二度目の人生開始
初投稿
お手柔らかに
「__マジかよ......嘘だろ」
それが、二度目の人生で最初に発した言葉である。
いや、実際にはそう完全には発音できなかったかもしれない。
何故なら、自分が赤子になっていたからだ。
自分を取り上げた助産婦が、驚愕の顔で固まっている。
抱きかかられたままの俺の顔を見て、次にふと視線を上げて周りを見回す。
首が座っていないからか、視線を追うことはできなかったが、感じからして俺を産んだ母親や他の助産婦だろうか。反応を見ることはできないが、この場が静まり返っている以上、たぶん目の前のこのおばさんと同じ顔をしているのだろう。
見える範囲、木製の天井に、奇抜なデザインの服を着るおばさんと、血塗れの俺。少ない要素だが、どれひとつ見覚えなく、身に覚えもない。
何が起こっているのかさっぱりだ。
少し、気まずい空気である。
確かに産まれたばかりの赤子が泣きもせず、冷静に周囲を観察しているのだ。当然の反応と言える。
そこで、俺を抱き抱えていた助産婦が歩きだし、ぎこちない笑顔をつくってベッドに座る女性へと俺を差し出す。
状況からして母親だろう。なにしろ見えた範囲で一番顔を引き吊らせているのだから。
「あー、そのー。はじめまして」
あまりにも気まずくなってつい挨拶してしまったが、それが失敗だったことは目に見えて分かった。先程よりも険しい顔つきになってしまったし、落とさずにはいてくれるが、できるだけ遠ざけようとしているのがわかる。
そんな空気を和ませようにしたのか、誰かが上ずった声で言う。
「お、おめでとうございます!元気...そ、聡明な『女の子』ですね~!」
___聞き捨てならない単語が聞こえた。
『女の子』?
いやいやいや、そんなまさか...。
そう思いつつも右手で股間を探ってみる。
三十年以上の付き合いで、訓練ばかりで一度も実践経験のない新品の相棒が___ついていなかった。
いつものポジションに、相棒が、まさか出てくるときにはぐれたか?
いや、え?
いやいや、...え?
まだ一回も使ってないのに、まあ、使う予定もなかったけども。
ロストですか?
「マジかよ...嘘だろ...」
俺はきっと、この時の母親の顔を一生忘れない。
お目汚しでした。
すみません。