに白Tシャツという、まさに庶民的な服になっていた。


「あ、あの!」


「む。なんだ、人の子よ」


 歩いていたら声をかけられた。女の声だ。俺はさっきまでのウダウダを吹き飛ばし、女の姿を見ることなく低い声でそれに答える。

 俺は魔王。いかなるときも、威厳を忘れてはならない。


「さっき、盗賊団の馬車を吹っ飛ばしてた方、ですよね?」


 盗賊団(同志)の馬車、と聞いて俺の心は微妙に痛んだ。慌てて胸を押さえる仕草をするも、そもそも俺に心臓はない。


「ふぅむ……間違ってはないが」


 そして俺は声をかけてきた女の姿を見る。

 金髪の長い髪。瞳と同じ青色で先端に丸い水晶がついている杖を持っていた。


 俺が目を引いたのは何より、


「……なんだ、美人局(つつもたせ)というやつなのか?」


「……へ?」


 大きな胸を強調しているかのような胸元を露出させる白い服に、かなりきわどい短さの白いミニスカート。

 俺はそれを見て、部下のサキュバスが喜びそうな服だなあ、と思った。今頃彼女はどうしているだろうか。


「ちっ……! 違いますよ! なんですか、美人局って!」


 俺の発言に、何とは言わないが大きなものと長い髪の毛を揺らしながら怒る彼女。俺はそれに屈せず、話を続ける。


「……で、俺……じゃない、我に何のようだ?」


「……まあ、いいです。でも一応言っときますが、美人局じゃないですからね!」


 腕を胸の下で組んで、未だにちょっと怒っている彼女を俺は凝視した。

 あんなふざけた格好をしているが、こいつは人間にしては中々の魔力を持っている。持っている杖からして魔法を専門に扱うクラスなのだろう。


 そんなことを考える俺のことなど知らず、その女は口を開く。


「私はリリィと言います。さっき、貴方が呪いにかかっているとお聞きしたので、解呪できる人を紹介してあげようと思い、声を……」


「なに!? 本当か!?」


 彼女――リリィが言い切る前に、俺は彼女の露出した肩を掴んで、ぐいっと顔を至近距離まで近づけた。

 これが本当なら、俺にかかっている『何かの行動を抑制する呪い』が解けるかもしれない。俺が魔王として返り咲けるかも。


「ち、近いです」


 興奮する俺とは対照的に、リリィは顔を赤らめながらも冷静に俺の顔を両手で遠ざける。

 俺としたことが、まさかのツテに興奮しすぎてしまったようだ。


 俺は後頭部をかきながら笑う。


「すまぬ。つい嬉しくてな。紹介してくれるならよろしく頼む」


「むぅ……。いいですけど、むー……。まあ、行きましょうか」


 未だに顔をうっすらと赤くし、どこか納得のいかなそうなリリィに連れられて、俺は呪いを解呪できるという人物へ会いにいったのだ。



 そして、


「なに!? 貴様の仕事は呪いを解くことではないのか!? 俺はそのために来たのだぞ!」


「知らぬわ。無理なもの無理じゃー」


 リリィ曰はく『王国最高峰の解呪ができる祈祷師』に診てもらった結果、解呪は不可能であるという、厳しい現実を見せつけられた。


 その場でうなだれる俺に、リリィは苦笑いを浮かべて優しく肩を叩いたのだった。

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