表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不落の城

作者: 満腹貴族

ゴッ、ゴッ、と鈍い音が響く

周りは既に闇に落ち、時折薪のはぜる音が聞こえる

焚火の傍の木には、若い男が括り付けられていた


「なぁ、いつになったら自分の立場を理解するんだ?

俺等はお願いしてる訳じゃねぇんだよ。命令してるんだ。

逃げた奴隷どもはどこへ消えたんだってよぉ!」


そう言うと棍棒を振り上げ、目の前の男に振り下ろす

ゴキッ!とひと際大きな音が鳴り、若い男は白目をむいて気を失った


「…ちっ!気絶しちまいやがった!仕方ねぇ、また明日たっぷり聞くとするか。

死なれても困る。おめぇら!止血だけしとけ!」


肩を怒らせてテントへ向かう男は奴隷商だった

そして殴られていた若い男は彼の所有物


若い男には特別な力があった

彼は目が見えない

その代わりに魔力の粒子が見えた

この世界は、全てのものに魔力が宿る

男は魔力の粒子を見る事で色んな物が見えたのだ

魔術の適性はもちろん、人の心理や病気の有無

そして、自分が知る魔力を持つ者がどこで何をしていたのかまで

奴隷商はその力を使い、今回逃げた奴隷達を捕まえようとしたのだ


ピチャッ、と男の頬に濡れた物が押し当てられた

とても優しく頬を拭ってくれる感触に痛みが引いていくように思えた

意識を取り戻した男は目を開ける

見慣れた魔力

それは奴隷の少女だった


「ひどい傷…すぐ手当てしてあげるからね」


他の奴隷たちが逃げ出し、広くなった馬車の中で少女は男の手当てをする

そうしているうちに男は再び眠ってしまった


少女は思う

何故この青年がこんな目に合わなければならないのかと

青年は優しかった

子供の奴隷の世話をし、怪我をした者がいれば手当をした

いつも自分を気にかけてくれた

青年はその特異な力のせいで捕まったと聞いた

彼は魔物の位置が分かった

水場の場所も分かった

食料のある場所も分かった

そして人間の場所も


今まで何度も逃げた奴隷の追跡や珍しい人種の集落の索敵などを強要された

しかし青年は今まで素直にうなずいた事は無かった

人を不幸にするくらいなら殺して欲しいと言った

しかしその度に奴隷商は小さな子供達を人質に取り、青年に言う事を聞かせていた


今、この場には自分と青年しかいない

次は自分の番だ

青年を思い通りにするための足かせにされるのだ

嫌だ、そんなのは嫌だ


するとギィッと音を立てて馬車の扉が開いた

少女は慌てて寝たふりをした

見回りだ

少女はこっそりと様子を窺った

少女は既に決断していたのだ


確認を終えて馬車の外に出ようとしたその時、少女は毛布を手に走り出し見回りに来た男を押し倒した

少女は男の腰のナイフを引き抜き、胸に突き刺した


その手を汚してでも青年を救う事を


うぐっ、と籠った声が聞こえた

しかし即死には至らなかった

男は血をだらだらと流しながら剣を引き抜き少女を睨み付けた

その血走った眼に、少女は恐怖を覚え後ずさった

男は距離を詰めると少女目掛け剣を振り下ろす

しかし深手を負っていた男の剣は少女の命に届くことは無かった

男の剣は少女の右脚を深く深く切り裂いて、男は力尽きた


血だまりの中放心していた少女に優しく手が添えられた


「ありがとう」


青年は少女を強く抱きしめ、そう呟いた


青年は手早く少女の応急処置をした

傷の深さから二度と少女の右脚は動く事が無いと分かっていたが二人とも何も言わなかった

ただただここから逃げ出そうと

二人でどこか遠い所に逃げようと言った


魔力の粒子が見える青年にとって暗闇は障害にならない

木にぶつかる事も魔物に見つかる事も無く森を抜けた

しかし青年はその能力のせいか身体が弱かった

怪我人を連れての旅ではすぐに息が上がり歩みは遅い

気ばかりが焦っていたそんな時、二人は壊れた城を見つけた

戦争でもあったのか城壁は崩れ、門は壊れている

疲れ果てていた二人は城に入り、泥の様に眠った

ほこりだらけでとても綺麗では無かったがまともなベッドで眠ったのは久しぶりだった

城が放棄されたのは最近だったのか、少しばかりの包帯やいくらかの保存食も見つけた

それらで治療と食事をし、一息ついていると青年が立ち上がった


「……来る」


青年は追手の気配を感じ取っていた

手にはあわてて持ってきてしまった一振りの剣がある

能力で心理を読み相手の行動が分かっても、相手の姿も何も見えない自分が戦えるとは思えない

しかし、自分を命がけで救ってくれた少女を救いたい

青年は剣を抜く

その手を少女はそっと取った


「その剣は私が振るう。貴方に手は汚させない。」


驚いた青年は反論する


「もう君が傷つく必要は無いんだ。ここからは俺に守らせてくれ。」

「いいえ、貴方は私が守る。あの夜にそう決めたの。だから貴方は私のするべき事を教えて。

全てを見通せる貴方だからこそ出来る事。」


そして敵はやってきた、少女の血を辿って


入り組んだ城の通路の曲がり角

青年の指示したタイミングで少女は剣を振るう

何度も何度も何度も

相手に剣を抜かせる事無く殺していく

一人、また一人と

そして、城には二人以外に生きている人間はいなくなった


何度も奴隷商は追手を送ってきた

自分の部下を、雇った人間を

何度も少女は剣を振るった

その度に振りは鋭く、巧みになっていった


青年もまた何度も相手の心を見る事でより正確に読み取れるようになっていった

攻撃の軌道はミリ以下で判断でき、思考すら読み取れた


いつしか追手は来なくなり、二人の事が忘れ去られた頃

二人は初めて重なって眠りについた



噂があった


この大陸には不落の城がある

何度もその城に軍が送られたがそのことごとくが打倒された

その城の城主は目が見えず、ただ一人の騎士は歩く事も出来ないのだと


崩壊した城に二人の冒険者がいた

噂の城を探索するために


「ここが噂の”不落の城”かぁ。ボロボロじゃないか。」

「これじゃあお宝は見つからなさそうね。」


城には至る所に人間の骨があった

そのすべてが剣や斧、弓や槍を持って武装していた


「もしかすると不落のってのは本当なのかもな。」


城を隅々まで調べ、二人は玉座の間へ辿り着いた

重い扉を二人で開けるとそこには大きな玉座だけがあった


二人はゆっくりと玉座に近づく

そこには男女の物と思われる二体の白骨化した遺体があった


それは男が女を抱きしめる様で

ここは二人の空間なのだと感じた

二人はゆっくりと扉を閉じた



噂があった


この大陸には不落の城がある

何度もその城に軍が送られたがそのことごとくが打倒された

その城の城主は目が見えず、ただ一人の騎士は歩く事も出来ないのだと


そして城主と騎士は愛し合っていたのだ、と

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 不思議な雰囲気の話ですね。結構好きな感じです。 ストーリーだけ見るとハッピーエンドとは言いがたい展開の筈なのに、読後感は特に悪いものはありませんでした。 なぜなんだろうと思ったのですが、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ