手がかりを求めて
◇ ◇ ◇
突然の発表から、2週間ほどが経過した。
あれからガレル達はまさにやりたい放題をやっている。
座学の授業のほとんどが廃止され、それに変わって実技演習がメインになった。
テストの方式も変更され、完全な実力勝負となり、ギルの時とは違って、いつけが人が出てもおかしくない、かなり荒っぽい試験になる。
学園長と副学園長がどこにいるのか、それすらも分からない。学園内には目に見えるほどの混乱が漂っていた。
「アルフ先生、何とかしてくださいよ!」
「なんとかって言われもな....手がかりも何もないしな」
ニーナは俺の腕を掴み、しきりに訴えかけてきた。
「母が不当に拘束されているんですよ!こんなの横暴だとは思いませんか!?」
「そりゃ思うけど、今の俺にはどうにも...」
2週間も母が目の前から消え、連絡もなければ心配にもなる。その気持ちはよくわかるが、俺にはどうすることも出来なかった。
俺とニアが何度エリーゼに頼んでも、解放はおろか情報すら公開しない。彼らが今どこにいるのかも分からない状態だ。そのため面会も出来ない。
エリーゼはただニコニコして、やんわりとそのこについて謝るだけだった。
そうしている間に学園の細部はどんどん変更されていき、もはや学園が学園ではなくなっていった。
俺たちのクラスだけでなく、他のクラスも同じように授業が実技メインになったため、ここはまるで軍事学校のようになっていた。
皆が皆が攻撃魔法を四六時中放ち、学園には度々爆音が鳴り響く。
度重なる戦闘訓練により、生徒や俺たちのような下っ端の教員の中にも負傷者が多く出ているような状況だった。しかし衛兵たちはそんなこと気にもとめない。
その様子を見ていると、衛兵が軍人より軍人らしく見えた。
エリーゼもその一人だ。普段、学園の理事をこなしながら、演習にも参加する。そして圧倒的力で生徒をねじ伏せ、叩き直していく。
やがて彼女の元には頑丈で優秀な生徒だけが残った。あとはその残ったメンバーで鍛えさせるのみ。彼女の理念もまた、ほかの衛兵と同じ『実践あるのみ』のようだ。
エリーゼのいわゆる『蠱毒』により、生徒たちもたちまち変化していく。猛々しく吠え、心做しか、情緒が不安定になっているようにも見えた。それはまるで何かの魔法にかかっているようだった。
しかし実践面において、彼らの魔法の上達は著しかった。
「あんなの絶対おかしいですって!みんな様子が変ですし....」
ニーナは不安げにそういい、俺の部屋の茶菓子を手で弄んでいた。
「この学園は学園長の魔法で維持されているんだよな?」
「そうですよ?」
「ならこの学園内に必ずいるってことか?」
「そういうことですね.....。ただこの学園には謎が多すぎて、私でさえ把握しきてれていません」
「なんでもいいから、何か心当たりはないのか?」
学園長には、ゼロの件で大きな借りがある。出来ることなら助け出したい。そのためならやはり多少のムリは必要かもしれない。いつまで恐れていては、やがてこの学園は崩壊する。
「心当たり、ですか.......。一つだけあります...。」
「あるのか!?」
予期していなかった反応に思わず身を乗り出す。
「ちょっ....!先生!?顔が近いです....!」
ニーナの指摘で俺は顔を近づけすぎたことに気づき、姿勢を正す。
その瞬間、隣の部屋から壁を数回強く叩く音が聞こえる。
隣の部屋では今、ゼロの試験対策用にレーネが魔法を教えていた。今の様子だとだいぶ教えるのに熱が入ってるらしい。
「それで、心当たりってのは?」
「母に絶対に入るなって言われてた場所があるんですよ」
「怪しいなそれは。........行ってみるか」
「早!?というかだ、だめですよ!?守りが厳重ですし、そもそも私たちに入る権限が.....」
「学園長がいない時に、権限もクソもないだろ」
急に少しの望みが見えて、熱くなるのが自分でわかった。相手に何度問い合わせても返事が来ないなら、こっちから行くしかない。
「まあ......そうですけど.....」
ニーナは一瞬困った顔をした後、顎に手を当て、考え込んだ。
そして答えが出たようで俺の方をもう一度見た。
「非常事態ですし.......母も許してくれる気がしてきました」
「よし、決まりだな」
「でも少し怖いです....」
「大丈夫だろ。別に化け物がいる訳でもないんだし」
「ううぅ......」
ニーナは母親の言いつけを破るのが相当に嫌らしく、まだ躊躇いがあった。
俺はそこ無理やり押し切る。
「何とかしろって言ったのはそっちだろ?」
「それはそうですけど....勝手に入るのはどうかと.....」
「大丈夫だ。もし何かあっても、どうにかして俺の首だけで収められるようにするから、何も心配する必要はない」
「それが困るんですってッ!!とにかく!アルフ先生がここを辞めるなら、私も退学します。それが今回そこへ行く条件です」
ニーナは怒ったように頬を赤らめ、俺にその強引な条件を押し付けてきた。久しぶり怒ったニーナを見たかもしれない。
「分かったよ」
口ではそう言いながらも、ニーナを退学させる気など微塵もなかった。学園長を取り戻す代わりに、その娘を失っていたら、本末転倒だ。ただここでそれを呑まなきゃ、ニーナはその場所さえ教えてくれないだろう、と咄嗟に判断したのだった。
翌朝、俺達はニーナと待ち合わせて学園へと向かった。




